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10話 美丈夫とお湯の中

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 ふわふわと心地良い、温かいお湯の中にいるような… そんな浅い眠りをヒラソルはむさぼっていた。

「んん~…」
 気持良い… おきたくない~ もう少しだけ眠りたい~…

「目が覚めたか?」


「ん?」
 あれ? 聞き慣れないけど… なんだか今、すごく良い声がした… ような?

 チャプンッ… と水がはねる音がすぐ近くでして… 誰かの手がヒラソルのほほを優しくなでて、閉じたまぶたにかかる前髪を払ってくれた。

 ゆっくりとヒラソルは目を開くと… こげ茶色の瞳が心配そうに、上からジッ… と見つめている。
 それも、ヒラソルを見つめる相手はとんでもない美丈夫びじょうぶだ。

 お湯の中でヒラソルは、裸のまま… 同じく裸の美丈夫びじょうぶに抱きかかえられていた。

 
「……っ?!」
 誰?! 何?! えええええぇぇぇ――っ?!

 口をぽか~ん… と開けて、ヒラソルの心も身体も固まった。
 戸惑とまどうヒラソルを見て、美丈夫びじょうぶはニヤリッ… と笑って口を開く。

「お前が路地裏ろじうらで、ゲス野郎に襲われていたのは覚えているか?」

「………っあ!」
 発情したアルファの騎士があらわれて… いきなり僕の服をはぎ取って…… 後は… 覚えていない…?!

 ヒラソルは顔を強張こわばらせる。

「お前はゲス野郎になぐられて、気を失っていたから… オレがゲス野郎をボコって、王宮騎士団に突き出しておいたから、そっちは心配するな」

 路地裏ろじうらで襲われたヒラソルは、身体も服も汚れてしまい、アルマドゥラは自分が入るついでに、一緒に風呂へ入れたのだ。
 幸いヒラソルの誘惑フェロモンは、お湯の中では流れ落ちてしまうため、アルファでもアルマドゥラはまどわされることは無かった。

「ああ… はい」
 なぐられて… 僕は気を失った?! だから記憶が無いの?!

 とりあえずヒラソルはコクリッ… と美丈夫にうなずいた。

「お前は気を失っていたから、その間に知りあいの魔導士の治癒ちゆ魔法で、なぐられた傷は治療した」
 殴られて無残むざんれていたが… 治癒魔法で綺麗に戻ったヒラソルのあごを、美丈夫は大きな手のっとい指で、『痛くないだろう?』…とそろそろとなでる。

治癒ちゆ魔法?!」
 治癒魔法… て、すごく高額なのでは?! だって、魔法を使える人自体が少ないから?! 僕だって、王都から巡礼じゅんれいで来たえらい神官様が、魔法を使うのを1度見たことがあるだけだし?!

 治癒魔法を魔導士に依頼できるのは、裕福な貴族ぐらいで… ヒラソルのような貧乏男爵家では、自家製の薬草を使って治すやり方が主流である。
 治癒魔法の代価で、いくら支払わなければいけないのかと想像すると… ヒラソルは青ざめてぶるぶると震えてしまう。

「大丈夫だ、そんなに心配するな! あざも傷も消えて、お前の顔は可愛いままだ!」
 ヒラソルの動揺を見て取り、美丈夫は安心させようとするが… 動揺の理由を勘違かんちがいした。

「い… いえ、あの僕の顔よりも… 魔… 魔導士様への報酬ほうしゅうをどう支払えば良いのか… わからなくて!」
 助けてもらってなんだけど… 正直、ケガは放置しておいて欲しかった! だって王都へくる旅費だけで、僕の両親はかなり無理をしていたから…?! 去年は領地の作物が不作だったから… ああ、どうしよう?!



 治癒魔法の報酬ほうしゅうとなると、王都までの旅費などとは、比べようがないほど高額になるはずだ。





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