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28話 王太子ラティゴ

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 ガロテとラティゴの双子は珍しい紫の瞳と、鮮やかな赤い髪を持つ容姿がそっくりな兄弟だった。
 育った環境や、それぞれが取り組んできた専門分野の、魔法剣士と魔導士の違いのせいで… 体格はラティゴのほうがすらりと細身だ。
 だが身長差はほとんどなく、2人ともかなりの長身である。


「顔… 顔がそっくりだから… フェロモンもそっくり?」
 なんとなく持っている印象が違うけど… 本当に顔はそっくりだ! それに声も… 話し方が違うけど…!

 目の前の美丈夫びじょうぶガロテと、美形イケメンアルファをならべて見ても、やっぱりヒラソルは混乱していた。

「フェロモンもそっくりだから、肉体のつくりもそっくりなんだ」
 ヒラソルの言葉にラティゴが付け加える。

「ええっとぉ… 身体を構成する… 要素? ですか?」

「つまり、アルファの双子のどちらか1人とつがいになれば、双子のどちらとも実質的… いや、肉体的につがいとなったことになる! だからお前は、私とも、弟ガロテとも… どちらに抱かれても拒絶反応は起こさず死ぬこともない!」
 ラティゴはニヤリッ… と笑って、ガロテのひざで抱かれるヒラソルのあごをくすぐるように指先でなでた。
 ガロテはビシッ…! とヒラソルに触れるラティゴの指をたたき落とす。

「2… 2人が… つがい…ですか…?!」
 死なないのは良かったけれど… この場合、僕は… どうすれば良いの?! えええ~…???

「それでヒラソル… お前は私とラティゴ… どちらが『しんつがい』だと思う?」
 それまで黙っていたガロテが、すごい圧力をかけながらヒラソルにたずねた。

 ビクッ…! とヒラソルは圧の強さにおびえ、ガロテのひざの上で震える。

「あ… あの… それは…」
 だって僕は勇者のガロテ様との結婚は、身分違いだからあきらめて、田舎に帰るつもりだったし…? 

「ヒラソル… どちらを選ぶ?! 私か? それとも弟のガロテか?」
 すごく怖い顔でラティゴもヒラソルにたずねた。

 どちらも迫力はくりょくのある双子の兄弟に迫られ、ヒラソルはゴクリッ… とつばをのみ込む。

 ヒラソルはラティゴに、おずおずとたずねた。

「今さらですが…… あなたは誰ですか?」
 でも、こっちのお兄さんとなら、結婚できるかな…? あっ、そう言えば… うなじをむ前に僕を愛人にすると言っていたから、やっぱり無理か! 

 ブフッ…!! とガロテがヒラソルの頭の上で吹き出した。

「あはははははっ――…!!!! ラティゴが誰だって?! くっくっくっくっ… ヒラソル、お前は本当に可愛いな?! 増々気に入ったぞ! オレのことも勇者だと知らずに、口説いて来たしな?!」
 なぜかガロテは、ゲラゲラと爆笑しながら… 自分のひざに抱くヒラソルをぎゅうぎゅうと抱きしめ、顔中にキスの雨をふらす。

「なななっ… そっ… それは… ガロテ様…?!」

「ヒラソルに教えてやれよ、ラティゴ!」
 ゲラゲラと笑いながら、意地悪な顔でガロテがラティゴを揶揄からかう。
 
 飄々ひょうひょうとした態度で何を考えているのか、わからなかったラティゴが、しぶい顔で愚痴ぐちらしきものをこぼした。

「私が『誰だ?』とたずねられたのは、初めてだぞ? ヒラソル…」

「え?! す… すみません…! でも、本当にあなたが、どこの誰だか僕にはわからなくて…?!」
 そうか! ガロテ様のお兄様なのだから… やっぱり有名な人なのかな? もしかしてドラゴン討伐とうばつに参加した、魔導士様とか?

 フゥ――――ッ…… とラティゴは大きなため息をつくと… また、ガロテが爆笑する。
「あははははっ――!!!」

「あ… あの?」

「ヒラソル… ラティゴは王太子殿下だよ!」
 大笑いしながら、ガロテが兄の正体を明かす。

「……ひいっ?!!!!!」

 頭の中が真っ白になり、ヒラソルは呼吸をするのを忘れるぐらい驚愕し、心臓は今にも止まりそうになった。





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