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1話 勇者たちの凱旋
しおりを挟む――― 2年前…
隣国の北部に住みつき、その土地で暮らしていた人々を喰らい、全滅させた『暴虐のドラゴン』が… 餌となる人間を求めて、王国に飛来した。
人の手で『暴虐のドラゴン』を退治するのは、不可能だと言われていたが… 王国でも1、2を争う魔導士でもある王太子ラティゴと、この世で最も強い男と評される勇者アルマドゥラを中心に結成された討伐隊が、奇跡的にドラゴンを殺すことに成功したのだ。
そんな奇跡を起こした王太子と勇者たちが、ドラゴンの心臓と切り落とした頭とともに、王都に凱旋する!!
「おい、まだ勇者アルマドゥラ様は来ないのか?!」
「あっちの立派な人は王太子殿下か?!」
「あの黒い馬に乗っている方が勇者様ではないか?!」
「おおおお~っ!!」
「すげぇ~ デカイ人だ!!」
勇者たちを一目みようと、街道沿いに押し寄せた人々にまぎれ… デアリバ男爵家の令息オメガのヒラソルは、勇者たちと共に戦った、騎士たちのほうに熱い視線を送っていた。
「……」
確かに勇者アルマドゥラ様や王太子殿下のことも気になるけれど… 僕の狙いは勇者様たちに同行した、騎士様たちの方なんだ! あの中から絶対に、僕の花婿を見つけてやる!
不意にヒラソルは… 少し前に自分が起こした醜聞騒ぎのことが脳裏をよぎり、その頃感じていた悔しさで小さく罵った。
「クソッ…! あんなことさえ無ければ、苦労はしなかったのに…」
僕がやらかした醜聞騒ぎなんて… この王都でなら、普通にあることなのに?! 僕が暮らすデアリバ男爵領が、あまりにも田舎すぎるから… 騒ぎが大きくなってしまったんだ!! 本当に悔しいよ!
偶然、ヒラソルがオメガの発情抑制剤を切らしていた時に… 近隣の貴族(アルファ)が、ヒラソルの父に会いに訪問した。
「あんなの事故じゃないか! それなのに……」
僕が父親と同年代のおじさんに、発情するなんて?! それも学園の同級生の父親に…!! 誰が見ても事故じゃないか?!
だが、ヒラソルが発情した原因を作った貴族の息子が… ヒラソルとは犬猿の仲と言えるほど、仲が悪いオメガの同級生だった。
『僕のお父様をヒラソルが誘惑しようとしたんだ! あいつは自分の親と同じ年代のアルファに発情するような、淫乱な尻軽オメガなんだ! なんて恥知らずなんだろうね?!』
ヒラソルと仲の悪い同級生は、面白おかしく学園中で話しまくり… ヒラソルの評判は地に落ち、決まっていた婚約は破棄され、適齢期のアルファたちに見向きもされなくなったのだ。
「……」
あの性悪オメガ!! 僕の元婚約者が欲しくて、大騒ぎしたに決まっている! 2人とも絶対、不幸になれ! 僕が結婚出来なかったら、2人仲良く頭が剥げて勃起不全になるよう… 全身全霊をかけて呪ってやるからなぁ―――っ?!!
そのうわさを流した同級生は、今ではヒラソルの元婚約者と、結婚をしている。
「絶対に素敵な旦那様を捕まえて、お持ち帰りするんだから!」
地元の田舎では花婿さがしは絶望的だけど… 目の前を颯爽と歩く騎士たちの中に、きっと僕の未来の旦那様がいる!
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ヒラソルはギュッ… と拳をにぎり、自分に気合いを入れる。
母方の叔父に頼んで連れて来てもらい、ヒラソルは王都で開かれる、ドラゴン討伐の成功を祝うパーティに出席する予定だ。
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