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73話 冷たい床の上
しおりを挟むカビ臭い隠し通路の先に小さな扉が現れ、内側にあるちいさな鍵を開いてギギギギィ―――ッ… と扉を向こう側に押して、通路の外へと出る。
カナルはパラグアスの次兄コノセルの記憶を、夢の中で盗み見ながら自分に何が起きているかを、一つずつ確認してゆく。
正妃の部屋から入った隠し通路は、どうやら王宮の地下にある霊廟横の壁の裏に続いていたらしい。
パラグアスと兄弟たちは霊廟内に入り、一番奥のエステパイス王国、建国の王グアルダル王の質素な墓の前まで来ると…
そこでフッ… と記憶は途切れカナルは何も見えなくなる。
顔に冷たい何かをかけられ、カナルは眠りから目覚めた。
「ううっ…」
<頭が痛い… ああ、殴られたから?! めまいがして、ぐらぐらする! 身体もあちこち痛い… たぶん床に、放り出された時に打ったからだ! ああ、もう!! 赤ちゃんに何かあったら、夜の精霊の力を使って、お前たちを全力で呪ってやるからな!!>
一度、カナルは目を開けたが視界がぼんやりとして焦点が定まらず…
再び閉じて、頭痛に耐えながら、ス―――ッ… ハァ―――ッ… とゆっくりと深呼吸をしてから、もういちど目を開ける。
ガッチリと背中で腕を縛られ、カナルは冷たい石床に転がされていた。
<ああ、もうっ!! いつの間にか、腕まで縛られてるし… う゛う゛う゛痛い!! 腕も痛い!>
気を失っていても、男たちに触れられている間は、相手の記憶を盗み見ることが出来たため、カナルは自分の置かれた状況をほぼ、把握でき不思議なほど冷静だった。
「おおっと! 側妃様が目を覚ましたようだぞ?!」
じゃばじゃばと樽の栓を抜き、中身の液体をカナルにかけていた、パラグアスの次兄コノセルがニヤニヤ笑いを浮かべながら、兄弟たちに知らせた。
「ぐうっ…?!」
鼻に強い刺激を与える、独特の匂いがカナルを中心に辺り一面に広がっていて… 身体中の打撲傷から強い痛みを感じていたカナルは、その匂いで吐きそうになる。
<違う! 樽を見て酒だと思っていたけれど、僕にかけているこれは油だ!! 酒ではなくて油を僕にかけている!! それも、普通の油ではない、この臭い油は?! まさか… もしかして…?!>
これから自分が、何をされるのか予想がつき、カナルは青ざめた。
<この独特のきつい匂いがある油は… 隣国ニエブラで土の中から採れる黒い油を精製して作る"ニエブラ灯油"だ!!>
エステパイス王国では嫌な臭いが嫌われ、あまり使われることは無いが…
以前、カナルの実家エンペサル侯爵領に、ニエブラからエストレジャの花の原液を盗みに来た強盗たちが、村に火を放ち混乱に乗じて逃げようとして使ったのだ。
あっという間に火は燃え広がり、近くの森にまで火が移りエンペサル騎士団だけではなく、カナルや邸の使用人まで、老若男女問わず消火活動に参加した。
「そのまま眠っていれば、恐怖を感じることも無く死ねたのに、あんたは運が悪いな!」
長兄アブリルが少しだけ同情の表情を浮かべたが… カナルを殺すのを、止める気は無さそうだ。
2
今回の名前はスペイン語にお世話になりました。カナル→運河、国王ボルカン→火山、姉エリダ→傷、元夫フィエブレ→熱、兄エレヒル→選ぶ、ルイナス公爵→遺跡、宰相パラグアス→傘、正妃ディアレア→下痢、補佐官ベンタナ→窓、叔父インセンディオ→火事、 ○ ○ やっぱり外国語の響きは面白いですね( ´∀` )
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