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72話 夜の後宮で6
しおりを挟む記憶の持ち主が身体に触れたらしく、カナルは夢の中で再び誰かの記憶を盗み見ることが出来た。
その記憶の場所が、カナルには後宮内の正妃ディアレアの部屋だというのは分かったが…
カチッ! カチッ! ガチャンッ… と金属と金属が擦れ合うような、微かな音が本棚の奥からしたかと思うと、続いてギギギギィ―――ッ… と手入れの悪い扉を開ける時のような重々しい音が響く。
<ええ~?! あんな場所に仕掛けが?! 正妃様の部屋に隠し通路?! そうか! 王族だけが知る、もしもの時の避難用通路か!>
本棚が分厚い扉のようになり、手前へ動いて開き、裏から隠し通路が現れ、そこから蝋燭を立てた燭台を持った宰相のパラグアスが顔を出し、正妃の部屋へと入って来た。
<宰相のパラグアス殿も、正妃様の仲間?! 確かにこの人は油断できない人だとは思ったけれど… ボルカン様が信用する重臣が?! そんな、まさか?!>
隠し通路よりも更に目を疑うような人物が現れ、カナルは自分の目が信じられなくて、混乱におちいる。
『ああ! パラグアス、やっと来てくれたのね?! あなたが側に居ないから、不安で、不安で… 心が壊れてしまいそうだったわ!!』
『どうか許して下さい! 薬の効きめが弱くて、ボルカンを眠らせるのに手間取ってしまったのです… 』
<え?! 僕だけではなくて、ボルカン様まで?! 薬で眠らせたって… なぜ?! この人たちは、一体何をする気なの?!!>
2人は正妃の部屋で熱烈に抱き合い、唇を何度も合わせていた。
<う゛う゛う゛っ… 嘘でしょう?! この2人が…?! 正妃様と宰相のパラグアス殿が、まさかこんな関係だなんて!! どれだけ、ボルカン様を裏切れば気が済むんだ!! 何て人たちだ!!>
『私たちの計画は上手くいったのね?!』
『フフフッ… まだ気が早いですよ、ディアレア様… これはあなたを私のものにするための、記念すべき最初の一歩です!』
『嬉しいわ!! 私たちはもうすぐ、1つになれるのね?!』
正妃ディアレアは豊満な胸を押し付けて、パラグアスにしがみ付いた。
『パラグアス、急いだ方が良い! いつまでグズグズしているのだ?!』
イライラとパラグアスに先を促しながら、ディアレアの侍女から、長兄アブリルは小さめの樽を受け取り、ちゃぷっ… ちゃぷっ… と水音を立てながら、両手で抱える。
<あの樽は何?! お酒の樽だよね?! 何でお酒が必要なの?! 訳が分からないよ!!>
『すみませんアブリル兄上… 愛する人が私の腕の中にいるから、つい嬉しくて!』
"つい嬉しくて" 明るい声でそう言った、パラグアスの唇は口角が上がり、微笑んでいるように見えるが…
瞳は心から喜ぶというよりも、背筋が凍りそうな冷たい光を放ち、カナルには少しも笑っているようには見えなかった。
<あ… この瞳、知っている! 巻き戻る前に見た、僕と嫌々結婚した時のフィエブレと同じだ!! このパラグアスという人は… 本当に正妃ディアレアを愛しているの? きっと嘘だ、この人は愛してない! 僕には分かる!>
部屋に正妃ディアレアと侍女を残し…
男3人は意識の無いカナルを連れて、本棚の裏から真っ暗でカビ臭い隠し通路に出る。
<本当に僕はどうなるの? このまま殺されてしまうの?! 赤ちゃんを守らなければ! ボルカン様はあんなに喜んでくれたのに、僕も会いたい! 今度こそ絶対に! 絶対に! 今度こそ!!>
パラグアスを先頭に、蝋燭の灯りで古く細い通路を照らしながら、下へ、下へと進んで行く。
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