上 下
78 / 150

72話 夜の後宮で6

しおりを挟む

 記憶の持ち主が身体に触れたらしく、カナルは夢の中で再び誰かの記憶を盗み見ることが出来た。

 その記憶の場所が、カナルには後宮内の正妃ディアレアの部屋だというのは分かったが…
 カチッ! カチッ! ガチャンッ… と金属と金属が擦れ合うような、微かな音が本棚の奥からしたかと思うと、続いてギギギギィ―――ッ… と手入れの悪い扉を開ける時のような重々しい音が響く。

<ええ~?! あんな場所に仕掛けが?! 正妃様の部屋に隠し通路?! そうか! 王族だけが知る、もしもの時の避難用通路か!>

 本棚が分厚い扉のようになり、手前へ動いて開き、裏から隠し通路が現れ、そこから蝋燭ろうそくを立てた燭台を持った宰相のパラグアスが顔を出し、正妃の部屋へと入って来た。

<宰相のパラグアス殿も、正妃様の仲間?! 確かにこの人は油断できない人だとは思ったけれど… ボルカン様が信用する重臣が?! そんな、まさか?!>

 隠し通路よりも更に目を疑うような人物が現れ、カナルは自分の目が信じられなくて、混乱におちいる。


『ああ! パラグアス、やっと来てくれたのね?! あなたが側に居ないから、不安で、不安で… 心が壊れてしまいそうだったわ!!』

『どうか許して下さい! 薬の効きめが弱くて、ボルカンを眠らせるのに手間取ってしまったのです… 』


<え?! 僕だけではなくて、ボルカン様まで?! 薬で眠らせたって… なぜ?! この人たちは、一体何をする気なの?!!> 

 2人は正妃の部屋で熱烈に抱き合い、唇を何度も合わせていた。

<う゛う゛う゛っ… 嘘でしょう?! この2人が…?!  正妃様と宰相のパラグアス殿が、まさかこんな関係だなんて!! どれだけ、ボルカン様を裏切れば気が済むんだ!! 何て人たちだ!!>


『私たちの計画は上手くいったのね?!』

『フフフッ… まだ気が早いですよ、ディアレア様… これはあなたを私のものにするための、記念すべき最初の一歩です!』

『嬉しいわ!! 私たちはもうすぐ、1つになれるのね?!』
 正妃ディアレアは豊満な胸を押し付けて、パラグアスにしがみ付いた。


『パラグアス、急いだ方が良い! いつまでグズグズしているのだ?!』

 イライラとパラグアスに先を促しながら、ディアレアの侍女から、長兄アブリルは小さめの樽を受け取り、ちゃぷっ… ちゃぷっ… と水音を立てながら、両手で抱える。

<あの樽は何?! お酒の樽だよね?! 何でお酒が必要なの?! 訳が分からないよ!!>


『すみませんアブリル兄上… 愛する人が私の腕の中にいるから、つい嬉しくて!』


 "つい嬉しくて" 明るい声でそう言った、パラグアスの唇は口角が上がり、微笑んでいるように見えるが…
 瞳は心から喜ぶというよりも、背筋が凍りそうな冷たい光を放ち、カナルには少しも笑っているようには見えなかった。

<あ… この瞳、知っている! 巻き戻る前に見た、僕と嫌々結婚した時のフィエブレと同じだ!! このパラグアスという人は… 本当に正妃ディアレアを愛しているの? きっと嘘だ、この人は愛してない! 僕には分かる!>

 部屋に正妃ディアレアと侍女を残し…
 男3人は意識の無いカナルを連れて、本棚の裏から真っ暗でカビ臭い隠し通路に出る。

<本当に僕はどうなるの? このまま殺されてしまうの?! 赤ちゃんを守らなければ! ボルカン様はあんなに喜んでくれたのに、僕も会いたい! 今度こそ絶対に! 絶対に! 今度こそ!!>



 パラグアスを先頭に、蝋燭の灯りで古く細い通路を照らしながら、下へ、下へと進んで行く。






しおりを挟む
感想 56

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?

雪 いつき
BL
 仕事帰りにマンホールに落ちた森川 碧葉(もりかわ あおば)は、気付けばヌメヌメの触手生物に宙吊りにされていた。 「ちょっとそこのお兄さん! 助けて!」  通りすがりの銀髪美青年に助けを求めたことから、回らなくてもいい運命の歯車が回り始めてしまう。  異世界からきた聖女……ではなく聖者として、神聖力を目覚めさせるためにドラゴン討伐へと向かうことに。王様は胡散臭い。討伐仲間の騎士様たちはいい奴。そして触手生物には、愛されすぎて喘がされる日々。  どうしてこんなに触手生物に愛されるのか。ピィピィ鳴いて懐く触手が、ちょっと可愛い……?  更には国家的に深刻な問題まで起こってしまって……。異世界に来たなら悠々自適に過ごしたかったのに!  異色の触手と氷の(天然)騎士様に溺愛されすぎる生活が、今、始まる――― ※昔書いていたものを加筆修正して、小説家になろうサイト様にも上げているお話です。

【完結】婚約破棄された僕はギルドのドSリーダー様に溺愛されています

八神紫音
BL
 魔道士はひ弱そうだからいらない。  そういう理由で国の姫から婚約破棄されて追放された僕は、隣国のギルドの町へとたどり着く。  そこでドSなギルドリーダー様に拾われて、  ギルドのみんなに可愛いとちやほやされることに……。

隣人、イケメン俳優につき

タタミ
BL
イラストレーターの清永一太はある日、隣部屋の怒鳴り合いに気付く。清永が隣部屋を訪ねると、そこでは人気俳優の杉崎久遠が男に暴行されていて──?

最強S級冒険者が俺にだけ過保護すぎる!

天宮叶
BL
前世の世界で亡くなった主人公は、突然知らない世界で知らない人物、クリスの身体へと転生してしまう。クリスが眠っていた屋敷の主であるダリウスに、思い切って事情を説明した主人公。しかし事情を聞いたダリウスは突然「結婚しようか」と主人公に求婚してくる。 なんとかその求婚を断り、ダリウスと共に屋敷の外へと出た主人公は、自分が転生した世界が魔法やモンスターの存在するファンタジー世界だと気がつき冒険者を目指すことにするが____ 過保護すぎる大型犬系最強S級冒険者攻めに振り回されていると思いきや、自由奔放で強気な性格を発揮して無自覚に振り回し返す元気な受けのドタバタオメガバースラブコメディの予定 要所要所シリアスが入ります。

王家の影一族に転生した僕にはどうやら才能があるらしい。

薄明 喰
BL
アーバスノイヤー公爵家の次男として生誕した僕、ルナイス・アーバスノイヤーは日本という異世界で生きていた記憶を持って生まれてきた。 アーバスノイヤー公爵家は表向きは代々王家に仕える近衛騎士として名を挙げている一族であるが、実は陰で王家に牙を向ける者達の処分や面倒ごとを片付ける暗躍一族なのだ。 そんな公爵家に生まれた僕も将来は家業を熟さないといけないのだけど…前世でなんの才もなくぼんやりと生きてきた僕には無理ですよ!! え? 僕には暗躍一族としての才能に恵まれている!? ※すべてフィクションであり実在する物、人、言語とは異なることをご了承ください。  色んな国の言葉をMIXさせています。

処理中です...