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番外編 ~悪夢の世界で…
127話 苦汁 フィエブレside
しおりを挟む激しいエレヒルの連撃の打ち込みを受け、フィエブレは息が切れハァッ… ハァッ… ハァッ… ハァッ… と激しく呼吸を乱しながら怒鳴った。
「クソッ!! 生意気だぞ、エレヒル!!!」
長い期間ドロガ(麻薬)に溺れていたフィエブレの身体には、騎士には致命的な中毒症状が出ていた。
中毒症状は精神にまで作用していたため、フィエブレ自身は自覚が無かったが…
いつの頃からか食欲が無くなり、以前よりも筋肉が落ちて身体は痩せ細り、明らかに体力が減退していた。
「何故、ドロガになど手を出したのだ?! フィエブレ! 何故だ―――っ?!」
悔しそうに顔をクシャリと歪めて、エレヒルはフィエブレに問いただした。
侯爵となった今では、人前でほとんど見せることが無くなったが…
昔のエレヒルはフィエブレに剣で負けると、いつもこんな表情をしていた。
「お前になど話すものか―――っ!!!」
隙が出来たエレヒルの肩を狙い、フィエブレは最大の剣圧を乗せて、上段から振り下ろす。
ガンンッ…!!
以前のエレヒルなら簡単に崩れていたが…
とっさに片膝をつき、フィエブレが放った渾身の一撃を受け止めた。
そのまま押し切ろうと、フィエブレはギリギリと力押しをしたが…
上手く脇へ力を流され、素早くエレヒルは後ろへ引く。
「この臆病者が!!!」
自分の技が騎士としては格下のエレヒルに躱されたことに腹を立て、子供のようにフィエブレは癇癪をおこす。
「フィエブレ、何故ドロガに溺れた?!」
エレヒルは冷静な目をして、フィエブレに再び問いただした。
「うるさい!! 黙れエレヒル、お前が全部悪いのだ!!」
ドロガの中毒症状でブルブルと震える手で、フィエブレは剣の切っ先をエレヒルに向けた。
鬱々とした苦い記憶が、フィエブレの胸の中であふれ出す。
『お父上が亡くなられた時は、この先どうなるかと心配していたが… 学園を出られたばかりでまだお若いのに、エレヒル様は本当に賢いお方だ!』
滅多に人を褒めることのないフィエブレの父が、エレヒルを手放しで褒めちぎった。
『先代の侯爵閣下は我々が忠言しても、御自分が気に入らなければ、気にも留めて下さらなかったが… エレヒル様は細やかに我々と話し合い、一緒に考えて下さる… たとえ忠言が通らなくても、我々を納得させる答えを示してくれるから良い』
『経験が浅い分、少々潔癖なところがあり他人にも自分にも厳しい御方だが、そういう厳格な気質が騎士団の騎士たちから信頼を得ているようだ』
『エレヒル様は歴代の侯爵閣下の中で、最も優れた名主となられるお方かも知れないぞ?』
エンペサル侯爵家に仕える気難しい側近たちも、フィエブレの父と同じように口を揃えてエレヒルを絶賛した。
『フィエブレ、お前はエリダ様の夫となり、エンペサル騎士団の騎士団長になることが決まっているのだから… 少しはエレヒル様を見習い、人を使う術を学べ!』
『ですが父上! 騎士は、自分よりも強い騎士に尊敬を抱くものでしょう?! なのにエレヒルは剣の腕は、私よりもずっと劣っていますよ? それなのに見習えとは!』
<エレヒルが侯爵位を継いでから、父上はバカみたいにエレヒルに媚びを売っている! いい加減ウンザリする!>
『騎士にも心がある、その心を上手く掴むのも上に立つ者に必要な資質なのだ… まったくお前の方が年上だというのに、エレヒル様と比べて剣術以外のことは一切聞く耳を持たないから困る!!』
『エレヒルなど、口が上手いだけではありませんか!! 父上こそ何故、私の話を聞かないのですか?!』
<クソッ!! なぜ私の努力を認めない?! 私は剣の腕を磨くために他のことを犠牲にして来たというのに!! 何故、すぐにエレヒルと比べて私を否定するのだ?! 何故だ?! 何故だ―――っ?!>
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