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9話 路地裏のフェロモン2 アルマドゥラside

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 オメガのフェロモンをたどり、アルマドゥラは路地裏ろじうらの奥へ奥へと走った。
 ただってくるフェロモンの濃度が急激に増したところで、いったん足を止めて、耳をすませる。


「うるさい、黙れ! 尻軽オメガが…」
「やめっ… 嫌っ…!!」
 ゴッ…! ゴッ…! ゴッ…! ゴッ…!

 すぐ近くで男の怒鳴り声がした。
 一緒にか細い抵抗の声とともに、アルマドゥラも良く知る、骨肉こつにく殴打おうだするにぶい音が聞こえる。

「あっちか…?!」
 迷路のような細い路地裏を右に曲がると… 木箱が積まれた物陰で、騎士服を着た男が華奢きゃしゃな足をつかみ、持ち上げているのが見えた。

 まっすぐ騎士服の男に向かって走ってゆき、アルマドゥラは問答無用で脇腹をり飛ばす。

「うあぁっ…?!」
 騎士服の男は、無様に自分の性器を引き出したまま、腐臭ふしゅうのする汚れた路地に転がった。

 チラリッ… と視線をうつすと、オメガの少年がうつ伏せで下衣かいと下着を足首まで下げられ、顔から血を流して倒れている。
 アルマドゥラの予想通り、オメガの少年が強姦ごうかんされかけていたのだ。

「ぐっ… この… 誰だ…っ!」

「黙れ、ゲス野郎!!」
 られた脇腹をおさえながら、強姦ごうかん男が立ちあがろうとするが… その前にアルマドゥラは容赦ようしゃなく男のあごを続けてなぐり、いっきに気絶させる。

 強姦男が着る騎士服のデザインから見て、討伐とうばつ隊には参加しないで、王都に居残いのこり、治安維持を任された騎士に違いなかった。


「おい! 大丈夫か…?!」
 うつせで倒れるオメガの少年を抱きおこし、アルマドゥラが顔を見ると… 小さな顔は輪郭りんかくが変わるほどなぐられ、血だらけで気を失っている。

「かわいそうに… こんな小さな顔を殴られて…」
 まったく! 面倒なことから逃げて来たのに… 結局、もっと面倒なことになったぞ?!

 腹を立てたアルマドゥラは、もう一発ガツッ…! と転がる強姦男をとばす。 

 どれだけ面倒だと思っても、勇者アルマドゥラは騎士である。
 騎士としての倫理観りんりかんから、気絶した被害者の少年も、加害者の強姦男も… 当然、このまま放置してはおけない。

「やれやれ…」
 ハァ―――… とため息をつくと、自分のマントを脱いで気絶する少年をつつむ。

 マントで包んだ少年を肩にかつぎ、落ちないように片手で支えながら… もう片方の手で、性器を出したままで転がる、騎士服を着た強姦男のえりをつかんで、ズルズルと引きずる。


 結局、アルマドゥラは凱旋がいせんする討伐とうばつ隊に戻ることにした。





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