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番外編 ~悪夢の世界で…
118話 厩舎の前で フィエブレside
しおりを挟む続けて3人の騎士を切り伏せたところで、ハァッ… ハァッ… とフィエブレの息が上がる。
大怪我を負ったが、騎士たちの命は無事のようだ。
娼館でドロガ(麻薬)に酔った貴族と娼婦を切った時とはわけが違う。
さすがに戦くことが本職の騎士たちは強く…
特にエンペサル騎士団の騎士は、長年国境を守り抜いて来ただけはあり、騎士同士の連携も巧みである。
<クソッ!! どいつもこいつも、私を否定して!!>
騎士を一人殺した時点でフィエブレに警戒し、詰所にいた騎士まで鍛錬場に集まって来ていた。
フィエブレ1人に対して、エンペサル騎士団そのものが敵になったのだ。
いくらフィエブレが騎士団最強の騎士だとしても、騎士団員全員から命を狙われるのは、圧倒的に不利である。
不利どころか無謀と言っても良い。
そんな簡単な理屈さえ、ドロガ(麻薬)に犯され禁断症状に苦しむフィエブレは著しく思考が低下して、考えることさえ出来なくなっていたのだ。
正に獣のように、本能のまま暴れている。
最初にフィエブレの凶刃に倒れた、騎士団長付きの補佐官だった騎士も…
ドロガ(麻薬)の中毒で以前とは別人のように、人格が変化したフィエブレを心配し、フィエブレの為を思い口うるさく忠言をしていただけだった。
「おいおい、もう終わりか?! 何だよ、やっぱり騎士団長殿は見掛け倒しだな!!」
騎士の1人が、フィエブレを挑発し始めた。
だが、挑発した騎士を含めて、フィエブレの剣が届く間合いに、ギリギリで踏み込まないようにしている。
「次はお前が死にたいようだな―――っ!!!」
フィエブレが叫ぶと…
他の騎士も挑発を始めた。
「寂しいな騎士団長殿!! 私の相手はしてくれないのか?」
ヘタに手を出せばケガをすると分かっていたため、騎士たちはフィエブレを挑発し、集中力が切れて隙が出来る瞬間を狙っているのだ。
「クソッ!!」
フィエブレ自身も、相手を挑発し隙を誘う手は良く使う手で、身体に染みついた、戦法だった。
こうなると時間がかかり、1人で戦うフィエブレは更に不利になる。
<これ以上は、やってられない!!>
フィエブレは自分の背後で、油断していた騎士に不意を衝いて斬りかかり…
慌てて騎士たちが間合いを取り道を開けたところで、急いで厩舎に向かって歩いた。
「おい、どこへ行くのだ?! 何だもう逃げるのか騎士団長殿は!!」
剣の間合いに入らないよう周りを囲みながら、騎士たちはフィエブレを挑発し続けた。
「お前たちは口ばかり上手くて、私の練習相手にもならないから、つまらなくなったのさ!」
フィエブレも油断なく目を光らせながら、歩き続ける。
騎士たち全員で襲い掛かれば、フィエブレを倒せるが誰かが犠牲になるのは間違いなく、慎重にならざる負えなかった。
厩舎まで来ると馬がちょうど繋がれているのが見え、その近くで下働きらしい使用人が馬の世話をしていた。
<ちょうど良い、あれを使おう!>
出来れば自分の愛馬を連れ出したかったが、残念ながら騎士たちに囲まれている今は、そこまでの余裕は無い。
馬の近くに立つ使用人をよく見ると、自分が男爵から買ったオメガだと気づく。
「アイツは…!」
フィエブレはニヤリと笑った。
<運が良い! アイツを人質にすれば、この場で騎士たちを追い払えるかも知れない… そうだ! 一旦自宅へ戻り、急いで旅支度をしてニエブラへ向かうことにしよう! 私の剣の腕が有ればニエブラでなら、上手く暮らせるだろう!>
厩舎前でフィエブレは、怯えて動けなくなっていたエンペサル侯爵夫人ジュピアの、小さなアゴを殴り気絶させ…
繋いであった馬に荷物のように乗せて、細い身体に剣を突き付け周りを囲む騎士たちを脅した。
「ここからはお前たちとは別行動だ! もしも私の後を追って来たら、エンペサル侯爵夫人の指を一本ずつ切り落とすことになるぞ?!」
気絶したジュピアの手を掴んで、フィエブレは実際に剣を当て切り落とそうとした。
「止めろ―――!! 分かったから!! 止めてくれ!! 私たちはアンタを追わない!! 何処にでも行きたいところに行けば良い!! だから、奥方様を開放してくれ!! 指を切るなら私の指を切れば良い!! だから奥方様を傷つけないでくれ!! 騎士団長殿、頼む―――ッ!!」
ジュピアの護衛として娼館から一緒に帰って来た、巡回役の騎士が慌てて剣を鞘に納めると、前に出て跪きフィエブレに懇願した。
「クッ… クッ… クッ… 良いだろう、丁寧に頼んで見せたからコイツの指を切るのは止めてやる、だが絶対に私の後を追わせるな!!」
意識の無いジュピアを連れて、フィエブレは馬に乗り騎士団本部を去った。
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