上 下
126 / 150
番外編 ~悪夢の世界で…

118話 厩舎の前で フィエブレside

しおりを挟む


 続けて3人の騎士を切り伏せたところで、ハァッ… ハァッ… とフィエブレの息が上がる。
 大怪我を負ったが、騎士たちの命は無事のようだ。

 娼館でドロガ(麻薬)に酔った貴族と娼婦を切った時とはわけが違う。

 さすがに戦くことが本職の騎士たちは強く…
 特にエンペサル騎士団の騎士は、長年国境を守り抜いて来ただけはあり、騎士同士の連携も巧みである。

<クソッ!! どいつもこいつも、私を否定して!!>
 騎士を一人殺した時点でフィエブレに警戒し、詰所にいた騎士まで鍛錬たんれん場に集まって来ていた。

 フィエブレ1人に対して、エンペサル騎士団そのものが敵になったのだ。

 いくらフィエブレが騎士団最強の騎士だとしても、騎士団員全員から命を狙われるのは、圧倒的に不利である。
 不利どころか無謀と言っても良い。

 そんな簡単な理屈さえ、ドロガ(麻薬)に犯され禁断症状に苦しむフィエブレは著しく思考が低下して、考えることさえ出来なくなっていたのだ。
 正に獣のように、本能のまま暴れている。

 最初にフィエブレの凶刃に倒れた、騎士団長付きの補佐官だった騎士も…
 ドロガ(麻薬)の中毒で以前とは別人のように、人格が変化したフィエブレを心配し、フィエブレの為を思い口うるさく忠言をしていただけだった。



「おいおい、もう終わりか?! 何だよ、やっぱり騎士団長殿は見掛け倒しだな!!」
 騎士の1人が、フィエブレを挑発し始めた。

 だが、挑発した騎士を含めて、フィエブレの剣が届く間合いに、ギリギリで踏み込まないようにしている。

「次はお前が死にたいようだな―――っ!!!」
フィエブレが叫ぶと…
他の騎士も挑発を始めた。

「寂しいな騎士団長殿!! 私の相手はしてくれないのか?」
 ヘタに手を出せばケガをすると分かっていたため、騎士たちはフィエブレを挑発し、集中力が切れてすきが出来る瞬間を狙っているのだ。

「クソッ!!」
 フィエブレ自身も、相手を挑発し隙を誘う手は良く使う手で、身体に染みついた、戦法だった。
 こうなると時間がかかり、1人で戦うフィエブレは更に不利になる。

<これ以上は、やってられない!!>
 フィエブレは自分の背後で、油断していた騎士に不意を衝いて斬りかかり… 
 慌てて騎士たちが間合いを取り道を開けたところで、急いで厩舎に向かって歩いた。


「おい、どこへ行くのだ?! 何だもう逃げるのか騎士団長殿は!!」
 剣の間合いに入らないよう周りを囲みながら、騎士たちはフィエブレを挑発し続けた。

「お前たちは口ばかり上手くて、私の練習相手にもならないから、つまらなくなったのさ!」
 フィエブレも油断なく目を光らせながら、歩き続ける。

 騎士たち全員で襲い掛かれば、フィエブレを倒せるが誰かが犠牲になるのは間違いなく、慎重にならざる負えなかった。


 厩舎まで来ると馬がちょうど繋がれているのが見え、その近くで下働きらしい使用人が馬の世話をしていた。

<ちょうど良い、あれを使おう!>
 出来れば自分の愛馬を連れ出したかったが、残念ながら騎士たちに囲まれている今は、そこまでの余裕は無い。

 馬の近くに立つ使用人をよく見ると、自分が男爵から買ったオメガだと気づく。

「アイツは…!」
 フィエブレはニヤリと笑った。

<運が良い! アイツを人質にすれば、この場で騎士たちを追い払えるかも知れない… そうだ! 一旦自宅へ戻り、急いで旅支度をしてニエブラへ向かうことにしよう! 私の剣の腕が有ればニエブラでなら、上手く暮らせるだろう!>

