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番外編 ~悪夢の世界で…
100話 騎士団長フィエブレ2 エレヒルside
しおりを挟むコンッ… コンッ… と執務室の扉が廊下側から叩かれて、ガチャリッ…と開き、騎士団長付き従者イロが、淹れたてのお茶を持って入って来た。
2人分のティーカップと焼き菓子を、来客用ソファセットの机に従者が丁寧な所作で並べる間…
大きなため息を吐き装着用の革ベルトから小さな金具を外して、フィエブレは腰に下げた剣を執務机の上にゴトッ… と乱暴に置く。
「・・・・・・」
<以前はここまで短気では無かったのに? 確かに昔からフィエブレは、他人よりも精力漲る血気盛んな質ではあったが… 最近はただの乱暴者のように振る舞っている… 何故だ? エリダに続き、カナルまで死んでしまったからか?>
イライラと不貞腐れた態度を隠しもしないフィエブレを、しばらくの間黙って観察しながらエレヒルは違和感を覚えていた。
「それで侯爵閣下、今日は何のご用で騎士団の本部まで来られたのですか? まさか、私の新人への躾け方が気に入らないから、嫌味を言いにわざわざここまで来たわけでは無いでしょう?」
先に坐っていたエレヒルと向かい合うように、フィエブレは来客用のソファセットにドサリッ… と重々しい音を立てて腰を下ろした。
「ああ、勿論だフィエブレ、私もお前に嫌味を言うために、ここまで足を運ぶほどヒマでは無いからな、そう尖るな」
<カナルを失ったから、イライラとしている? いや、それは違うな! カナルが流産した時も、表向きでは子供を失い傷ついたフリをしながら、好都合な言い訳が出来たと… この男は心では喜んでいたに違いないからだ!>
そこまで考えて、エレヒルまでフィエブレの苛立ちが移ってしまい…
首を横に振りながらイライラとする気持ちを静めようと、従者が用意したティーカップを手に取り口へと運ぶ。
剣の師匠であるフィエブレの父親がカナルを自殺に追い込み、自責の念に耐えられず、告白し謝罪をした時の苦悩する顔が、エレヒルの脳裏に浮かんだ。
『申し訳ありません、エレヒル様! 息子は… フィエブレは… "カナル様もエリダ様のように虚弱で子供を産めない身体だから…" と離婚を考えていたようです』
『まだ結婚して間もないのにか? それに流産は健康なオメガにも、あり得ることだ… まさか…っ?! カナルにもその話をしたのか?』
『いいえ、身体のことは断じて!! ですがフィエブレは、流産をしてすぐに話した方がカナル様も離婚に応じやすいのではないかと… 説得を…』
『つまり… 心身ともに弱り切ったカナルの心に、付け込んだと言うのか?! よくも… よくも!! そのような残酷な仕打ちが出来たものだな!!』
全身の血が沸騰するような怒りを感じ、エレヒルがフィエブレの父親を怒鳴りつけると…
『フィエブレはまだ、エリダ様を失った悲しみから、抜け出せないのです! 妻を得て子供の顔でも見れば、すぐに悲しみも癒えると… 私たちはそのことを甘く考えていました! カナル様との結婚は早すぎたのです! 私たちがフィエブレを急かしてしまったから!! 私たちが!!』
後悔と罪悪感から泣き崩れるフィエブレの父親を前にして…
その時初めてエレヒルは、離婚を考えるほどカナルとフィエブレの夫婦関係が上手くいっていなかったのだと知り、愕然とした。
2人の関係は最初から冷え切っていたが、 カナルはずっと忙しい兄を心配させてはいけないと…
『僕はフィエブレの妻になれて、本当に幸せです』 と笑って見せていたから、愚かにもエレヒルはカナルのウソを信じ、気付かなかったのだ。
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