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81話 後悔 ベンタナside
しおりを挟むボルカンと共に護衛騎士が執務室の扉を開けて、飛び出して行った後… ベンタナも続いて執務室の外へと飛び出した。
<自分の目が信じられない!! 炎が陛下に服従しているように見えた… いや、実際にそうなのかも知れない?! ・・ああダメだ!! 今はそれどころではないのに、集中しなければ!! もっと重要で優先しなければならないことがある!!>
火の精霊の力を目の当たりにして、ベンタナは混乱の中にいたが辛うじてボルカンの必死さを感じ取り、自分を制し優先順位を考えることに集中する。
<こんなことになるなら、陛下を置いて先に帰るのでは無かった!!>
たった今、自分が見た非現実的な光景も気になったが… 何よりも、自分の過失をベンタナは痛感していた。
「ベンタナ殿―――っ!!」
「・・・っ!!」
王宮騎士たちの詰め所へと走るベンタナに、ボルカンに付いていたもう一人の護衛騎士が、侍医を連れてばたばたと走り寄って来た。
「ああ、侍医殿!! 護衛騎士殿!! ボルカン陛下は、自力で目覚められました!! ですが、カナル様が謀反人により霊廟へ攫われ、お命が危険にさらされているとのことです!!」
「謀反人ですと?!」
「何ですって?! カナル様が!! 身重のカナル様に何てことだ…!!」
侍医が真っ青になり、カナルの心配を始める。
「ああ、補佐官殿!! この煙は一体どこから出ているかわかりますか?!」
執務室から廊下へと流れ出た煙に気付いた、王宮を警備する王宮騎士たちも、ばたばたと4人ほど集まって来た。
「護衛騎士殿、 それに王宮騎士の方々っ!! 霊廟へ行ってください!! ボルカン陛下に毒を盛り、カナル様を攫って霊廟へ連れ去った、反逆者宰相パラグアスを捕獲して下さい!! 急いで!!」
「パラグアス様がですって?! ああ、クソッ…!! 陛下に会いに来たと、何も疑いもせずに私は執務室へ通してしまった!! 何てことだ… クソッ…!! 皆、霊廟へ―――っ!!」
護衛騎士は悔しそうに罵り、叫びながら霊廟へと走り去る。
「侍医殿もどうか霊廟へ!! カナル様を一番に診察できるように!!」
「は… はい!!」
「私は王宮騎士の詰め所に向かい、このことを後宮にも知らせます!!」
ばたばたと騎士を追いかけるように、慌てて走り去る侍医の後ろ姿を見ながら、ベンタナも王宮騎士たちの詰め所へと急ぐ。
<肝心な時に陛下の側にいないなんて、私はなんて間抜けな補佐官なのだ!!>
寵愛する側妃カナルに夢中になるあまり、公務を疎かにするようになったボルカンに…
産まれたばかりの甥に会いに行けないのは、仕事が溜まっているせいだと、ベンタナはわざとらしく愚痴をこぼし、ボルカンに仕事をさせようとした。
<口が悪く、短気で乱暴な態度をとられているが、ボルカン陛下の心根は優しく暖かいお方だと知っていたから… ついつい、私は陛下に甘えてしまった!! これは私の怠慢から出た失態でもある!!>
『ああ、うるさい!! うるさい!! さっさと帰って甥でも姪でも、誰でも良いから会いに行け!! ぐちぐちとうるさくて公務に集中出来ないではないか!! ああ、うるさい!! 命令だベンタナ、さっさとこの執務室から出て行け―――っ!!』
だが、たとえ命令でも忠臣ベンタナとしては、さすがに主君1人に遅くまで執務室で仕事をやらせておいて、自分は家に帰ってぬくぬくとベッドに入るわけにも行かず…
可愛い甥の寝顔を見て弟夫婦と晩餐をとると、深夜であっても勤勉なボルカンなら執務室にまだいるだろうと、その足で王宮へと戻って来たのだ。
『陛下? 珍しいなぁ… こんなところで眠ってしまうなんて… んんっ?』
王子時代の経験から、警戒心の強いボルカンは自衛のために、今まで誰にも寝顔を見せたことなど無かった。
そんなボルカンが、執務室のソファで熟睡する姿を見てベンタナは違和感を感じる。
『変だな… 起きて下さい、陛下! ボルカン陛下?!』
慌てて起こそうと、大声で呼んでも… ボルカンの身体を乱暴に揺すっても… 一向に目覚めず…
これは緊急事態ではないか?! とベンタナは護衛騎士を呼んだのだ。
<申し訳ありません、陛下!! 申し訳ありません、陛下!!!>
心で何度も謝罪しながら、ベンタナは王宮騎士の詰所へと急ぎ走った。
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