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89話 罪と罰

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 刑場には王都中の民が押し寄せたのではないか? と思うほど、貴族も平民も混ざり、大勢の人々が集まっていた。


「・・・っ」
 処刑台から少し離れた場所に用意された国王夫妻の席から刑場を眺め、カナルはあまりの人の多さに怯んでしまう。

「大丈夫か、カナル? 無理して処刑にまで立ち会う必要はないのだぞ? あまり気分が良いものでもないしな」
 正妃ディアレアは亡くなったばかりで、まだ正式に決まってはいないが、臣下たちの暗黙の了解で、カナルの席は正妃の席であるボルカンの隣りに作られていた。

「僕はボルカン様のただ一人の妃ですし、国王陛下が民の前に出る時は、特別な事情が無い限り、妃はボルカン様の隣にいるのが仕事ですから」

<本当は処刑なんて、怖くて怖くて嫌だけど… でも、僕はボルカン様の妃だから、情けないことは言っていられないよ!>
 青ざめた顔で恐怖に耐えようと、カナルは拳を握る。

 口には出さなかったが、これが亡きディアレアならば、絶対に立ち会わなかっただろうと、ボルカンは内心苦笑した。

「カナル、特別な事情ならあるだろう?」
 隣りの席から長い腕を伸ばし、ボルカンはまだまだ平らなカナルのお腹を慈しむように撫でた。

「あ…! 確かにそれもそうですね…」

「これで気分が悪くなり、体調でも崩したら大変だからな?」

「ええ… でしたら処刑が始まる頃に、席を外しても宜しいですか?」
 遠慮なくカナルはボルカンの言葉に甘えることにした。

「そうすると良い、処刑が始まれば誰もがそっちに夢中になるから、お前が抜け出しても、きっと誰も気づかないからな」

「はい」

 それ程、パラグアスたちが主要な重臣たち巻き込んで起した反逆行為に、脅威を抱く者が多かったからだ。

 民の不安を拭う為にボルカンは、書記官たちが大臣たちを尋問した時に作った調書を読み上げ、罪を明かし…
 その場で重臣たちへの罰を下した。

「6人の大臣には今後10年、毎年指定の金額を国庫へ納金することで罰を減刑する!!」

 ボルカンが法務官たちと話し合って決めた相応の罰を、ベンタナが言い渡すと予想よりも軽い罰で良かったと、重臣たちはホッと胸を撫で下ろした。

 金額だけを見ると、目が飛び出るほどの大金だったが、ボルカンが統治する安定した治世ならば、無理の無い金額だったからだ。

 何より、身分を剥奪するような重い罰を下せば、使える臣下がいなくなり、ボルカンへかかる負担が今まで以上に重くなる。

 それなら、国王の寛容さを見せて、そこそこの罰で終わらせてしまう方が無難だと考えた。


 そんな中で、パラグアスたち主犯格たち以外で… どうしても1人だけ、厳罰を下さなければならない人物がいた。





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