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88話 最期の慈悲
しおりを挟む霊廟で反逆者たちからカナルが救い出された夜、ボルカンの命令で正妃ディアレアは、後宮の自室から王宮の地下にある王族用の地下牢へ入れられた。
補佐官ベンタナは、大臣の尋問を終え国王の執務室を出た後、真っ直ぐディアレアと面会するために、王族用の地下牢へ訪れる。
地下牢と言っても、豪華な家具が使われ天井や柱には美しい装飾が施されているため、通常の客室と何ら変わり無い部屋に見えた。
だが、地下に作られた部屋のため窓は無く、代わりに頑丈な鉄格子で覆われた通気口が天井に開けられている。
出入り口は1つで、重い鉄扉がはめ込まれ室内を監視できるのぞき穴が付いていた。
廊下側から監視する騎士たちに鍵を開けさせ、ベンタナは室内へと入る。
「ディアレア様、王女殿下とのお別れは済みましたか?」
まるで天気の話でもするように、ベンタナは礼儀正しく穏やかにたずねた。
カナルとボルカンが執務室で大臣たちの尋問をしていた時、ディアレアは牢を出ることを許され、騎士たちに監視されながら、王女と午後のひと時を楽しんだ。
「陛下の補佐官が何の用かしら? 代わりに嫌味でも言いに来たの?」
本心では憔悴しきっていたが、高慢な態度でディアレアはいつも通り、豪華なドレスと宝石で自分を美しく飾っていた。
ソファセットに座りお茶を飲むディアレアの背後には、カナルを後宮の自室から攫う時に、騎士たちを案内した侍女が、影のように立っている。
「いいえ、ディアレア様は何か誤解をされておられるようですね? 私はボルカン陛下から、あなたへ最後の"慈悲"をお届けに参りました」
「最後の慈悲?」
「はい」
ベンタナは長い上着の内ポケットから出した、小さな革袋をテーブルの上に置く。
「これは?」
「王女殿下のことを思われるのなら、最後ぐらい正妃らしくこの"慈悲"をお使い下さいとのことです」
「・・・っ?!」
ハッ… とディアレアは息を呑み、ボルカンの"慈悲"が入った小さな革袋を見つめた。
「それでは失礼します」
ベンタナはディアレアの返事を待たずに腰を上げる。
「待って、ベンタナ!!」
「・・・・・・」
ベンタナは、名前を呼ばれて振り返ると… ディアレアは革袋を手に取り、貴重な贈り物のように胸に抱きしめていた。
「陛下に、数々の非礼をお許しくださいと… お伝えください! そして・・ そして・・王女のコト・・を・・ お願いしますと・・・っ!」
それまでの高慢な態度は影を潜め、ディアレアは震える声で泣きながら、謝罪の言葉を口にした。
"慈悲" の入った革袋を見て、ようやくディアレアはボルカンの不器用な優しさを理解し、素直に受け入れることが出来たのだ。
翌朝、ボルカンは…
正妃ディアレアが地下牢で侍女と共に、服毒自殺をしたとの報告を受けた。
刑を言い渡されて身分を剥奪される前に自殺を決行したため、ディアレアは王国の法律で正妃として葬られる。
幼い王女の未来のために、せめて法律上は処刑された罪人の娘とならないよう、ボルカンが考え出した苦肉の策である。
8
今回の名前はスペイン語にお世話になりました。カナル→運河、国王ボルカン→火山、姉エリダ→傷、元夫フィエブレ→熱、兄エレヒル→選ぶ、ルイナス公爵→遺跡、宰相パラグアス→傘、正妃ディアレア→下痢、補佐官ベンタナ→窓、叔父インセンディオ→火事、 ○ ○ やっぱり外国語の響きは面白いですね( ´∀` )
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