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79話 炎の執務室 ボルカンside
しおりを挟む<火の精霊だ!! 偉大なる始祖グアルダル王の石棺の前で、火の精霊の加護を受けようと、私は自ら胸に剣を刺した!! だが、火の精霊の力で、胸の傷は全て元通りに治っていたではないか!! あの力で毒を消せないだろうか?!>
ボルカンは深い暗闇の中で、瞳を閉じて自分の体内へと集中する。
<あの時のように、血肉を巡る毒を、精霊の炎で焼き尽くすのだ!!>
泥人形のように重くて動かなかったボルカンの身体の奥が急激に熱くなる
<火の精霊よ!! 燃やせ!! 私の中の毒を、全て燃やせ―――っ!!!>
「ううっ!! 熱っ…?!!!」
毒を吐かせようと、ボルカンの口に指を入れていた護衛騎士は、手に熱湯をかけられたような熱さを感じ…
慌ててボルカンの口から指を引き抜く。
「ど… どうしたのだ?!」
「それが… ベンタナ殿… なっ! うああ―――っ?!」
ソファに寝かされたボルカンの周りの空気が熱せられ、その熱さで火傷しそうになった護衛騎士は慌てて距離を取った。
「ボルカン陛下?!! どうなって… あああっ!!!」
「何なんだこれは!! 陛下?! 陛下?!」
ボルカンを中心に渦となって熱風が吹き荒れ…
次の瞬間には、ボッ…!! と音を立てて、ボルカンの身体を赤い炎が包み込んだ。
「陛下―――っ?!!!」
「危ないベンタナ殿!! 下がって!!」
ボルカンを包む炎は、熱風で渦巻き炎の柱となって天井を焦がすほど、あっ… という間に大きくなり、危険を感じた護衛騎士は慌ててベンタナを、ずるずると引っ張って部屋のはしへと避難する。
山のように積まれていた、執務机の上の書類が熱風で舞い散り、ボルカンを中心に部屋中をグルグルと飛び回る。
熱風で舞う書類に次々と火が付き、ベンタナと護衛騎士の目には… ボルカンの周囲で、炎の蝶が戯れているようにさえ見えた。
「陛下をお助けしなければ!! ボルカン陛下―――っ!!!」
「ダ… ダメだ!! 下がるんだベンタナ殿!! この炎は、陛下から出ているようだ!!」
「そんなバカ・・な・・?!」
「・・・っ?!!」
渦巻く炎の中心にいたボルカンの腕が上がり、自分の顔に触れているのが2人に見え… ベンタナと護衛騎士は息を呑んだ。
炎がまるで、ボルカンの体内に帰って行くように、少しずつ勢いが弱まり小さくなって最後には消えてしまった。
ボルカンの身体も… ボルカンが着ている服も…
炎の中心にいたとは思えないほど、元の姿と変わらず…
――― その一方で、ボルカンの周りのモノは黒く焼け焦げ、ブスブスと煙を出して燻っていた。
床に落ちた書類や絨毯… 熱風で飛ばされ室内に散乱した物が、あちら、こちらで、いまだ小さな炎を上げてメラメラと燃えている。
執務室内は散々な有り様となっていた。
「・・・・っ」
「・・・・」
言葉を失くし、自分の目を疑うような光景を、呆然と見るベンタナと護衛騎士の前で、ボルカンはさっ… と手を振り、執務室内に残っていたメラメラと燃える炎を一瞬で消火した。
ふらふらと立ち上がり、ボルカンは執務机まで行くと、脇に立てかけてあった剣を取る。
「ハッ…!! ボルカン陛下?! あ… あの…」
剣を取るボルカンの姿を見て、先に反応したのは、護衛騎士の方だった。
「霊廟だ!! 霊廟でカナルが囚われている!! 早く行かないと、パラグアスに殺されてしまう!!」
「カナル様が?! なぜそのような…」
「後にしろ!!」
ボルカンは話す時間を惜しみ、護衛騎士に必要最小限の説明だけで、話を終わらせた。
「あっ!! もしや、その… パラグアス様が陛下に毒を盛ったのですか?!」
ベンタナも激しく動揺していたが、護衛騎士とボルカンの会話を聞き、少しだけ普段の落ち着きを取り戻すことが出来た。
「眠りの毒だ!! クソッ… 今は、話しているひまは無い!! 知りたいなら、後で自分の目で確かめれば良い!!」
「ボルカン陛下…?!」
「ベンタナ殿は、霊廟に騎士の手配を!! 私が陛下と行きます!!」
ボルカンに付いて行こうと… 一歩踏み出したベンタナを護衛騎士が呼び止める。
パラグアスに盛られた眠りの毒は、ボルカンの身体から完全に焼き消え…
立ち上がった時はまだふらふらとしていたが、剣を手に取り執務室の扉へ向かう頃には、ボルカンの足取りはしっかりとしたものとなっていた。
乱暴に扉を開くと、ボルカンは廊下に飛び出した。
3
今回の名前はスペイン語にお世話になりました。カナル→運河、国王ボルカン→火山、姉エリダ→傷、元夫フィエブレ→熱、兄エレヒル→選ぶ、ルイナス公爵→遺跡、宰相パラグアス→傘、正妃ディアレア→下痢、補佐官ベンタナ→窓、叔父インセンディオ→火事、 ○ ○ やっぱり外国語の響きは面白いですね( ´∀` )
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