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67話 夜の後宮で
しおりを挟む「ふあぁぁぁ~~~・・・」
後宮の私室でカナルは、大きく開いた口を掌で隠しながらあくびをした。
「カナル様… 夜も深まって来ましたし、お休みになられた方が、よろしいのではありませんか?」
夜食とティーセットを片付けながら…
従者のバイラルは、眠そうに目を閉じてソファーに座る主を見下ろし、心配で声を掛けた。
「う~ん… でも、さっきまで寝ていたしねぇ~」
「ですが陛下にはカナル様をたっぷりと休ませるようにと言われましたし」
「ふふふっ… さっきの湯あみが気持ち良かったからかなぁ… でも、陛下がいらした時に、僕が眠ってしまっているのは良くないと思うんだよ?」
と言いながら、再びカナルは… ふあぁぁぁ~~~・・・ と大あくびをして、にじみ出た目尻の涙を指先で拭い、ゆらゆらと身体を左右に揺らす。
「そうでしょうか? 陛下の寝室で、カナル様の可愛らしい寝顔を楽しそうに見つめていたお姿を、何度もお見掛けしましたから… カナル様に甘い陛下なら眠っていらしても、気にしないのではないでしょうか?」
「う゛う゛う゛っ! ボルカン様ってば、僕の寝顔をそんなに見てたの? よだれとか、垂らしてなかったかなぁ? うわぁ! 恥ずかしい!!」
「カナル様は陛下に全裸も見られているのですから、よだれぐらい、どうってことないですよ!」
未成年ならではのニコニコと邪気の無い笑顔で、フォローしようとしたバイラルにさらりと言われ、真赤に染まるカナル。
「う゛う゛う゛っ!! バイラル、お願いだからそれ以上、何も言わないでっ!」
<確かに、ボルカン様にはよだれよりも、もっと恥ずかしい… ごにょごにょな液を見られてしまっているけれど… ああっ! 慣れたと思っていたのに、改めて未成年のバイラルに言われると、何とも居たたまれない気持ちになるぅ~ う゛う゛う゛~っ!>
羞恥で熱くなった顔を、ぺたぺたと冷たい掌で触れ、カナルは顔の熱を冷ます。
「申し訳ありません、カナル様を辱めるつもりはなかったのですが… 言葉が過ぎました!」
「いやいや、バイラルは正直で良いよ~ いつまでも恥ずかしがっている僕が悪いのだから、いつも頼りにしているからねバイラル」
<バイラルは頭の良い子だから、他人の前では絶対に軽口は言わないし… 僕の前でだけ、親しみを込めて素直に何でも話してくれるから、心の中に嘘が無いと分かるんだよねぇ~ だから、ボルカン様もバイラルを信頼してるみたいだし>
「これからは気を付けます」
「ふふふっ… 良いよ、良いよ、バイラル~ 今のままで」
従者バイラルは自分が仕えるカナルの前では、いつもデレデレしているボルカンを見ているため、残虐王を少しも怖がらない数少ない貴重な人間となっていた。
王都へ来る前にバイラルは、カナルの兄エンペサル侯爵エレヒルに、『残虐王には気を付けろ』 としつこく注意され、自分がカナルを守らなければと、気を張っていたのが嘘みたいだと、拍子抜けしているほどである。
エンペサル侯爵領内で、悪魔憑きか? と恐れられるほど、夜の精霊の加護で変貌したカナルを恐れなかったバイラルは、成人前ではあるが元々が剛胆な若者なのだ。
「ふあぁぁぁ~~~・・・ ああ~っ あくびが止まらない~っ やっぱり眠いやぁ~ バイラルの言う通り、ベッドで眠りながら、ボルカン様を待つことにするよ」
<こんなに眠いということは、僕の身体が眠りたいと言っているのだから、赤ちゃんのためにも、眠った方が良さそうだね>
お腹を撫でながら、カナルは眠気に負け起きたまま、ボルカンを待つのを断念する。
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