 厩舎前でフィエブレは、怯えて動けなくなっていたエンペサル侯爵夫人ジュピアの、小さなアゴを殴り気絶させ…
 繋いであった馬に荷物のように乗せて、細い身体に剣を突き付け周りを囲む騎士たちを脅した。

「ここからはお前たちとは別行動だ! もしも私の後を追って来たら、エンペサル侯爵夫人の指を一本ずつ切り落とすことになるぞ?!」

 気絶したジュピアの手を掴んで、フィエブレは実際に剣を当て切り落とそうとした。

「止めろ―――!! 分かったから!! 止めてくれ!! 私たちはアンタを追わない!! 何処にでも行きたいところに行けば良い!! だから、奥方様を開放してくれ!! 指を切るなら私の指を切れば良い!! だから奥方様を傷つけないでくれ!! 騎士団長殿、頼む―――ッ!!」

 ジュピアの護衛として娼館から一緒に帰って来た、巡回役の騎士が慌てて剣を鞘に納めると、前に出てひざまずきフィエブレに懇願した。


「クッ… クッ… クッ… 良いだろう、丁寧に頼んで見せたからコイツの指を切るのは止めてやる、だが絶対に私の後を追わせるな!!」


 意識の無いジュピアを連れて、フィエブレは馬に乗り騎士団本部を去った。 





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

健気な公爵令息は、王弟殿下に溺愛される。

りさあゆ
BL
ミリアリア国の、ナーヴァス公爵の次男のルーカス。 産まれた時から、少し体が弱い。 だが、国や、公爵家の為にと、自分に出来る事は何でもすると、優しい心を持った少年だ。 そのルーカスを産まれた時から、溺愛する この国の王弟殿下。 可愛くて仕方ない。 それは、いつしか恋に変わっていく。 お互い好き同士だが、なかなか言い出せずに、すれ違っていく。 ご都合主義の世界です。 なので、ツッコミたい事は、心の中でお願いします。 暖かい目で見て頂ければと。 よろしくお願いします!

「その想いは愛だった」騎士×元貴族騎士

倉くらの
BL
知らなかったんだ、君に嫌われていたなんて―――。 フェリクスは自分の屋敷に仕えていたシドの背中を追いかけて黒狼騎士団までやって来た。シドは幼い頃魔獣から助けてもらった時よりずっと憧れ続けていた相手。絶対に離れたくないと思ったからだ。 しかしそれと引き換えにフェリクスは家から勘当されて追い出されてしまう。 そんな最中にシドの口から「もうこれ以上俺に関わるな」という言葉を聞かされ、ずっと嫌われていたということを知る。 ショックを受けるフェリクスだったが、そのまま黒狼騎士団に残る決意をする。 夢とシドを想うことを諦められないフェリクスが奮闘し、シドに愛されて正式な騎士団員になるまでの物語。 一人称。 完結しました!

【完結】《BL》溺愛しないで下さい!僕はあなたの弟殿下ではありません!

白雨 音
BL
早くに両親を亡くし、孤児院で育ったテオは、勉強が好きだった為、修道院に入った。 現在二十歳、修道士となり、修道院で静かに暮らしていたが、 ある時、強制的に、第三王子クリストフの影武者にされてしまう。 クリストフは、テオに全てを丸投げし、「世界を見て来る!」と旅に出てしまった。 正体がバレたら、処刑されるかもしれない…必死でクリストフを演じるテオ。 そんなテオに、何かと構って来る、兄殿下の王太子ランベール。 どうやら、兄殿下と弟殿下は、密な関係の様で…??  BL異世界恋愛:短編(全24話) ※魔法要素ありません。※一部18禁(☆印です) 《完結しました》

