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68話 夜の後宮で2

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 ベッドの脇に小さなロウソクを1つ灯しただけの薄暗い寝室で、熟睡していたカナルだが、人の気配がしてふと目覚めた。

「…んんん~?」
<あ… ボルカン様?>

 だが、ハッ… と息を吞む音が聞こえ、どかどかと足音荒くカナルが眠っていたベッドへ近づいて来た。

 寝ぼけ眼でぼんやりとしながらも、ムクリと身体を起こしたカナルは…

 ガツッ…!! 

「う゛ぅっ!!」
 大きな拳で殴られカナルは昏倒する。

 重い荷物のように乱暴に肩に担がれ、寝室を出て居間を通り抜けカナルの私室を出る。
 薄れゆく意識の中でカナルは、カチッ… カチッ… カチッ… と聞き慣れた音を聞きながら、何も分からなくなる。

<エレヒル兄上やフィエブレからよく聞こえた、腰に下げた剣が… 歩くたびに金具で擦れる、騎士の音が…>



 意識を失ったカナルの中に、夜の精霊の力が誰かの記憶を呼び込んだ。
 夢の中でカナルは誰かの記憶を盗み見る。
 
『お早く、こちらです!』
 ひそひそと押さえた声で、誰かを急かし先導する女性にカナルは見覚えがあった。

<正妃ディアレア様の侍女だ! 晩餐会の前に挨拶に行った時に見た… 僕がエストレジャの小瓶を差し出した時、受け取って正妃様に手渡した人…>

 足音を消しながら大急ぎでカナルの部屋の前まで来て、もう1人の騎士が扉を開いた。
 扉を開いたもう1人の騎士にも、カナルは見覚えがある。

<ああ、この騎士は… 確か晩餐会の大広間の入口で見た、正妃様の護衛…?>

『お前はここで誰か来ないか、見張っていろ!』

『はい』
 侍女に命令して、見慣れたカナルの私室へと騎士たちが侵入する。


<ああ嫌だ!! 僕を殴った!! でも、お腹では無くて良かった…>


『急げコノセル、約束の時間を過ぎている!』

『クソッ…! こいつの護衛騎士が、いつまでも待機所に居座るから遅くなっちまった!』

『今更、言っても仕方ないだろう? 護衛対象が眠るまでは護衛騎士も任務を終われないのだから、どちらにしても従者がこいつに張り付いていたのだし』

『まったく、さっさと眠れば良いものを!! 面倒をかけさせやがって!!』

『ぐだぐだ文句を言ってないで、お前はさっさとそいつを運べ!』

<ああ… そうなんだ?! 知らなかった、あっ!! そう言えばバイラルが いつも僕の部屋を出た後で、護衛騎士のところへ報告に行くとか… 前に言っていたような気が…?>

 深夜まで眠らずに、カナルがボルカンを待ち続けていたために…
 カナル担当の護衛騎士2人は、従者のバイラルから護衛対象であるカナルが就寝した報告を受けるまで、後宮に付属する護衛騎士の待機所で一人ずつ順番に仮眠を取り、待機していたのだ。

 当然、カナルを秘密裏に誘拐しようとしていた、正妃ディアレアの護衛2人も、カナルの護衛と共に待機所で待機するしかなかった。

 カナルが眠り、バイラルに就寝報告を受けた護衛騎士がいなくなり、後宮内へと正妃ディアレアの侍女が引き入れたのだ。

<まさか正妃様が、ここまでするなんて… こんなことなら彼女にしっかり触れて、もっと記憶を盗み見ておけば良かったよ~ あ~あ… これから僕はどうなるの? 何でこんなことに?!> 




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