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その後…

139話 浄化

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 霊廟れいびょう内の最奥にある、始祖王グアルダル王の石棺せきかん前で、ボルカンは手首をぶらぶらと振りながらエリダに声をかけた。


「さてと… “浄化”を始める準備は良いか、エリダ?」

「は、はい陛下! お願いします!」
 祈るように胸の前で両手の指を組み合わせ、緊張した様子のエリダはボルカンに答えた。




 ことの発端は、数日前のお茶の時間に、王宮でエリダが王女の話し相手として仕えるようになって以来、珍しくカナルに愚痴をこぼしたことから始まった。

『王宮には素敵な殿方が、たくさんいらして困ってしまうわ… もちろん殿方だけが、素敵というわけではないけれどね』

『他人が聞いたら、何て贅沢な悩みだって… 怒られそうだね』
 カナルは微笑み、ティーカップをテーブルの皿の上に置いた。

『ベンタナ様も素敵だけれど… リオ様も素敵なのよね… お2人を眺めているだけで、ご褒美を頂いた気分になるの』

 ベンタナは国王ボルカンの補佐官で…
 リオはぺルラ王女を護衛する、アルファの女性騎士である。 
 
 面倒見が良く、エリダに好意を持っているらしい2人は、何かと親切にしてくれるのだ。

『そうだね、特に王宮に勤めるアルファはみんな、容姿もしぐさも洗練されているから… 確かに素敵だよね』

 元々美形のボルカンやエレヒルのように、相手に強い印象を与えるタイプではないが…
 ベンタナも王女の護衛騎士リオも、都会のアルファらしい穏やかで礼儀正しく人当たりの良い印象で… 無骨で荒々しかったエリダの元夫フィエブレとは、真逆のタイプに見える。

『でもね… 見ているのは良いけど、お2人に優しくされると… 自分が情けなくなるの… だって、私はけがされているでしょう?』

『穢されている… ってエリダ…』

『だって、まだ子供の女の子まで… 欲望の捌け口にしていたなんて… フィエブレあの人の番だった私は、穢れていると思ってしまうの』

 フィエブレが通っていた娼館で保護され、しばらくの間エンペサル侯爵邸で一緒に暮らしていた、ニエブラ人姉妹のことをエリダは思い出しているのだ。

『エリダ… そんな風に思ってはいけないよ?』

『分かっていても、思ってしまうの… でも2度と言わないわ、ごめんねカナル… 変なことを言ってしまって』
 双子の姉弟の気安さから、エリダはポロリとこぼしたのだ。

 たとえ死んでも、フィエブレと結んだ番の契りが、エリダから解かれることは無く… 
 番以外のアルファに誘惑フェロモンを放てないエリダが、運良く誰かの心を射止めても、エリダ自身の身体が番以外の身体を拒絶するため、結局は真の伴侶にはなれない。

 そんなエリダが、身体だけではなく、心までフィエブレに縛られているのだ。



 カナルは思い悩み、ボルカンに相談すると…

『私はベンタナのせいで“邪悪な者を浄化の炎で焼き清めた、聖なる王”になったらしいからな… エリダを火の精霊の力で浄化してみるか? ただの気休めにしかならないが』 


 心だけでもフィエブレの呪縛から解かれる為には…

 今のエリダには、その気休めが必要だった。




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