114 / 150
番外編 ~悪夢の世界で…
106話 調査2 エレヒルside
しおりを挟むフィエブレが騎士団の資金をつぎ込んでいた先が、娼館だと知りエレヒルとジュピアは困惑していた。
だが、カナルが丁寧に書き込んでいた金額を思い出し、エレヒルは娼婦に渡すには多すぎると気づく。
<それほど素晴らしい娼婦を集めているのか? それとも… 王都にある娼館のように、変わった趣向を凝らしているのか? そんな話になると、私には見当もつかないなぁ?>
増々エレヒルは首を捻った。
「その娼館とは、どのような種類の場所なのだ? 例えば高額の報酬を要求するだとか…」
「ああ… 恐らく報酬は高額でしょうね、確か常連客の貴族の紹介が無ければ、入ることも許されないという話です… それこそ私たちのような下っ端の騎士などには、扉を開いてもくれないでしょうね」
「それは私でも、入れてはもらえないということか?」
<いや、領主の権限を使えば、強引に入れるだろうが…>
エレヒルが新妻ジュピアの前でケロリと言って退け、話をしていた巡回役の騎士たちが、気まずそうに顔を見合わせた。
「侯爵閣下… 奥方の前で、なんと無礼で恥知らずなことを!」
愛妻家のベテラン騎士アリバが、顔をしかめてエレヒルに注意を促す。
「あ? ええ?! い… いや! 違うぞ、ジュピア! 私は娼館で遊びたくて言ったわけではないぞ?! 誤解するなよ?! 違うからな?!」
アワアワと大慌てでジュピアに弁解するエレヒルに…
クッ… クッ… クッ… クッ… とアリバと巡回役の騎士たちは忍び笑いを漏らした。
「旦那様、僕はわかっておりますから… そんなに慌てないで下さい! フィエブレ様が払えるだけの報酬かどうかを、知りたかったのでしょう?」
エレヒルを心から信じていますよ? と信頼を込めた可愛らしい微笑みを浮かべ…
ジュピアは慌てて弁解するエレヒルを落ち付かせようと、腕をトンッ… トンッ… と叩いた。
「そうか? 本当に誤解はしてないか?」
「はい、しておりませんよ」
不安そうに機嫌をうかがうエレヒルに、ジュピアはニコリッ… と笑った。
「・・・・・・」
ホッ… とため息をつき、エレヒルは微笑むジュピアの頬にキスを落とし、細い身体をギュッ… と抱きしめる。
抱き締められたジュピアも、エレヒルの広い背中に手を回し、再びトンッ… トンッ… と叩きなだめた。
「侯爵閣下… うちの騎士団長が… その娼館に通っておられるのですか?」
エレヒルを揶揄っていた時とは打って変わり、アリバは緊張した様子で口を開いた。
「あっ!!」
ウッカリ自分が口を滑らせたことに気づき、ジュピアはエレヒルの顔を見上げた。
「・・・・・・」
チラリと巡回役の騎士たちに、エレヒルは視線を流す。
「大丈夫ですよ、この2人は思慮深く口が堅いと、私が保証しますから…」
ベテラン騎士アリバは、巡回役の騎士2人と力強くうなずき合い…
「お前も、騎士として出世したければ、このことは絶対に、誰かに漏らすなよ?!」
次にアリバは隣に立つ相棒の新人騎士をジッ… と見つめ、肩をギュッ… と掴む。
「はっ… はい! 肝に銘じて、口を閉じていると誓います!!」
アリバを心酔しているらしく、新人騎士は自分の胸に手を当て、ウンウンと大きく首をタテに振る。
「実は侯爵閣下… あの娼館について以前気になる噂を耳にしまして、その噂の真偽を確認するために、あの娼館内を調べてみてはと騎士団長に進言したのですが… 無用だと言われてしまい」
巡回役の騎士たちは、おずおずと口を開いた。
「フィエブレがか?」
「はい… それで今の侯爵閣下のお話を聞き、もしや? と思いまして…」
「何だ、言って見ろ?」
「あの娼館に、ニエブラ人が出入りしているという噂が流れ… 付近の住人たちは、貯蔵庫からエストレジャの原液がニエブラ人に強奪され、村に放火された話を知っていますから、それで怖がった住人たちに我々は娼館の調査依頼をされたのです」
「ニエブラ人が、娼館に出入りしていただと?!」
「はい… まだ、噂ですが」
フィエブレの横領疑惑が、反逆疑惑へと変わった瞬間だった。
エストレジャの花成分を精製して作られた原液を、ニエブラとの国境の防衛費に当てているのだから、その強奪に何らかの形でフィエブレが関わったとすれば…
反逆罪で処罰される対象となる。
1
今回の名前はスペイン語にお世話になりました。カナル→運河、国王ボルカン→火山、姉エリダ→傷、元夫フィエブレ→熱、兄エレヒル→選ぶ、ルイナス公爵→遺跡、宰相パラグアス→傘、正妃ディアレア→下痢、補佐官ベンタナ→窓、叔父インセンディオ→火事、 ○ ○ やっぱり外国語の響きは面白いですね( ´∀` )
お気に入りに追加
592
あなたにおすすめの小説


侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
名もなき花は愛されて
朝顔
BL
シリルは伯爵家の次男。
太陽みたいに眩しくて美しい姉を持ち、その影に隠れるようにひっそりと生きてきた。
姉は結婚相手として自分と同じく完璧な男、公爵のアイロスを選んだがあっさりとフラれてしまう。
火がついた姉はアイロスに近づいて女の好みや弱味を探るようにシリルに命令してきた。
断りきれずに引き受けることになり、シリルは公爵のお友達になるべく近づくのだが、バラのような美貌と棘を持つアイロスの魅力にいつしか捕らわれてしまう。
そして、アイロスにはどうやら想う人がいるらしく……
全三話完結済+番外編
18禁シーンは予告なしで入ります。
ムーンライトノベルズでも同時投稿
1/30 番外編追加


白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~
松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。
ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。
恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。
伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる