80 / 150
74話 冷たい床の上2
しおりを挟む「お前たち、無礼だぞ!! 僕を縛り上げたうえにこんな臭い油をかけて 冷たいじゃないか!」
<やっぱり、僕を焼き殺す気なんだ!! ああ、クソッ…!! 裏切り者のうえに、人殺しか!! どうすれば助かる?! どうすれば赤ちゃんを守れるんだ?!>
声を出すだけでも、頭に強い痛みを感じたが、我慢してカナルは男たちを睨みつけた。
記憶を見ていたとはいえ、分からないこともたくさんある。
<どうすれば良いか、全然分からないけれど… とにかく時間稼ぎをしないと!!>
「これは、これはカナル様… ずいぶんと勇ましいですな! 本当に残念ですよ、あなたをボルカンのような野蛮人に、奪われてしまったことが」
なぜか楽し気に笑いながら、パラグアスは油まみれで転がされたカナルの前に片膝をつき、乱れて頬に張り付いた、漆黒の髪を指先で丁寧に小さな耳に掛けた。
「奪われただって?! 僕は側妃として王宮に上がったのだから、始めから僕はボルカン陛下のものだ!! 奪われたなどと… 宰相殿は酒でも飲み過ぎて酔っておられるのですか?」
むっ… と腹と立てたカナルは、あからさまに嘲笑し、パラグアスに言い返した。
時間稼ぎをするのなら、相手を挑発して怒らせるのは、一番良くない手だと頭では分かっているが…
元々誠実で真面目な質のカナルは、愛するボルカンの為に、言い返さずにはいられなかったのだ。
「おや? ご存知ではないのですかな、カナル様は? あの残虐王ボルカンは、姉のエリダ嬢ではなくあなたが王宮に来ると聞いた時、大嫌いな男など抱く気は無いと、周りの者たちが怯えるほど… それはもう、腹を立てていたのですよ?」
「ふっ…」
<ボルカン様にはボルカン様の複雑な事情があったのに、ボルカン様が王子時代からの友人だったくせに表面的なことしか知らないで、代弁者を気取るなんて、なんて愚かで底の浅い男なんだ!!>
パラグアスもカナルを言い負かそうと挑発するが…
カナルは精霊の力でパラグアスと初めて対面した時に、パラグアス自身の記憶を盗み見て全てを知っていたため、本気で嘲笑った。
ぴくっ… と微かに片眉が動いたが、パラグアスはそれ以外はカナルの嘲笑に反応せず、言葉を重ねた。
「エンペサル侯爵家との縁組ですから、断ることが出来ずにそれはもう嫌々あなたを受け入れたのです… あれは見ものでしたよ!! クッ… クッ… クッ… まぁ他にもっと有力な側妃候補が居たのですが、私の計画にあなたが必要だったので側妃候補の選定人を買収し、無理矢理ねじ込んだのですけどね」
「何だって?! それはどういう意味なんだ?!」
<はあぁ? 僕が必要だった?!>
「そのままの意味ですよ、私が考えた計画にはあなたが… といういかエンペサル侯爵家出身の側妃候補が必要だったというだけです」
眉間にしわを寄せるカナルの頬を、指の背でくすぐるように撫で…
パラグアスは視線をゆっくりと、カナルの顔からじわじわと首へ移し、そこから油で透けて肌にピタリと張り付いた、薄い寝衣の下の赤い乳首で留める。
「僕が必要?! ならなぜ、僕を殺そうとするんだ?!」
<訳が分からないよ… この男は、一体何が言いたいのか?!>
他人の番である自分を、やらしい目で見るパラグアスに心底ゾッ… としたが…
カナルはぴくりとも動かず、パラグアスに目で犯される屈辱に耐えた。
3
お気に入りに追加
593
あなたにおすすめの小説
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした
結城芙由奈@コミカライズ発売中
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。


【完】三度目の死に戻りで、アーネスト・ストレリッツは生き残りを図る
112
BL
ダジュール王国の第一王子アーネストは既に二度、処刑されては、その三日前に戻るというのを繰り返している。三度目の今回こそ、処刑を免れたいと、見張りの兵士に声をかけると、その兵士も同じように三度目の人生を歩んでいた。
★本編で出てこない世界観
男同士でも結婚でき、子供を産めます。その為、血統が重視されています。
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる