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番外編 ~悪夢の世界で…

136話 答え合わせ3

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「それでエレヒル、精霊の加護は他に無いのか?」

 不意にボルカンに話しかけられ…

「いえ、私は悪夢を見ただけで… 他には加護と言えるような力は…」
 自分にはボルカンのような力はない。

「うう~ん… そうか? 隠す必要は無いぞ?」
 ボルカンはジッ… とエレヒルを見つめた。

「いえ、本当にそういうものはありませんが?」
 エレヒルは、ボルカンの問いかけに首を傾げながら…
 ぱたぱたと、活発に手足を動かす、ボルカンの腕の中のビエント王子に視線を留める。

 王子が動くたびに揺れる、柔らかそうな銀の髪とエメラルドのキラキラと光る瞳を見るうちに…
 弟のカナルだけではなく、ボルカンも精霊の加護を受け入れた後、容姿がガラリと変貌したのだと、改めて気付く。

 エレヒルの印象だと、カナルの場合は性格まで変わって見えた。

「私の容姿は、とても中途半端な変わり方をしたように思えます… ですから、もしかすると私が受けた精霊の加護も、中途半端なのかもしれません」

 ボルカンとカナルに比べると、エレヒルの容姿の変貌は、右目が変わっただけで…
 髪色も、左目も元のままの状態である。

 ジュピアと結婚してから、人前で時々デレデレするようになったが… 
 カナルとは異なり、基本的にエレヒルの性格はそのままだ。


「確かに… 兄上の考えが、正しいように思えます! 兄上は何故、右目しか変わっていないのかが、僕も不思議に思っていたのです…」

 うん… うん… とカナルはうなずき、エレヒルの顔をジッ… と観察するように、興味津々で見つめた。

「なるほどな! それで具体的にエレヒルは、どんなふうに精霊に願ったのだ?」
 ボルカンも興味津々でガーネットの瞳を光らせながら、質問を再開した。

「いえ、私は何も願ってはいません」
 エストレジャの花の原液を強奪されて出た被害者たちへの救済処置を、どうするか… 1人で落ち着いて考えたくて、エレヒルは湖へ行っただけだった。

「んんん~? では、願ってもいないのに… 何故、精霊は兄上に加護を与えたのでしょうか?」
 納得がいかないと、カナルは腕を組み首を傾げ、隣席のボルカンを見上げた。

「うむむ~? 確かに… 私たちは精霊の加護を受けるために、その場で命を絶って捧げたというのに… 何故だ?」
 ボルカンも眉間にシワをよせ、難しい顔でカナルを見下ろす。
 
「ええっ?!! 陛下も… お命を… ですか?!」
 ギョッ! とエレヒルは目をむき… 聞き返した。

「ああ、私は叔父に追い詰められて、惨めに殺されるぐらいならと、自害しこの身を捧げて精霊に祈願した」
 エレヒルに答えるボルカンの腕を、カナルが慰めるように撫でている。

「いえ、私は… 命を精霊に捧げては… 恥ずかしながら、陛下のようにそのような覚悟も、ありませんでしたし」
 エレヒルは答えを探して、困り顔でジュピアを見下ろした。
 
 隣席から心配そうに見上げる、ジュピアを見つめるうちに…
ふと、エレヒルは思い出す。


 悪夢の中で… 傷ついたジュピアが、自分以外のアルファの騎士に抱き上げられる姿を見て、嫉妬に火が付きエレヒルは…

『まったく… 夜の精霊がいるなら、この腕を何とかしてもらいたいものだ!! クソッ!! 痛いぞ!! 本当に切り落とすとは、フィエブレの奴め!!』


「あっ―――っ!! あれか?!! あれなのか?! ええぇぇ~っ?!」

 悪夢の中で、自分が中途半端に精霊に願った(罵った)ことを思い出し… 国王夫妻の前にいることも、すっかり忘れてエレヒルは大声で叫んだ。

 エレヒルが悪夢で見た、カナルが時間を巻き戻す前の世界で…
 フィエブレに切り落とされた、腕一本分の加護を、エレヒルは夜の精霊に与えられた。


 不思議で神秘的な存在の精霊は、どうやら敏腕商人のようにシビアな質で…

 捧げられたものの価値と、同等の加護しか与えないらしい。

 





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