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94話 懐かしい顔 - END -

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 カナルの寝室から出て来た侍医の助手を捕まえ、ボルカンはガーネットの瞳を不穏にギラギラと光らせながら、脅すように問い質した。

「まだか?! まだなのか?! カナルは大丈夫なのか?!」

「申… 申し訳ありません陛下! 侍医様はもうすぐだと… おっしゃっておられました!!」

「もうすぐだとぉ?! それはさっきも聞いた―――っ!!!!」
 ボルカンは怒鳴り声をあげ、侍医の助手を震え上がらせた。

「陛下、そんなに怯えさせては、この後の役目に影響がでますから、彼を開放してあげて下さい、ああ! ダメですよ、炎を抑えて下さい!カナル様の寝室を燃やす気ですか?!」
 ベンタナが見るに見かねて、ボルカンに声をかける。

「クソッ!!」
 侍医の助手を解放し、ボルカンはむっ… と不機嫌そうに腕を組み、カナルの寝室の前を行ったり来たりと歩き回る。







 ガチャリッ… と不意に寝室の扉が開き、カナルの従者バイラルが腕に赤ん坊を抱いて出て来て、ボルカンの顔を見て涙ぐみながら伝えた。

「元気な王子様が誕生されました!!」

「・・・・っ!」
 赤ん坊を見て言葉を失ったボルカンは、魚のように口をパクパクとした。

「おや… 美しい銀色の髪をした王子様ですね! 瞳の色は、目蓋を閉じておられるから、まだ分かりませんが… 陛下にどことなく似ていらっしゃる気がします! おめでとうございます、ボルカン陛下!」

 ボルカンの脇から、バイラルの腕に抱かれた、生まれたての王子をのぞき見たベンタナが、ニコニコと満面の笑みを浮かべて… 寝室前の廊下で、国王夫妻に新たな子が誕生するのを待ちわびていた、重臣や使用人たちの耳に届くように語った。
 
「陛下!! おめでとうございます!!
「王子様のご誕生、おめでとうございます!!」
「おめでとうございます、陛下!!」

 アルファかオメガかはある程度、成長してからでないと判別できないが…
 何よりも、子供が無事に生まれたことで重臣たちも、使用人たちも、ホッ… と胸を撫で下ろした。

「さぁ、陛下!」
 バイラルは王子をボルカンの腕に渡そうとするが…

「い… いや! もう少し… お前が王子を抱いていてやってくれ! 私はカナルを見て来る!!」
 王子に心を奪われたかのように、見つめていたボルカンは… バイラルの呼びかけで、ハッ… と我に返り寝室の扉を開けた。




「カナルは大丈夫なのか?」
 恐る恐るボルカンが侍医にたずねると

「大変お疲れになられて、今は眠っていらっしゃいますが、大丈夫ですよ陛下… カナル様は普段から良く身体を動かされて、健康でいらっしゃるので、十分な休養を取ればすぐに回復されるでしょう」

 侍医は眠るカナルから目を離さず、手首に触れ脈を診ていたが、ニッコリと微笑みカナルの腕を上掛けの下に戻した。


 妊娠初期の不安定な時期から脱すると、カナルはボルカンの執務室に自分の机を置き…
 ボルカンの隣りで、正妃の公務を少しずつ始めた。

 公務の合間にひまな時間が少しでもできると、母親を亡くしたばかりの幼い王女の友人となり、一緒に庭を散策して回ったり、ゲームで遊んだりと、活発に動き回っていた。


「そうか!」
 侍医の話を聞き、ボルカンは安堵の笑みを浮かべた。 

 気を利かせて侍医が助手たちを連れ、寝室から出て行くと… ベッド脇の椅子に座り、ボルカンはカナルの白い額に、キスを落とした。


 ふと、目が開き… カナルが目覚める。

「すまない、起こしてしまったか?」
 出産で疲れ果てた妻を労わり、ボルカンは普段よりも声を落して、耳元で静かに話しかけた。

「あ… ボルカン様… あの子を見ましたか?」

「見たよカナル、元気な王子をありがとう!」

「ふふっ…  銀の髪色が… あなたにそっくりでしょう?」
 ニコリと嬉しそうにカナルが笑うと、ボルカンも微笑んだ。

「ああ、そうだなカナル… ずっと忘れていたが、昔… 毎朝、鏡で見ていた自分の顔を思い出して、懐かしくなったよ」

「ふふふっ…」
 カナルは笑いながら、火の精霊の加護で変わってしまったボルカンの赤茶の髪に、細い手を伸ばして触れた。

「将来… あの子の髪色が変わってしまうような経験をしなくて済むように、私たちはこの国と王家を正しく導かなければならないな… 叔父のような反逆者が育つことが無い未来を」
 ボルカンは昔の自分と同じ髪色の息子を見て、心の内で誓っていた。

「はい、ボルカン様… あの子が誰かに大切なものを奪われたり、誰かの大切なものを奪ったり、間違った選択をしないように… 僕たちがあの子に教え、あの子を含めたこの国の人たちも… 幸せになるようにしないと…」 

「カナル、手伝ってくれ」
「はい」


 ボルカンも夜の精霊の加護で変わってしまった、カナルの漆黒の髪に触れた。

「やれやれ… 寝室の外で、お前の叫び声を聞いた時は、生きた心地がしなかったぞ?」

「ふふふっ… ボルカン様の怒鳴り声が、ここまで聞こえてきましたよ?」

「やれやれ…」
「ふふふっ…」

 ハアァァァァ――――――ッ… と…
 大きな、大きな、安堵の籠ったため息を吐き、ボルカンはカナルの脇に突っ伏した。







ー E N D ー




あとがき  ○  ○  ○  ○

ココまでお付き合い下さり、ありがとうございます☆彡

本編はココまでとなり…
この後、番外編が入り、本編と番外編を混ぜた、『その後』へと移ります。

主役が交代し場所も変わるので、新しいお話として投稿し直すことも考えたのですが、カナルの事情を知らないと、チョット厳しいかなぁ~? と、番外編としました。

 私の力不足で、また短編タグを途中で長編に変更しました。
 サクッと軽く読みたかった方、噓ついてすみません!






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