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番外編 ~悪夢の世界で…
123話 追跡
しおりを挟むエレヒルたちが騎士団本部に戻ると、フィエブレが自宅へ戻り旅支度をしてから、家を出たという報告を受け…
「やはり… フィエブレはニエブラへ逃亡するつもりのようだ!」
灰色の瞳をギラギラと光らせ、エレヒルは眉間にシワを寄せた。
<私でも、重罪を犯して犯罪者となったのなら、間違いなくニエブラへ逃げ込むだろう>
エンペサル騎士団に所属する騎士なら、王都の地理は知らなくても…
国境付近のニエブラ側の地理なら、完璧に頭に入っている。
何よりエレヒルと同様に、フィエブレも自分が戦う敵を知るため、ニエブラ語の習得を、子供の頃から義務付けられていた。
「出るぞ!! 急げば捕まえられる!」
エレヒルはその報告を受けて騎士団本部を飛び出した。
フィエブレの自宅であるセグロ邸は、騎士団本部を挟んでニエブラの国境の反対側にあり…
そこから森の中を抜けて、ニエブラまで最短距離のルートを選ぶとしても、保身のため国境まで人質のジュピアを連れて行くのなら、一頭の馬に2人で乗ることになる。
そうなれば当然、馬の脚も遅くなるはずだ。
陽が完全に暮れる前に、少しでもフィエブレとの距離を縮めたくて、薄暗い森の中を、エレヒルたちは馬で疾走した。
日が暮れる寸前の夕日が、森を所々赤く染め上げた頃…
道の真ん中で座り込んでいる者を、馬で踏み潰しそうになり、エレヒルは慌てて手綱を引いた。
「彼は…っ!」
剣を握り締めたまま、出血した脇腹を押さえて座り込む者の顔に、エレヒルは見覚えがあり、慌てて馬を降りた。
<フィエブレを追わせていた、ボスケ隊の騎士だ!!>
ジュピアとフィエブレを追っていた騎士が、ケガを負っているのなら、戦った相手はフィエブレしかいない。
「おい!! 大丈夫か?! 私の妻は… フィエブレはどこだ?!
慌ててエレヒルは、座り込んだ騎士に駆け寄りたずねた。
「う…っ! 仲間が… 奥方…様を連れて… 湖の方へ… 逃げ…て… 急いで…追って… うぐっ… うっ…」
ケガからの出血量が多く、それだけ言い終えると騎士は気を失ってしまう。
「私がケガの止血をします!! どうか侯爵閣下は奥方様を追って下さい!!」
後に続いて来た騎士の1人が馬を降りて、ケガをした騎士に駆け寄り、自分の首に巻いたスカーフを引き抜いた。
「すまない!! 後を頼む!!」
騎士の言葉を聞き、エレヒルは慌てて馬に飛び乗り、湖へと向かった。
<思ったよりも早く追いつけた!! ボスケ隊の騎士たちが、時間稼ぎをしてくれたおかげだ!!>
エレヒルは心からケガを負った騎士に感謝し、先を急ぐ。
<必ず救う!! もう少しの辛抱だジュピア!!>
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今回の名前はスペイン語にお世話になりました。カナル→運河、国王ボルカン→火山、姉エリダ→傷、元夫フィエブレ→熱、兄エレヒル→選ぶ、ルイナス公爵→遺跡、宰相パラグアス→傘、正妃ディアレア→下痢、補佐官ベンタナ→窓、叔父インセンディオ→火事、 ○ ○ やっぱり外国語の響きは面白いですね( ´∀` )
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