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60話 相思相愛4 ボルカンside

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 5人の側妃候補と、ボルカンは謁見の間で同時に顔を合わせた。

〈ああ、"彼女" だ! どれだけこの時を望んだことか!!〉

 ずっと会いたくても会えなかった、文通でしか心を通わせることが許されなかった"彼女"が…
 自分が望んだ伯爵令嬢が、その場にいることを確認し、ボルカンは期待で胸がふくらんだ。


 その夜、ボルカンは喜び勇んで後宮へ向かい、"彼女" の私室を訪れた。

 ようやく望みが叶い、ニコニコと笑みがこぼれるボルカンとは違い… "彼女" は緊張し、小さな身体を強張らせている。


『久しぶりだな… 元気にしていたか?』

『…はい、陛… 陛下!』

『またこうして会えたこと、嬉しく思うぞ!』

『は… はい、陛下…』

『一方的に、手紙を送るのを止めてしまったことを、許して欲しい』

『い… いえ、陛下… そ… そのようなことは、どうかお気になさらないで下さい!』

 "彼女" はうつむいたまま、いくら話しかけても一向にボルカンの顔を見ようとはしなかった。

<ああ… 私の容姿が精霊の加護を受け、変わってしまったから戸惑っているのだな?>

『叔父インセンディオに盛られた異国の毒のせいで、私の姿は大きく変わってしまったが… 私自身は何も変わらないから、安心すると良い』

『・・・・・・』


 目に見えない存在、火の精霊に関する話は民に混乱を招く恐れがあると、一切口に出さない方が良いとルイナス公爵に助言され…
 あらかじめ公爵と話し合って決めた変貌の理由を、重臣たちに話した時と同じように、ボルカンは伯爵令嬢にも語って聞かせた。



 ボルカンが伯爵令嬢の細い肩に触れると、びくっ… と震えた。

<今夜はいくらでも、彼女を発情させても良いのだ!>

『さぁ、顔を上げてくれ!』

『は…い…』

 "彼女" の小さな顔は青ざめ、身体はガタガタと震えていた。

『そんなに緊張するな! 手紙で気持ちを語った時のように、心を穏やかにすると良い』

 感極まりボルカンは令嬢の頬に触れ、キスを落とそうと唇を寄せるが…


『いやあぁぁぁぁぁぁ――――っ…!!!!!!』

 "彼女" は怯えた叫び声をあげながらボルカンの手を振り払い後退った。

『何なんだ?! さっきも言ったように、私を怖がる必要は無いのだ、私は以前の私と変わらないのだから… ほらっ! 私に触れてみれば分かるから!!』

『ひぃ…っ!! やっ…!』

 震える令嬢の華奢な肩を、強引に引き寄せてボルカンはギュッ… と力いっぱい抱きしめると…
 ボルカンの腕の中で、石のようにガチガチに強張った小さな身体からぐにゃりと力が抜け、その場に崩れ落ち令嬢は失神した。


『そんな… 何故だ?! おい?! おい、起きろ?!! 起きろ――っ!』

 身体を揺すっても声をかけても令嬢は目覚めず、ボルカンは急いで侍医を呼び診察をさせ…
 そして… 侍医の助言を聞き入れ、ボルカンは2度と会わずに "彼女"を家へ帰した。

 他の側妃候補たちも、伯爵令嬢と同じ反応を示したため、結局ボルカンは全員を家に帰すことにした。


 若く未熟な令嬢たちは、"残虐王"の名と変貌した容姿に心底怯え…
 アルファのフェロモンもボルカンの強い生殖能力も、怯えきって心が委縮した娘たちから、恐怖心を消し去ることは出来なかった。


<私は怪物のように恐れられる存在になってしまったのか?!>


 ボルカンを殺害しようとした叔父インセンディオと実母ドロルは、命こそ奪えなかったが…
 それまで努力を積み重ねて築いて来た、ボルカンの人生を奪うことに成功したのだ。









「ボルカン様を愛しています…」


 ボルカンの耳に唇を寄せたカナルに、そっと囁かれた。  


「・・・っ?!!」

 その瞬間、何年も忘れていた感覚が蘇り…
 ぽっかりと空いた胸の穴をカナルが塞ぎ、ボルカンの内側から熱い昂ぶりが急激にふくれ上がる。


「私もだカナル! お前に言われて初めて気付いた… 私もお前を愛している!」


 カナルの濃紺の瞳からキラキラと光る… 
 美しい… 本当に美しい… 歓喜の涙がこぼれた。



 "不思議ですね… 美しい光景を見ると、心が震えて悲しくないのに泣きたくなるのです" 

<昔… 文通をしていた伯爵令嬢が手紙に書いていたあの言葉が、今なら私にも理解できる…>



 涙を見せたくなくて…
 ボルカンはカナルに気づかれる前に、自分の瞳からにじみ出た涙を指先で拭った。







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