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番外編 ~悪夢の世界で…
112話 娼館4
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地下の食料貯蔵庫に保管してあったエストレジャの花の原液は、強奪された半分の量だった。
もう半分は、すでにニエブラへと何らかの手段で運ばれてしまったのだろう。
「半分でも戻ったのだから、文句は言えないな!」
<ギリギリだが、なんとか国境の防衛費を捻出できる! これで王家に援助要請を出さなくても済むぞ!!>
自分の失態で金が稼げなくなったなどという理由で、助けを求めるのは屈辱以外の何ものでも無かった。
誇り高きエンペサル侯爵は、ホッ… と胸を撫で下ろす。
「それにしても… どの死体も迷い無く急所を一突きされている、スゴ腕ですよ、この死体たちを殺した襲撃者は! やり合ったら、私では勝てません」
ベテラン騎士アリバは、エストレジャの花の原液を確認すると、エレヒル同様胸を撫で下ろし…
中断していた死体の観察を再開した。
「ああ、この女たちは逃げだそうとした瞬間、後ろからやられたようだが、男たちはされるがまま殺された感じだな?」
エレヒルが自分の読みを口に出すと…
アリバも同意見だとうなずいた。
「ええ… それで閣下、先ほどから少し気になることが」
「気になる?」
「この死体が着ている服から、プンプン臭いませんか?」
常連客だったらしい、死体となったオスクロ伯爵の上着をアリバが引っ張った。
伯爵の上着に鼻を近付け、エレヒルが匂いを嗅ぐと…
確かにそこから血の匂いに混じって、気になる匂いがした。
「ドロガ(麻薬)の匂いだ!」
「他の客や娼婦の服からも、甘く苦い独特なドロガの匂いがします」
ドロガとは…
ニエブラの荒れた高地に多く生育する植物で、その葉を乾燥させ燃やして煙を吸い性行為を行うと、通常よりも強く快楽を感じられ、何十年も前にエステパイス王国でも貴族の間で流行していた。
だが、常用を続けると幻覚やめまい、人格変化、知覚異常など中毒症状を起こしやすく…
危険視したエステパイス王家が、薬物の使用、売買、流通、全てを禁止した。
関われば死刑になるほどの重罪である。
「そうか! ニエブラ人が関わっているのなら、ドロガがここにあってもおかしくない話だ!」
「ああ、本当に何も知らない奥方が気の毒だ…!」
愛妻家アリバは再び… オスクロ伯爵夫人に同情した。
「常連客の紹介が無ければ、この娼館に入れなかったのは、このドロガ(麻薬)を使って、快楽を得る奉仕を提供していたからか!」
重罪を犯して性的快楽を得ようとするのだから、確実に信用できる客しか入館できなかったのだろう。
「一度、好奇心から始めて… ズブズブとはまって抜け出せなくなっていたのでしょうね」
「・・・っ!!」
しみじみと語るアリバの言葉を聞くうちに、エレヒルの脳裏でフィエブレの姿が浮かび上がった。
<フィエブレはこのドロガ(麻薬)に、騎士団の金を注ぎ込んでいたのか? 以前とは別人のように短気になり、乱暴な態度も… 全て、このドロガの中毒症状に似ている>
目の前に転がる、死体たちの傷が、エレヒルがよく知る兄弟子の太刀筋に似ていると気づき、胸の奥が急激に冷えて行く。
「アリバ… これは慎重にことを進めなければいけない…」
転がる死体が映る灰色の瞳を閉じ…
また一つ、心に抱え込んでしまった荷物の重さに耐えようと、エレヒルは掌で額を押さえた。
もう半分は、すでにニエブラへと何らかの手段で運ばれてしまったのだろう。
「半分でも戻ったのだから、文句は言えないな!」
<ギリギリだが、なんとか国境の防衛費を捻出できる! これで王家に援助要請を出さなくても済むぞ!!>
自分の失態で金が稼げなくなったなどという理由で、助けを求めるのは屈辱以外の何ものでも無かった。
誇り高きエンペサル侯爵は、ホッ… と胸を撫で下ろす。
「それにしても… どの死体も迷い無く急所を一突きされている、スゴ腕ですよ、この死体たちを殺した襲撃者は! やり合ったら、私では勝てません」
ベテラン騎士アリバは、エストレジャの花の原液を確認すると、エレヒル同様胸を撫で下ろし…
中断していた死体の観察を再開した。
「ああ、この女たちは逃げだそうとした瞬間、後ろからやられたようだが、男たちはされるがまま殺された感じだな?」
エレヒルが自分の読みを口に出すと…
アリバも同意見だとうなずいた。
「ええ… それで閣下、先ほどから少し気になることが」
「気になる?」
「この死体が着ている服から、プンプン臭いませんか?」
常連客だったらしい、死体となったオスクロ伯爵の上着をアリバが引っ張った。
伯爵の上着に鼻を近付け、エレヒルが匂いを嗅ぐと…
確かにそこから血の匂いに混じって、気になる匂いがした。
「ドロガ(麻薬)の匂いだ!」
「他の客や娼婦の服からも、甘く苦い独特なドロガの匂いがします」
ドロガとは…
ニエブラの荒れた高地に多く生育する植物で、その葉を乾燥させ燃やして煙を吸い性行為を行うと、通常よりも強く快楽を感じられ、何十年も前にエステパイス王国でも貴族の間で流行していた。
だが、常用を続けると幻覚やめまい、人格変化、知覚異常など中毒症状を起こしやすく…
危険視したエステパイス王家が、薬物の使用、売買、流通、全てを禁止した。
関われば死刑になるほどの重罪である。
「そうか! ニエブラ人が関わっているのなら、ドロガがここにあってもおかしくない話だ!」
「ああ、本当に何も知らない奥方が気の毒だ…!」
愛妻家アリバは再び… オスクロ伯爵夫人に同情した。
「常連客の紹介が無ければ、この娼館に入れなかったのは、このドロガ(麻薬)を使って、快楽を得る奉仕を提供していたからか!」
重罪を犯して性的快楽を得ようとするのだから、確実に信用できる客しか入館できなかったのだろう。
「一度、好奇心から始めて… ズブズブとはまって抜け出せなくなっていたのでしょうね」
「・・・っ!!」
しみじみと語るアリバの言葉を聞くうちに、エレヒルの脳裏でフィエブレの姿が浮かび上がった。
<フィエブレはこのドロガ(麻薬)に、騎士団の金を注ぎ込んでいたのか? 以前とは別人のように短気になり、乱暴な態度も… 全て、このドロガの中毒症状に似ている>
目の前に転がる、死体たちの傷が、エレヒルがよく知る兄弟子の太刀筋に似ていると気づき、胸の奥が急激に冷えて行く。
「アリバ… これは慎重にことを進めなければいけない…」
転がる死体が映る灰色の瞳を閉じ…
また一つ、心に抱え込んでしまった荷物の重さに耐えようと、エレヒルは掌で額を押さえた。
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