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番外編 ~悪夢の世界で…

124話 湖のほとりで ジュピアside

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 ジュピアを抱えた騎士が茂みを突っ切っると…
 カナルが終わりを迎えた場所、“精霊の棲み処” と呼ばれる小さな湖の前に出た。

「もう少しの辛抱です! 奥方様!」
 ハァッ… ハァッ… と息を切らせながら、騎士はジュピアを励まそうと話しかけてくる。

「は…ぃ…」
 フィエブレに蹴られて身体中が痛み、今にも失神しそうだったジュピアは…
 弱々しげに返事をするのがやっとだった。

 湖の近くのどこかで馬の鳴き声が聞こえ、ジュピアを抱えた騎士は鳴き声が聞こえた方角へと向かう。

「・・・・・・」
<ああ… 本当に僕は助かるんだ…?>
 ホッ… とジュピアがため息を吐いた時だった。


「コロシテヤル… キリキザンデ… コロシテヤル――ッ!」

 たった今、茂みを突っ切って出て来た森の中から、フィエブレの怒鳴り声が聞こえ、ジュピアはビクリッ… と身体を震わせ、緊張で硬直する。


「クソッ!! もう、来たのか?!」
 ジュピアを抱えた騎士は、罵りながら、足を速め馬の元へと急ぐ。

 ハァッ… ハァッ… ハァッ… ハァッ… と、走る騎士の荒い息づかいに重なり…

「殺してヤル―――っ!! 殺してヤル―――っ!!」

 ジュピアたちの背後で、獣の遠吠えに似たフィエブレの叫び声が響き渡った。


 単身で追いかけて来るフィエブレに、ジュピアを抱えて走る騎士の足が勝てるはずもなく…
 呪いが込められたフィエブレの怒鳴り声は、すぐ背後に迫って来ていた。


「うぅ…」
<あの人は狂っている!! ドロガ(麻薬)の毒で頭が狂ってしまっているんだ!! 怖い!! 怖いよぉ!! エレヒル様!! エレヒル様!!>

 ジュピアの身体が恐怖でガタガタと震えだす。

「申し訳ありません、奥方様! 逃げて下さい!!」
 騎士はジュピアを下ろし、剣を抜いて背後を振り返った。

「・・・っ」
<嫌だ! 嫌だ!! 怖いよぉ! 死にたくない!! 死にたくない!! エレヒル様!!>
 ジュピアは恐怖で痛みも忘れて、騎士に言われた通り、ヨロヨロと走った。

 夢中でジュピアは走って逃げた。

 背後で重々しい足音が聞こえて来ても、ジュピアは夢中で逃げた。


「ひうぅ… くっ…!」
 肩を掴まれ地面に引き倒されても、ジュピアは止まらず…
 ズリズリと這いずりながら逃げた。

 フィエブレが血で濡れた剣を突き立てようと、ジュピアの胸の上で構えても、止まらなかった。

「遊びは終わりだ!!」

「ぐっ… ううっ… ふぅ…!」

 重い足で腹を踏まれ、動きを封じられても…


 ジュピアは逃げようと、諦めずに足掻くのを止めなかった。






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