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6話 勇者 アルマドゥラside

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 勇者は獰猛どうもうな肉食獣のようなうなり声をあげると… 愛馬から飛び降り、イライラと金と銀に輝く派手なよろいを身体からはぎ取り、路上に放り投げた。
 カンッ…! ガガンッ…!派手なよろいは、ころがった時の音まで派手である。
 宝石がいくつもはめ込まれた、国宝級の剣も、勇者は躊躇ちゅうちょなく放り投げた。

 音に気づいた騎士たちが、一斉に音源を作った勇者に注目する。 

「クソッ…!! 戦場でもないのに、こんな恥ずかしいモノを着ていられるか!! 派手なだけで、見かけ倒しのよろいを、オレに着せやがって!
 一緒にドラゴンと戦った王太子の顔を立て、凱旋がいせんの時だけという条件で、王家が用意した儀式用のよろいを着てたやったが… もう限界だ!!

 勇者アルマドゥラが、実戦で使っている傷だらけのよろいを、汚くて野暮やぼったいとけなしたうえ… 凱旋がいせんする勇者たちを心待ちにしている、民のために派手に着飾れと、国王に命令されたのだ。


「ア… アルマドゥラ様?! どうされたのですか?!」
 近くにいた『勇者アルマドゥラ』 …の身のまわりの世話をさせろと、王家から押し付けられた侍従が、あわてて勇者に近づいた。

「おい、この役立たずのよろいをオレから取り外せ!」
「ええっ?! ですが… アルマドゥラ様?!」

「オレ自身が1人で脱げないよろいなど、着ていられるか?!」
 こんなモノを着ていては、目立ってしかたない! さっさと逃げ出してやる! オレを見世物みせものにしやがって、ふざけるな!!

「は… はい!」
 背中まである茶色の髪を振り乱し、こげ茶色の瞳をギラギラと光らせ、険悪な表情で周囲の者たちを威嚇いかくしながら、アルマドゥラは侍従に鎧を外させる。
 
 ドラゴンを倒すことに成功した勇者アルマドゥラは、元々貧乏貴族の出身で… 魔獣が多く出没する地域の騎士団に所属していた。

 剣技の才能に恵まれ、そのうえ生まれつき魔力を豊富に持っていたため… アルマドゥラは10代の頃から騎士団で頭角とうかくをあらわし、ドラゴンの討伐とうばつ隊にも、自ら志願して参加したのだ。
 そんなアルマドゥラの強さに目を付けた王太子ラティゴは、自分の右腕として引き立て、討伐とうばつ隊のかなめにすえた。


 鎧をすべて脱ぎ捨てたが… その下に来ていた騎士服を見下ろし… 

「クソ野郎ッ…! これでは道化師じゃないかっ!」
 勇者は顔をしかめて、ののしった。 

 鎧の下から出て来た騎士服が、真っ赤な生地に王家の紋章をデカデカと金糸で刺繍ししゅうした、すごく派手なものだったからだ。
 騎士服の上着は自分で脱いで、鎧の上に投げ捨てると… 

「おい、お前のマントを貸してくれ!」
 近くにいた騎士がまとっていた、質素なマントを奪い、普段から愛用する傷だらけの剣と剣帯ベルトを馬から取ると、勇者アルマドゥラは手早く装着してそのまま群衆の真ん中をかき分けて逃げ出した。

「あ~あ~… やっぱり、あいつは我慢できなかったか!」
 近くで勇者の奇行きこうを見ていた、王太子ラティゴはカラカラと笑った。


 ドラゴンから王国を、滅亡めつぼうの危機から救った勇者である。
 多少の奇行きこうは笑って許されるのだ。





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