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11話 美丈夫とお湯の中2
しおりを挟む王都へ来て早々に、目的を果たすこともなく、大失敗を次々とやらかしてしまい、ジワリ… とヒラソルの瞳に涙がにじんだ。
「どうしよう…? お父様とお母様に… 何て言おう?」
お婿さんを見つけるどころか… 大きな借金を背負うことになってしまうなんて?! 僕が世間知らずだったから… こんなドジを!!
不注意にも慣れない王都で単独で行動し、路地裏で襲われ気絶した。
そのうえ、見知らぬ美丈夫に裸で抱かれた状態で目覚め、ついでに自分が大きな借金をしてしまったことをヒラソルは知る。
指で少しつついただけで、ヒラソルの心はボロボロと崩れ落ちそうなほど弱ってしまう。
グスッ… グスッ… と鼻をすすりながら、うつむくヒラソルを見て… 美丈夫は苦笑を浮かべてたずねる。
「お前… 名前は何というんだ?」
「僕の名前? ヒラソルです… デアリバ男爵家の1人息子でヒラソルです」
「ヒラソル、治療費はいらないから心配するな」
「え?!」
パッ… と顔を上げて、ヒラソルは美丈夫を見あげる。
「知り合いの魔導士に頼んだと言っただろう? だから大丈夫だ! それにあいつは金を請求しなくても、じゅうぶん裕福だから… こちらが治療費を渡しても、逆に受け取らないだろう」
「本当に?!」
そんな人がいるの?! …でも、高位貴族なら、ありえるのかな?
「心配するな、ヒラソル!」
「ああ… 良かった!」
「ふふふっ…」
ホッ… と胸をなでおろすヒラソルの頬を、ゴツゴツと太い指でなでながら、美丈夫は面白そうに笑った。
「………」
「………」
しばらくのあいだ沈黙が続き… ヒラソルはようやく、自分が置かれた異常な状況について、考えるだけの落ち着きを取り戻す。
「……っ」
そういえば僕は… 裸で知らないアルファに抱かれてる?! こ… この人は、いったい誰なの?!
大人2人が入っても、ゆったりと余裕がある大きな浴槽の中で、チャプンッ… チャプンッ… と湯がはねる音を立てながら、ヒラソルは丸見えだった自分の股間を手で隠す。
本当はピンクにそまった乳首も隠したかったが… そこまで隠すと、逆にかっこ悪く見えて、恥ずかしい気がして我慢した。
「…あ… あの… あなたのお名前を聞いても良いですか?」
うう… 恥ずかしい! 今さらだけど、本当に恥ずかしい! 結婚前に知らないアルファに裸をさらすなんて?!
「オレの名まえ……?」
「はい、教えてください… あ… あなたは僕の恩人ですから…」
も… もしかして… この後、僕はこの人に身体の関係を迫られたりするのかな? でも、強姦魔から助けてくれた人だから、無理矢理はないだろうけれど…?! どうしよう? 迫られたら?!
「……ガロテだ」
美丈夫は少し考えてから、何となく気まずそうに答えた。
「ガロテ様…?」
でも… この人に迫られたとしても、結婚してくれるなら… 僕は身体を捧げても良い… かなぁ~…?
だって、僕を助けてくれた誠実そうな人だし? それにすごく美しいアルファだし…?!
「ああ、父にもらった名はガロテだ!」
「ちなみにガロテ様は、跡継ぎの長男ですか?」
ヒラソルは質問しながら、ガロテを見あげると… 目が合う前にガロテはサッ… と視線をそらす。
「いや、オレは3男だ」
「あの… ご結婚はしてますか?」
「してない」
「婚約者は?」
「いない」
「恋人は?」
「いない」
「………っ!!」
優良物件!!!
ヒラソルの金緑色の瞳が、獲物を狙う鷹のようにギラッ…! と光る。
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