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69話 夜の後宮で3 正妃ディアレアside
しおりを挟む正妃ディアレアの白く優雅な手は、密かに震えていた。
「・・・・っ」
<本当にこれで良かったのかしら? 私は大きな間違いを犯しているのではないの?! あの残虐王の寵愛を受ける側妃を、誘拐する手助けをするなんて?!>
昼間、宰相の執務室でパラグアスに聞いた話を、もう一度思い出していた。
いつもディアレアには優し気な表情を浮かべ、心を蕩かすような甘い声で、話すパラグアスが…
今まで見たことが無い厳しい表情で、切々と近い将来ディアレアの身に起きるであろう悲劇を語った。
『ディアレア様… 以前も申し上げましたが、寵愛するカナル妃にボルカン陛下のお子が出来たとなると… ディアレア様のお立場が、危うくなるのは間違いありません?』
『でも、あの人は私と結婚した時に、側妃に子が出来ても正妃は私だと、父と… 先代ルイナス公爵と確約しました! パラグアス、そんなはずはありません!』
『ですが約束をしたあなたのお父上は亡くなり、ボルカン陛下はディアレア様に愛されていないことを、今までずっと恨んでいましたから… そこへ自分を慕う寵姫が現れ、先ほど懐妊の報を陛下自身からお聞きした時に、カナル妃を正妃にしたいと相談されたのです』
『そんな… あの残虐王は野蛮なだけでなく、大嘘つきだったのね?! なんて卑劣なの?!』
『恐らくディアレア様に、身に覚えのない罪を着せて、正妃の座から降ろそうとするのではないかと』
『私を臣籍に降ろすだけでは、足らないのですか?』
『はい、残念ながら表向きは陛下の子を産んだディアレア様は、民に陛下の番と認識されています… そのことをあなたに暴露されれば、陛下のアルファとしての体面に傷がつきますから』
『そんな…』
『自分の妃を番にすることも出来ない、惨めな王だと民たちに知れ渡る前に、口封じのために処刑されるような重罪を着せられるのではないかと思われます』
『私が拒んだことを… そんなっ…! 王女は? 私の娘はどうなるの?!』
『…暗殺されるのではないかと』
『酷い! こんなこと許されないわ』
『ディアレア様には、大きな決断をして頂かないといけません!』
ガチャッ…! いきなり扉が開き、正妃の自室へ騎士たちがどかどかと、荒々しい足音を立てて、カナルを担いで入って来た。
「キャッ…!!」
ギョッ… と目をむき、ディアレアは小さな叫び声をあげて、ソファの上で飛び跳ねた。
ディアレアの前で薄い寝衣を着ただけのカナルを、護衛騎士コノセルはどさりっ… と床の上に乱暴に下ろす。
「・・・っ!」
<ああ、これでもう後戻りは出来ないのね! こんなことになるなんて… こんなことに! お父様が生きていらしたら、あの残虐王を説得できたのに、私はなんて不運なのかしら!!>
正妃ディアレアは震える手で、自分を抱きしめた。
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