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61話 溺愛

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 寝室のベッドの上で、ボルカンの腕の中… 至福の時を楽しむうちに、ふとカナルの脳裏に不安がよぎった。

「あの… ボルカン様?」
「なんだ?」 

「ええっとぉ… そろそろお仕事に戻らなければいけないのでは… ありませんか?」

<心がすごく暖かくて… すごく幸せで… ボルカン様の愛情もいっぱい感じるし… このまま永遠にボルカン様とピッタリとくっついていたいけれど…> 

 甘い雰囲気をぶち壊してしまうであろう、自分の言葉にボルカンへの罪悪感を持ったカナルは、おずおずとたずねた。


「・・・・・・」
 カナルの予想通り、急に不機嫌そうになったボルカンは口をむっ… と曲げた。

「先ほど陛下に会いたくて、執務室の前まで行った時… たくさんの事務官たちが忙しなく出入りしていたので、きっと陛下のお仕事が溜まりに溜まってしまうのではないかと… 思いまして…?」

<…だって、さっきはあまりにもボルカン様が忙しそうに見えたから… 僕は赤ちゃんが出来たことを、直接会って伝えるのは止めようと思ったぐらいだもの… 本当に離れ難いけれど…>

 ちらちらと顔色を見ながら、カナルはボルカンに執務室へ戻り、仕事をした方が良いのではないか? と促した。


「・・・・・・」
 ボルカンの眉間の縦皺が、カナルの言葉で深くなる。


「側妃候補として王宮へ上がる前に、僕の兄エレヒルが言っていました… 歴代の国王様の中でも、民のためにたくさん働く勤勉な賢王で… "ボルカン陛下はとても偉大な王様"だと…」

 カナルにその話をした時エレヒルはもう一つ大切な話をした。

『いいか、カナル! 短気で気難しくて荒々しい性格だから、ボルカン陛下は怒らせると何をするか分からない王様なのだ、言葉には十分気を付けろよ?』

 …と、エレヒルはカナルに何度も注意したことは、ボルカンには秘密だ。

「で… ですから、僕のせいでボルカン陛下は、"なまけ者の王"だ… と言われるようになったら、嫌だなぁ~… と思うのです」

 無意識のうちに自分のお腹を撫でながら、カナルはボルカンに忠言した。
 その様子を見て、ボルカンもカナルのお腹を一緒に撫でる。

「うう~む… なるほど! 私のことは何を言われても、気にしないが… それは確かに私も嫌だ! お前がそのように言われるのは…」

「陛下… 陛下のお子様のためにも、どうかこれからは気にして下さい」

「ふふふっ… そうだな、カナルの言う通りだな!」

「そうです! 僕の言う通りにして下さい!」
 苦笑するカナルに釣られて、ボルカンもにへら~っ… と幸せそうに笑う。

「・・・・っ」
 …再びカナルの胸が、キュンンッ…! と鳴った。

<うわあぁ!! ボルカン様が可愛い~…っ! うわあぁ~っ! うわあぁ~っ! すごく大好き~…!! >


 愛しさが込み上げて来て我慢できず、カナルは自分のお腹を撫でていた手を上げ、幸せそうに笑うボルカンの頬を撫で…
 

 ぐぐぅ~っ… と伸び上がり、ボルカンの唇にチュッ…とキスをして甘噛みをする。







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