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18話 言われてみれば…
しおりを挟む椅子にかけてあったローブを羽織り食事をすませると、ヒラソルは使用人が用意した服の中から、一番地味なものを選んで着ることにした。
地味だと言っても、さりげなくお洒落なデザインで、最高の品質だとわかる、なめらかな手触りの生地で仕立てられた高価な服だ。
そんな些細なことにヒラソルが気づくたびに、尚更ガロテが本当に勇者なのだと実感がわいて来る。
「ああ… どうしよう? まさかガロテ様が、本当に勇者様だったなんて?! ああ… 本当にどうしよう?」
正直、気が重い。 …と言うか、荷が重いよ。
僕としては、うちのデアリバ男爵家と同じぐらい、平凡な貴族の次男、3男の騎士を期待していたのに…? けしてガロテ様に不満がある訳じゃない。
むしろ僕の方があまりにも、家や僕自身のことにしても、格が低すぎて、ガロテ様とはつりあわないと思う…
「僕は最初から、勇者様を狙おうなんて、考えていなかったのに? 別に玉の輿に乗りたいとは思わない」
もっと堅実に、平凡でおだやかな生活を望んでいただけなんだ!
そもそも… 勇者様の妻って何するの?! 一番大切なことさえわからないほど、大きな格差がある。
容姿だって目鼻立ちがくっきりとした、野性味あふれる美丈夫の、ガロテ様とならんで立つと… すごく平凡な僕は見劣りしてしまうし?
貴族が密集する王都へ来てから、ヒラソルは自分よりも、ずっと綺麗なオメガたちを、街中で見ていて… 自分の容姿に自信をなくしている。
それに凱旋する騎士たちが腕に抱いていた、発情したオメガたちも、ヒラソルが目を見張るほど美人ばかりだった。
「僕なんて… 考えれば考えるほど… ガロテ様に相応しくないね?」
ヒラソルの中で1つの結論が出た。
「1人で家に帰ろう…」
ガロテ様の番になってしまったから、僕はもう他の誰かと結婚でしないし。
それに… 運が良ければ、お腹の中にガロテ様の種をもらえたかもしれない。
ガロテ様の子どもを産むかも知れない… と考えるだけで、分不相応という気がするけれど。
一度結べば、『番の契り』は一生、破棄できない契約となる。
オメガは番ができると、番以外は受け入れられなくなるのだ。
無理に受け入れようとすれば、激しい拒絶反応を引き起こし… 高熱を出して死にいたる場合もある。
ガロテの番になったヒラソルは、ガロテ以外のアルファのフェロモンにも反応しなくなり… ヒラソルの誘惑フェロモンも、番のガロテ以外には効きめが無くなるのだ。
「あんなにお世話になっておいて、黙って帰るのはガロテ様に申し訳ないから… 手紙を書いて置いておこう」
瞳に涙がじわりとにじみ、グスッ… と鼻をすすりながら、使用人を呼んで紙とペンを持ってきてもらう。
ヒラソルは紙とペンを持って来た使用人に、自分が今、どこにいるのかをたずねてみると…
「王宮でございます」
「こ… ここは、王宮なのっ?!」
豪華で綺麗なお部屋にいるとは思っていたけれど… まさか、この僕が王宮にいるなんて?!
ヒラソルはまた、顎が外れそうなほど、大きく口をぽか~んと開けた。
…そして、自分がいかに、世間知らずだったかを思い知る。
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