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83話 炎の惨劇、再び2
しおりを挟む勢いよく炎に包まれ、カナルは再び自分は死ぬのだと意識した。
「嫌ああああ―――っ!!!!」
<熱い!! 熱い!! 熱いっ…!!! また僕は… 僕は… お腹の子を…!!>
ゴオオオオ―――ッ… と音を立てて、ニエブラ灯油でぐっしょり濡れたカナルの薄い寝衣が燃え、あっという間に灰となって崩れて行く。
<ボルカン様に! ボルカン様に会いたか…>
背中で縛られた手首に巻き付いた縄も、燃え落ちた。
…だが、カナル自身の身体は赤い炎に包まれていたが、炎で白い肌を焼かれることはなく…
自由になった手を使い、カナルは石床から身体を起こし、自分の手や足をまじまじと見てから、燃え盛る炎の向こう側に恐る恐る視線を移した。
ボルカンとボルカンの護衛騎士が、カナルを攫ったパラグアスの兄弟たちと剣を交えていた。
<ボルカン様―――ッ!! ボルカン様がこの炎を操っているんだ!!>
ガンッ! ガンッ! ガガン…ッ! ガッ! と…
騎士たちとボルカンが剣と剣を打ち合う、金属が激しくぶつかり合う音が、霊廟内に響く。
カナルの目の前でパラグアスの長兄アブリルが、左脇へと打ち込んだ猛攻を…
ガガン―――ッ!!!
ボルカンが上手く剣を叩き落とした。
アブリルがほんのわずか体勢を崩すと、大柄な体格と長い足を活かし、ボルカンは右足でがら空きになった腹に蹴りを入れる。
「ぐっ…!!」
一瞬よろめいたアブリルの腕に切りつけ、ボルカンは剣を床に落とさせることに成功した。
アブリルが落とした剣を、ボルカンが蹴ると石床を滑り灯明の下の石壁にぶつかる。
慌てて落とした剣を拾いに行こうとしたアブリルの頭を、ボルカンは自分の剣の柄で、ガツッ!! と鈍い音を立てて殴りつけ、昏倒させた。
「カナル―――ッ!!」
ボルカンは振り向き、手で振り払うように、カナルを包む炎を消し去り走り寄る。
「ああ…っ… あっ… ボ… ボルカン様…っ!」
動揺が激し過ぎて、カナル自身は気付いてはいなかったが…
「ヒ… ヒイィッ!!!」
パラグアスがカナルの背後に立ち、ボルカンが炎を自在に操る姿を見て、恐怖で悲鳴を上げた。
霊廟の最奥まで走り、ボルカンは建国の父始祖王グアルダル王の石棺の前でカナルを見つけたが、同時にパラグアスの姿も見つけ…
他の2人と戦う間に、カナルがパラグアスに人質に取られるのではないかと、ボルカンは危険を感じてカナルを護るために、敢えて炎で包み込んでいたのだ。
「カナル!! 遅くなって、すまないカナル!! カナル!!」
「ふぅ… ううっ… うううっ… ボ… ボル…カン様… ああ…」
薄い寝衣が焼け落ちて、裸になってしまったカナルの前に座り…
ボルカンはぶるぶると震えるカナルを抱き上げ、自分の膝の上に乗せて抱きしめた。
「ヒイイッ…!! 悪… 悪魔っ…!!」
ふらつきながら、ばたっ… ばたっ… と足音をたて、その場を逃げ出そうとしたパラグアスに気付いたボルカンは、さっ… と手を振り…
「愚か者め!! これが悪魔だと?! 始祖王グアルダル王の火の精霊に何を言うのだ!!」
今度はパラグアスの長い上着の裾に、ボボッ…!! と火を着けた。
「うああっ!! ぎゃあああああ―――っ!!!!」
火の精霊の炎はパラグアスの背中を這い上り、髪を焦がした。
「フンッ!!」
忌々し気にボルカンが鼻を鳴らす。
パラグアスの次兄コノセルを打ち負かし、剣を鞘に納めながら慌ててボルカンに走り寄って来た護衛騎士のデレチャが忠言する。
「殺してはいけません、陛下!! ここで反逆者たちを処刑しては、要らぬ誤解を受けますよ?! 生かしたままこの者たちが、どんな悪巧みを計画していたのかを吐かせて、正式な手順を踏んで、民たちの前で処刑するべきです!!」
"残虐王"という蔑称まで付けられ、散々野蛮人だと恐れられて来たボルカンが、2度も"炎の惨劇"と呼ばれる反逆者たちの処刑劇を行えば、今度こそ洒落にならないぐらい、王国民たちを怯えさせ、信頼を失墜させることとなる。
何より、それがパラグアスたちの狙いであり、未然に陰謀を防いだ意味が半減してしまう。
「ああ、分かっている!! カナルを怖がらせたこの愚か者を、ちょっとばかり脅しているだけだ!!」
面倒臭そうに、もう一度手を振り、ボルカンはパラグアスの背中で燃える赤い炎を消し去った。
護衛騎士デレチャはホッ… とため息を吐きながら、騎士服の上着を脱ぐと、ボルカンに抱き上げられたカナルにかけ、裸のままの身体を隠した。
3
今回の名前はスペイン語にお世話になりました。カナル→運河、国王ボルカン→火山、姉エリダ→傷、元夫フィエブレ→熱、兄エレヒル→選ぶ、ルイナス公爵→遺跡、宰相パラグアス→傘、正妃ディアレア→下痢、補佐官ベンタナ→窓、叔父インセンディオ→火事、 ○ ○ やっぱり外国語の響きは面白いですね( ´∀` )
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