側妃候補は精霊つきオメガ

金剛@キット

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74話 冷たい床の上2

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「お前たち、無礼だぞ!! 僕を縛り上げたうえにこんな臭い油をかけて 冷たいじゃないか!」

<やっぱり、僕を焼き殺す気なんだ!! ああ、クソッ…!! 裏切り者のうえに、人殺しか!! どうすれば助かる?! どうすれば赤ちゃんを守れるんだ?!>

 声を出すだけでも、頭に強い痛みを感じたが、我慢してカナルは男たちを睨みつけた。

 記憶を見ていたとはいえ、分からないこともたくさんある。

<どうすれば良いか、全然分からないけれど… とにかく時間稼ぎをしないと!!>



「これは、これはカナル様… ずいぶんと勇ましいですな! 本当に残念ですよ、あなたをボルカンのような野蛮人に、奪われてしまったことが」

 なぜか楽し気に笑いながら、パラグアスは油まみれで転がされたカナルの前に片膝をつき、乱れて頬に張り付いた、漆黒の髪を指先で丁寧に小さな耳に掛けた。

「奪われただって?! 僕は側妃として王宮に上がったのだから、始めから僕はボルカン陛下のものだ!! 奪われたなどと… 宰相殿は酒でも飲み過ぎて酔っておられるのですか?」

 むっ… と腹と立てたカナルは、あからさまに嘲笑し、パラグアスに言い返した。

 時間稼ぎをするのなら、相手を挑発して怒らせるのは、一番良くない手だと頭では分かっているが…
 元々誠実で真面目な質のカナルは、愛するボルカンの為に、言い返さずにはいられなかったのだ。


「おや? ご存知ではないのですかな、カナル様は? あの残虐王ボルカンは、姉のエリダ嬢ではなくあなたが王宮に来ると聞いた時、大嫌いな男など抱く気は無いと、周りの者たちが怯えるほど… それはもう、腹を立てていたのですよ?」

「ふっ…」
<ボルカン様にはボルカン様の複雑な事情があったのに、ボルカン様が王子時代からの友人だったくせに表面的なことしか知らないで、代弁者を気取るなんて、なんて愚かで底の浅い男なんだ!!>

 パラグアスもカナルを言い負かそうと挑発するが…
 カナルは精霊の力でパラグアスと初めて対面した時に、パラグアス自身の記憶を盗み見て全てを知っていたため、本気で嘲笑った。

 ぴくっ… と微かに片眉が動いたが、パラグアスはそれ以外はカナルの嘲笑に反応せず、言葉を重ねた。

「エンペサル侯爵家との縁組ですから、断ることが出来ずにそれはもう嫌々あなたを受け入れたのです… あれは見ものでしたよ!! クッ… クッ… クッ… まぁ他にもっと有力な側妃候補が居たのですが、私の計画にあなたが必要だったので側妃候補の選定人を買収し、無理矢理ねじ込んだのですけどね」

「何だって?! それはどういう意味なんだ?!」
<はあぁ? 僕が必要だった?!>

「そのままの意味ですよ、私が考えた計画にはあなたが… といういかエンペサル侯爵家出身の側妃候補が必要だったというだけです」

 眉間にしわを寄せるカナルの頬を、指の背でくすぐるように撫で… 
 パラグアスは視線をゆっくりと、カナルの顔からじわじわと首へ移し、そこから油で透けて肌にピタリと張り付いた、薄い寝衣の下の赤い乳首で留める。
 
 
「僕が必要?! ならなぜ、僕を殺そうとするんだ?!」
<訳が分からないよ… この男は、一体何が言いたいのか?!>


 他人の番である自分を、やらしい目で見るパラグアスに心底ゾッ… としたが…

 カナルはぴくりとも動かず、パラグアスに目で犯される屈辱に耐えた。




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