側妃候補は精霊つきオメガ

金剛@キット

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番外編 ~悪夢の世界で…

130話 悪夢の果てに

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「・・・・・・」
<新しく生えたのか? 手は、生えるものなのか?!>
 肘から下のフィエブレに切り落とされたはずの手が、自分の腕にくっ付いていた。

 パカリッ… と顎が外れそうな程大きく口を開けて、エレヒルは月明りの下で、いつの間にか生えていた自分の手をマジマジと見つめた。


「いや違う! そうだ、違う! 私の手は切り落とされてはいない!」
 ニギニギと手の指を動かすうちに…
 寝起きでボンヤリとしていたエレヒルの頭は、少しずつ覚醒してゆき、自分が長い夢をみていたのだと自覚する。

「ああ… 今のは夢か?! まったく、しっかりしないと!」
<カナルは生きて王都へ行き、ボルカン陛下の妃となり… 今では子供… 王子様を授かっている! 流産で嘆き悲しみこの湖で自殺など、していないし… エリダはフィエブレと結婚して、幸せに暮らしている!> 

 夢を振り払おうと、エレヒルは再び顔をゴシゴシと右手でこすり、頭を振った。

「なんて変な夢なんだ?! なんて苦しい悪夢だ… ああ、気分が悪い!」
<恐ろしくて、悲しい… だが、妙に現実的で… 生々しい?!>

「私には夢を見るヒマなど無いのに!! この忙しい時に、夢見が悪くて考えが少しもまとまらないぞ?! ああ、クソッ!!」

 エストレジャの花の原液を強奪し、逃亡の際にニエブラ人たちが放火した村の住人達への補償について、1人でじっくり考えたくて、エレヒルは湖に来たが…
 連日連夜、激務が続き疲労が溜まっていたため、心地良い静寂に身を置き、神秘的な湖をながめるうちに、そのまま気持ち良く眠ってしまったのだ。


 湖の方からビュウッ… と突風が吹き、エレヒルの月光色の髪が乱される。


「ぃゃぁ… ぃゃぁ… ぃゃぁ… ぁぁぁぁ…」


「…んん?」
 風に乗って、弱々しい人の声がエレヒルの耳に届き…
 慌てて立ち上がって耳を澄ませ、どこから聞こえて来るかを探る。


「ぁぁぁ… ぅぅ… ぅぅぅ…」 


「あっちか?!」
 声をたどり森の中へ入ると、辺りに漂うオメガの誘惑フェロモンを感じ取り、立ち止まった。

<このフェロモンは… だが、そんなバカなことがあるか?!>
 甘い… 甘い… 溺れるような、夢の中で感じていた、ジュピアのフェロモンではないか? とエレヒルは眉をひそめる。

「ジュピアが? まさか…?!」
 現実の世界でエレヒルは、ジュピアに会ったことさえ無かった。

 森の奥へ進むと…
 間違いなく、エレヒルが夢の中で見たジュピア本人が木の根元に坐り、着古した使用人の下衣と下着を脱いで、細い足を大きく開き夢中で小さなペニスを扱いていた。

「ああっ…! ああっ…! うんんっ… あっ… 嫌ぁ…!」

「ジュピア?! お前なのか?!」
 エレヒルが思わず言葉を発すると…
 
 ジュピアがエレヒルの声に気付いて顔を上げた。

「ああっ… 誰?! 嫌っ… 見ないでぇ… 見ないでぇ!!」
 ジュピアは辛そうに、泣き叫んだ。


「ジュピア… なのか?!」
<どういうことだ? まるで、夢で見たままの光景だ!>
 額を押さえて、目の前のジュピアを見つめたまま、エレヒルは呆然と立ち尽くしてしまう。

「お願いです… お願い… 騎士様… どうか、僕に… ううっ! 構わないで! お願い… します… 騎士様! うううっ… 嫌ぁ… 」

「・・・っ」
 ジュピアの懇願こんがんを聞きエレヒルは我に返ると、迷わずひざまずいて唇に軽くキスをした。

 夢の中でエレヒルが感じていた、ジュピアへの感情… 
 胸が痛むほどの愛しさが一気にあふれ出し、自分の欲望を押さえられなかった。

「ああっ! 騎士…さま… ううっ… 僕は… 僕は… ああっ!」
 発情期らしいジュピアは怯えた顔をするが、エレヒルが放つアルファのフェロモンを感じ… 
 エレヒルの騎士服を掴み、胸にしがみ付いて来た。

「私は構うぞ、ジュピア! お前を邸に連れ帰り、私の番にして妻にする! 心配しなくて良い、私に全てを任せろ」
 腕の中にすっぽりと納まる、小柄なジュピアをギュッ… と抱きしめ…
 耳にキスをしてから抱き上げて、エレヒルはエンペサル侯爵邸へと急いで帰る。


 夢の中の番は、現実でも自分の番でなければならないと…
 ジュピアへの愛情と執着心があふれ出したエレヒルに、ジュピアをこのまま無視するという選択肢は無かった。











※増々ツッコミどころが増えてしまいましたが(笑) もう少しだけ続きます。
 お付き合い頂ければ幸いです☆彡

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