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番外編 ~悪夢の世界で…
106話 調査2 エレヒルside
しおりを挟むフィエブレが騎士団の資金をつぎ込んでいた先が、娼館だと知りエレヒルとジュピアは困惑していた。
だが、カナルが丁寧に書き込んでいた金額を思い出し、エレヒルは娼婦に渡すには多すぎると気づく。
<それほど素晴らしい娼婦を集めているのか? それとも… 王都にある娼館のように、変わった趣向を凝らしているのか? そんな話になると、私には見当もつかないなぁ?>
増々エレヒルは首を捻った。
「その娼館とは、どのような種類の場所なのだ? 例えば高額の報酬を要求するだとか…」
「ああ… 恐らく報酬は高額でしょうね、確か常連客の貴族の紹介が無ければ、入ることも許されないという話です… それこそ私たちのような下っ端の騎士などには、扉を開いてもくれないでしょうね」
「それは私でも、入れてはもらえないということか?」
<いや、領主の権限を使えば、強引に入れるだろうが…>
エレヒルが新妻ジュピアの前でケロリと言って退け、話をしていた巡回役の騎士たちが、気まずそうに顔を見合わせた。
「侯爵閣下… 奥方の前で、なんと無礼で恥知らずなことを!」
愛妻家のベテラン騎士アリバが、顔をしかめてエレヒルに注意を促す。
「あ? ええ?! い… いや! 違うぞ、ジュピア! 私は娼館で遊びたくて言ったわけではないぞ?! 誤解するなよ?! 違うからな?!」
アワアワと大慌てでジュピアに弁解するエレヒルに…
クッ… クッ… クッ… クッ… とアリバと巡回役の騎士たちは忍び笑いを漏らした。
「旦那様、僕はわかっておりますから… そんなに慌てないで下さい! フィエブレ様が払えるだけの報酬かどうかを、知りたかったのでしょう?」
エレヒルを心から信じていますよ? と信頼を込めた可愛らしい微笑みを浮かべ…
ジュピアは慌てて弁解するエレヒルを落ち付かせようと、腕をトンッ… トンッ… と叩いた。
「そうか? 本当に誤解はしてないか?」
「はい、しておりませんよ」
不安そうに機嫌をうかがうエレヒルに、ジュピアはニコリッ… と笑った。
「・・・・・・」
ホッ… とため息をつき、エレヒルは微笑むジュピアの頬にキスを落とし、細い身体をギュッ… と抱きしめる。
抱き締められたジュピアも、エレヒルの広い背中に手を回し、再びトンッ… トンッ… と叩きなだめた。
「侯爵閣下… うちの騎士団長が… その娼館に通っておられるのですか?」
エレヒルを揶揄っていた時とは打って変わり、アリバは緊張した様子で口を開いた。
「あっ!!」
ウッカリ自分が口を滑らせたことに気づき、ジュピアはエレヒルの顔を見上げた。
「・・・・・・」
チラリと巡回役の騎士たちに、エレヒルは視線を流す。
「大丈夫ですよ、この2人は思慮深く口が堅いと、私が保証しますから…」
ベテラン騎士アリバは、巡回役の騎士2人と力強くうなずき合い…
「お前も、騎士として出世したければ、このことは絶対に、誰かに漏らすなよ?!」
次にアリバは隣に立つ相棒の新人騎士をジッ… と見つめ、肩をギュッ… と掴む。
「はっ… はい! 肝に銘じて、口を閉じていると誓います!!」
アリバを心酔しているらしく、新人騎士は自分の胸に手を当て、ウンウンと大きく首をタテに振る。
「実は侯爵閣下… あの娼館について以前気になる噂を耳にしまして、その噂の真偽を確認するために、あの娼館内を調べてみてはと騎士団長に進言したのですが… 無用だと言われてしまい」
巡回役の騎士たちは、おずおずと口を開いた。
「フィエブレがか?」
「はい… それで今の侯爵閣下のお話を聞き、もしや? と思いまして…」
「何だ、言って見ろ?」
「あの娼館に、ニエブラ人が出入りしているという噂が流れ… 付近の住人たちは、貯蔵庫からエストレジャの原液がニエブラ人に強奪され、村に放火された話を知っていますから、それで怖がった住人たちに我々は娼館の調査依頼をされたのです」
「ニエブラ人が、娼館に出入りしていただと?!」
「はい… まだ、噂ですが」
フィエブレの横領疑惑が、反逆疑惑へと変わった瞬間だった。
エストレジャの花成分を精製して作られた原液を、ニエブラとの国境の防衛費に当てているのだから、その強奪に何らかの形でフィエブレが関わったとすれば…
反逆罪で処罰される対象となる。
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