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13話 非礼
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ぼんやり… 考え事をしながらとぼとぼと歩くうちに、アディはデスチーノが泊まる部屋の前まで来てしまった。
ここまで来てアディは、何の理由も無く訪ねるのはおかしいと気付き… ぐずぐずとデスチーノの部屋を訪ねる理由を考えた。
<や… やっぱり… "昨夜はいきなり、部屋に忍び込んですみませんでした" かなぁ?>
「うんっ! やっぱりそれだね」
扉の前でノックをするために、小さな拳を上げてブツブツと独り言をつぶやいた。
コンッ… コンッ… コンッ… コンッ… 扉を叩き、室内からの応答を待つ。
その間に、アディは自分の服装を急いで整え直し、顔にはニコリッ… と微笑みを張りつける。
カチリッ… と扉が音を立てて開き、相手が現れた。
…が、相手はデスチーノではなく、アディの知らない男だった。
「・・・はっ!?」
<ええ―――…っ… 誰?! 部屋を間違えたかなぁ? うわっ、どうしよう!! えええええぇ~っ?! あれぇぇぇ~っ?!>
アディ自身がいつも、この手の小さな失敗を、数限りなく繰り返しているために、自分が部屋を間違えたのだと、疑わなかった。
出て来た相手の顔を、アディが知らなくても、相手の方はアディを知っているらしく、丁寧にお辞儀をした。
「これは御令息様、ジェレンチ公爵様は只今お着換え中でして… 宜しければ、私がご用件を承ります」
「はぁっ!? こ… これは失礼しました、私の方こそ突然来てしまって、あ… あの… その… ええっとぉ…?」
今、目の前にいる男は、ジェレンチ公爵家の使用人で、デスチーノの従者なのだと、アディはようやく気が付いた。
相手が誰か気付いたところで、扉の向こうからデスチーノ以外の人間が顔を出すなどと、考えもしなかったアディは… 動揺でしどろもどろと、何を話せばよいのか? どんな言い訳をすれば良いのか? 頭から完全に抜けてしまい、慌てるばかりだった。
そんなアディの返答を、デスチーノの従者は辛抱強く待ち続ける。
「どうしたのだ、カディラ?」
室内からデスチーノが顔を出し…
「あっ… デスチーノ! あ、あのぅ… 僕は、ええっとぉ… 昨夜は失礼をしました! そ… そのお詫びがしたくて… ええっとぉ…?」
あまり器用な質ではないアディは、嘘も上手く言えなかった。
前夜、デスチーノの誘惑を成功させることが出来たのは…
アディにとってデスチーノは、本当に抱かれたいと願っていた憧れのアルファで、嘘偽りよりも、気持ちの中に真実の部分が多く含まれていたために、起こせた奇跡だった。
「ああ、アデレッソスだったか… 大したことでは無かったのだから、気にせずとも良いのに」
昨夜の親しみやすい、デスチーノではなく…
ジェレンチ公爵そのものと言った感じの、威厳たっぷりの態度に、アディはさっと顔を青ざめさせた。
<あああっ!! 僕はなんて失敗を、従者の前で公爵閣下を気安く名前で呼ぶなんて!! そうだよ、昨夜は"ベッドの中では"と言われたのを忘れていた―――っ…!!>
腰を直角に曲げて頭を下げると、アディは涙目でもう一度、今度はしっかりと、自分の非礼を謝罪した。
「本当に、申し訳ありませんでした!!」
ここまで来てアディは、何の理由も無く訪ねるのはおかしいと気付き… ぐずぐずとデスチーノの部屋を訪ねる理由を考えた。
<や… やっぱり… "昨夜はいきなり、部屋に忍び込んですみませんでした" かなぁ?>
「うんっ! やっぱりそれだね」
扉の前でノックをするために、小さな拳を上げてブツブツと独り言をつぶやいた。
コンッ… コンッ… コンッ… コンッ… 扉を叩き、室内からの応答を待つ。
その間に、アディは自分の服装を急いで整え直し、顔にはニコリッ… と微笑みを張りつける。
カチリッ… と扉が音を立てて開き、相手が現れた。
…が、相手はデスチーノではなく、アディの知らない男だった。
「・・・はっ!?」
<ええ―――…っ… 誰?! 部屋を間違えたかなぁ? うわっ、どうしよう!! えええええぇ~っ?! あれぇぇぇ~っ?!>
アディ自身がいつも、この手の小さな失敗を、数限りなく繰り返しているために、自分が部屋を間違えたのだと、疑わなかった。
出て来た相手の顔を、アディが知らなくても、相手の方はアディを知っているらしく、丁寧にお辞儀をした。
「これは御令息様、ジェレンチ公爵様は只今お着換え中でして… 宜しければ、私がご用件を承ります」
「はぁっ!? こ… これは失礼しました、私の方こそ突然来てしまって、あ… あの… その… ええっとぉ…?」
今、目の前にいる男は、ジェレンチ公爵家の使用人で、デスチーノの従者なのだと、アディはようやく気が付いた。
相手が誰か気付いたところで、扉の向こうからデスチーノ以外の人間が顔を出すなどと、考えもしなかったアディは… 動揺でしどろもどろと、何を話せばよいのか? どんな言い訳をすれば良いのか? 頭から完全に抜けてしまい、慌てるばかりだった。
そんなアディの返答を、デスチーノの従者は辛抱強く待ち続ける。
「どうしたのだ、カディラ?」
室内からデスチーノが顔を出し…
「あっ… デスチーノ! あ、あのぅ… 僕は、ええっとぉ… 昨夜は失礼をしました! そ… そのお詫びがしたくて… ええっとぉ…?」
あまり器用な質ではないアディは、嘘も上手く言えなかった。
前夜、デスチーノの誘惑を成功させることが出来たのは…
アディにとってデスチーノは、本当に抱かれたいと願っていた憧れのアルファで、嘘偽りよりも、気持ちの中に真実の部分が多く含まれていたために、起こせた奇跡だった。
「ああ、アデレッソスだったか… 大したことでは無かったのだから、気にせずとも良いのに」
昨夜の親しみやすい、デスチーノではなく…
ジェレンチ公爵そのものと言った感じの、威厳たっぷりの態度に、アディはさっと顔を青ざめさせた。
<あああっ!! 僕はなんて失敗を、従者の前で公爵閣下を気安く名前で呼ぶなんて!! そうだよ、昨夜は"ベッドの中では"と言われたのを忘れていた―――っ…!!>
腰を直角に曲げて頭を下げると、アディは涙目でもう一度、今度はしっかりと、自分の非礼を謝罪した。
「本当に、申し訳ありませんでした!!」
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今回の名前はブラジル・ポルトガル語にお世話になりました。アデレッソス→アクセサリー、デスチーノ→行き先、ジェレンチ→支配人、コンプラ―ル→買う、エントラーダ→入口、ヴィードロ→ガラス、トルセール→応援する、フーア→街路、 ラテン系の単語は何となく色気があって素敵ですよねぇ~☆彡
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