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64話 国王補佐官ベンタナ2 ベンタナside
しおりを挟む良い意味で予想外だったのは、短気で気難しく、荒々しい性格だと言われている国王ボルカンは、確かに噂通りの性格だったが…
けして陰険で性悪な質では無かったことだ。
確かにバッ…! と怒りに火が付き激しやすい質だが、ボルカンの威嚇に屈して、怯えて意見することを放棄し、逃げ出したりさえしなければ…
ボルカンは話し合いに応じ、正しい意見だと納得したら、自分の我を通そうとはせず、素直にベンタナの意見を取り入れ綺麗に怒りを納めるのだ。
重要なのは間違った思い込みで、残虐王の蔑称に惑わされたりしないことで…
怒り狂って当たり散らされても、その激しい怒りの勢いと恐怖に負けずに、ボルカンとしっかり向き合い信頼関係を築けるかである。
何度も補佐官をクビになりかけた危機を乗り越えて、ベンタナがその境地に達するまで、1年以上も費やした。
ルイナス公爵は、後が無く切羽詰まった状況に追い詰められたベンタナだからこそ、そこまで耐え抜き、簡単に逃げ出すことは出来ないだろうと読み…
当時はまだ見習いだったベンタナを、普通ではあり得ない大抜擢をしたのだ。
確かに残虐王と恐れられるような野蛮な方法で、反逆の首謀者だった叔父インセンディオや、護衛、側近たちを霊廟で焼き殺したが…
それはある意味、とても効果的な方法でもあった。
その衝撃的な処刑劇のおかげで、ボルカンが未熟だからと軽く扱う人間がいなくなったからだ。
やり手であり、誠実な忠臣でもあるルイナス公爵を、腹心として宰相に選んだのも、ボルカンが有能な証拠ではないか? と…
残虐王の別名に心底怯えることがなくなったベンタナは、そう思えるようになっていた。
<ふふふふっ… 苦労はしたけど、しっかりとその恩恵は受けているから、文句は言えないな! オメガの弟は無事に社交デビューして、相思相愛の相手とめぐり会い、持参金を付けて嫁がせることが出来たし…>
少し前に、甥っ子が産まれたばかりで、そのことを考えるとベンタナは、頬が緩みっぱなしになる。
実家の子爵家とは、ベンタナがオメガの弟を引き取った時に、兄夫婦と派手に大ゲンカをして絶縁した。
その後… 社交界の噂では、気弱な兄は酒とギャンブルに溺れた末に愛人を作り、夫婦仲は冷え切っているという話だ。
バタァ―――ンッ!!!!
大きな音を立てて、執務室の扉が乱暴に開き、並んだ事務官たちが慌ててササッ… と脇へ寄り、ニヤニヤと上機嫌で笑うボルカンを通す。
「陛下、そろそろ公務の続きをして頂かないと、今夜はカナル様の寝室へ行けなくなりますよ?」
チラリと今日中に裁可しなければいけない書類の山を見あげ、ベンタナはボルカンにチクリッ… と嫌味を言ってみた。
「そ… それは困る!! 今夜は必ずカナルに会いに行くと約束したのだ!」
ギョッ… とボルカンは目をむき、書類の山を見あげて、顔をしかめ…
ため息を吐きながら、裾の長い上着を脱ぎ、ばさっ… と執務室のすみに置かれるソファセットに放り投げる。
「でしたら早急に、この山と積まれた書類を処理して終わらせてください! 私も今夜こそは可愛い甥の顔を見に行きたいので」
胸に手を当て、ベンタナは慇懃無礼に頭を下げた。
「うぐぅ…!! 分かったから嫌味を言うな、ベンタナ!! 最近のお前はトゲトゲしいぞ?! 私のように早く嫁を取れ!! 嫁は良いぞぉ~…!!」
何かを思い出したらしく、ボルカンは再びニヤニヤと笑い出し、自分の顎をゴシゴシとこする。
「陛下… どうか口では無く、頭と手を動かして下さい」
<確かにいつか私も嫁が欲しいが… その前に探すひまが無いのに、どうやって嫁を取れば良いのか…>
苦笑が浮かび、ベンタナは小さく横に顔を振る。
「まったくお前は… もう少し艶事に興味を持った方が良いぞ?!」
渋い顔になったボルカンは、どうやら本気でベンタナを心配している様子だ。
「本当によろしいのですか? 陛下と一緒に私まで艶事に溺れることにでもなれば… 書類仕事がこの執務室の床にまで積まれることになりますが?」
「うるさいぞ、ベンタナ! お前もさっさと仕事をしろ!!」
むっ… としながらボルカンは珍しく頬を赤らめて怒鳴った。
さっ… とボルカンに背中を向け、ベンタナはクスクスと忍び笑う。
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