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5話 青い空

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 残飯ざんぱん腐臭ふしゅうがただよう路地裏で、汚れた下半身をさらしたまま、ヒラソルはぼんやりと座っていた。


「……っ」
 僕は王都まで来たのに… こんなところで、何をやっているんだろう? まるで野良犬みたいじゃないか?!

 涙がこぼれ落ちそうになり… これ以上、なさけない気持ちになりたくなくて、ヒラソルは金緑きんみどり色の瞳で空を見あげた。


 青い空には雲がいくつも浮かんでいて……
 ふと… 王都へ花婿はなむこさがしに行きたいと、ヒラソルが両親を説得した日のことを思い出す。

『お父様、お母様!お願いです、僕は王都へ行きたい! 叔父様がドラゴン討伐とうばつに参加した騎士たちがたくさん王都へ帰還きかんするから、きっと僕の結婚相手がみつかると言っていました!』
 意気揚々いきようようとヒラソルは両親に頼んだ。

『ヒラソル、お前の気持ちはわかるが… 今の王都はとても危険なのだよ?』

『そうよ… 治安を守る騎士たちまで、ドラゴン退治に出ていたから… 犯罪がとても多いらしいわ?』
 心配した両親は、ヒラソルの王都行きを止めようとした。

『そうだよヒラソル! お前のような美しいオメガは本当に危険なんだ?』

『叔父様にもそのことは注意されたけど、大丈夫だよ! そういう危ないところには近づかないから!』
 周囲から美しいと言われながら成長したヒラソルは、自分の容姿に自信があった。

 …だがそれは、人口が少ない田舎の話で… ヒラソルは王都へ来て驚愕きょうがくする。
 アルファとオメガで構成される、貴族の家が密集する王都では、自分程度の容姿を持つオメガなら、さがせばいくらでもいるのだと。


「どうしよう……? 僕はデアリバ男爵家の1人息子なのに、こんなんで…」
 お父様も… お母様も… 僕の言葉を信じて、王都までの高い旅費を用意して、送り出してくれたのに? あんなに大きなことを言って、僕にはぜんぜん、覚悟が足りていなかった……
 大声で泣きたいよ!!

 暗い路地裏から見上げる空は、腹が立つほど青く綺麗で… ヒラソルの挫折感ざせつかんをよけいに刺激した。 

 金緑きんみどり色の瞳にかかり、キラキラと光る乱れた金の髪を振り払うこともなく… 青い空を見るのが嫌になり、ヒラソルはそっと瞳を閉じる。





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