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番外編 ~悪夢の世界で…
116話 娼婦たち
しおりを挟む娼館内部をエレヒルたちが詳しく調査するうちに、2階の客間でクローゼットに隠れていたニエブラ人のオメガ姉妹を見つけた。
年齢は14,5歳だが殺された娼婦たちと同様に露出度の高いドレスを着ていて、2人も娼婦として働かされたいたのだとすぐに気付き、騎士たちは顔を曇らせた。
ニエブラでは奴隷は違法ではないため、このようなことが一般的に起きるのだ。
姉妹はまだ、娼館に入って間もないらしく、片言のエステパイス王国語しか話せずビクビクと震え、怯え切っていたが…
ジュピアが寄り添い、恐怖で涙をこぼす2人の頬をハンカチで何度も拭ううちに、少しずつ自分たちの境遇や、フィアブレが次々と人を殺した惨劇の夜について語り始めた。
少女たちの話から娼館の所有者は、この惨劇が明るみに出るのも時間の問題だと考え、金になりそうな物をかき集めて、早々に逃げ出したようだ。
娼館でドロガ(麻薬)を使い、毎夜重罪を犯していたことが知られれば、娼館の所有者は間違いなく処刑されるからである。
他の娼婦たちも逃げ出したが、経験の浅い姉妹は言葉も話せず土地勘も無く、働き始めたばかりで金も無く、どうして良いかわからずに娼館に留まっていたのだ。
その他にもエレヒルたちは、娼館を利用していた客のリストの隠し場所まで、姉妹から聞きだすことが出来た。
娼館の所有者が姉妹を気に入り、執務室で奉仕をさせていた時に偶然、隠し金庫を見たことを覚えていたのだ。
「今の話を、王国の司法官にも証言してくれるか? ニエブラ国に返してやることは出来ないが… この国に居れば、お前たちの生活は私が責任を持って保障するから、安心して良い」
エレヒルは少女たちに近づき過ぎない様に、ジュピアを挟んだ反対側にヒザをつき、ゆっくりと理解できるように話をした。
「…はい、私たち…2人イッショで… お… おキャクサマ… いうトオリ…します」
2人の少女は、お互いを守るように、抱き合いながら、おずおずとエレヒルに片言のエステパイス王国語で同意した。
姉妹は元々貴族の令嬢だったが、父親を亡くし家と財産を親類に全て取り上げられて奴隷商人に売られたらしく、ニエブラには帰る家も無いのだ。
「悪いがジュピア… 騎士団本部まで使いを頼めるか? ニエブラ人を護送しなくてはならないから… それにこの娘たちは腹を空かせている様子だから、暖かい食事を食べさせてやりたいし」
「はい、旦那様! そうですね、2人にお腹いっぱい美味しいものを食べさせないと!」
曇っていたジュピアの金色の瞳が輝き、エレヒルを尊敬の眼差しで見つめる。
「こんなことに巻き込んで、本当にすまない!」
素早くジュピアの頬にキスをして、エレヒルは謝罪の言葉を耳元で囁いた。
本音を言うとエレヒルは、一瞬でも早くこの惨劇が起きた忌まわしき娼館から、ジュピアを出してやりたかった。
「いいえ、旦那様! 僕は付いて来て良かったと思っていますから」
珍しくジュピアは恥ずかしがらずに、エレヒルの頬にキスを返した。
この娼館で働いていた娼婦たちは、ニエブラから奴隷商人を介して買われたオメガたちだった。
基本的にどこの国でも貴族階級は、アルファとその番となる、オメガで構成されている。
どれだけ貧しかったとしても、隣国ニエブラの出身者でも、オメガ性を持つ者ならば、ジュピアのように貴族の生まれである場合が多い。
エレヒルの目から見て優しいジュピアは、自分よりも幼い姉妹が自分と似た境遇で、最悪の場所にたどり着いてしまったことに強く苦痛を感じている様子だった。
「行ってきます!」
「気を付けろよ、ジュピア!」
護衛を一人付けて、エレヒルは娼館からジュピアを送り出した。
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今回の名前はスペイン語にお世話になりました。カナル→運河、国王ボルカン→火山、姉エリダ→傷、元夫フィエブレ→熱、兄エレヒル→選ぶ、ルイナス公爵→遺跡、宰相パラグアス→傘、正妃ディアレア→下痢、補佐官ベンタナ→窓、叔父インセンディオ→火事、 ○ ○ やっぱり外国語の響きは面白いですね( ´∀` )
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