前世の愛が重かったので、今世では距離を置きます

曙なつき
BL
 五歳の時、突然前世の記憶を取り戻した僕は、前世で大好きな魔法研究が完遂できなかったことを悔いていた。  常に夫に抱きつぶされ、何一つやり遂げることができなかったのだ。  そこで、今世では、夫と結婚をしないことを決意した。  魔法研究オタクと番狂いの皇太子の物語。  相愛ですが、今世、オタクは魔法研究に全力振りしており、皇太子をスルーしようとします。 ※番認識は皇太子のみします。オタクはまったく認識しません。  ハッピーエンド予定ですが、前世がアレだったせいで、現世では結ばれるまで大変です。  第一章の本文はわかりにくい構成ですが、前世と今世が入り混じる形になります。~でくくるタイトルがつくのは前世の話です。場面の切り替えが多いため、一話の話は短めで、一回に二話掲載になることもあります。  物語は2月末~3月上旬完結予定(掲載ペースをあげ当初予定より早めました)。完結まで予約投稿済みです。  R18シーンは予告なしに入ります。なお、男性の妊娠可能な世界ですが、具体的な記述はありません(事実の羅列に留められます)。

【完結】冷血孤高と噂に聞く竜人は、俺の前じゃどうも言動が伴わない様子。

N2O
BL
愛想皆無の竜人 × 竜の言葉がわかる人間 ファンタジーしてます。 攻めが出てくるのは中盤から。 結局執着を抑えられなくなっちゃう竜人の話です。 表紙絵 ⇨ろくずやこ 様 X(@Us4kBPHU0m63101) 挿絵『0 琥』 ⇨からさね 様 X (@karasane03) 挿絵『34 森』 ⇨くすなし 様 X(@cuth_masi) ◎独自設定、ご都合主義、素人作品です。

僕の策略は婚約者に通じるか

BL
侯爵令息✕伯爵令息。大好きな婚約者が「我慢、無駄、仮面」と話しているところを聞いてしまった。ああそれなら僕はいなくならねば。婚約は解消してもらって彼を自由にしてあげないと。すべてを忘れて逃げようと画策する話。 フリードリヒ・リーネント✕ユストゥス・バルテン ※他サイト投稿済です ※攻視点があります

【完結】初恋のあの人との結婚。だけど私のこと覚えてないんですね?

MEIKO
BL
本編完結済。番外編のみ現代の言葉解禁になっております。 神の御使いとして15年、ようやく役を辞する事になったスリジャは、初恋の相手である隣国の第二王子ロイに嫁ぐ事になった。人並みの幸せとは無縁┉と思って生きてきたのに、突如として湧いた幸運に天にも昇る気持ちに。だけど┉えっ?私、違う王子と結婚するんですか?おまけに自分を覚えていないなんて┉ショック!! 健気で世間知らずな美人元神の御使いと、勘違いで拒否の年下王子との両片思いファンタジーLOVE。 (R指定のお話しは番号に*マークを付けます)

初めて僕を抱いたのは、寂しい目をした騎士だった

金剛@キット
BL
貧乏貴族の令息オメガのアユダルは、父親の借金の代わりに娼館へ売られてしまう。 だが、地味で内気なアユダルを買う客はいなかった。 そんな時、ケンカで顔にケガをした、男娼にかけた治癒魔法が目をひき、アユダルを買う客があらわれる。 魔獣の襲撃で家族と婚約者を失い、隠者のように暮らす裕福な騎士、アルファのレウニールだった。 レウニールはアユダルが抱かれるのは初めてと知り、優しい気づかいを見せた。 アユダルは親切で優しいレウニールに恋をし、ずっと側にいたくて、自分を愛人にして欲しいと願うようになる。 レウニールもアユダルの誠実さや可愛さに心ひかれてゆくが、受け入れられない事情があった。 😏お話に都合の良い、ユルユル設定のオメガバースです。 😘エロ濃厚です! 苦手な方はご注意下さい!

処理中です...