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57話 相思相愛
しおりを挟む午前中、懐妊の告知をしたばかりの侍医が再び呼び出され、カナルの診察を終えると…
いくつかの注意事項と、従者バイラルに妊婦に良い食事や飲み物について助言した後、カナルを後宮まで送って来たボルカンに、きつく説教をしてから退室した。
早速侍医の助言に従いバイラルが用意した、妊婦が飲むと良い鎮静効果のある香りの良いお茶を、寝室のベッドの上でカナルはボルカンと2人で飲むと…
ホゥ―――――ッ… と、大きなため息を1つ吐いた。
「悪かった… 今後は気を付ける」
ベッド脇の椅子に座りしょんぼりとしたボルカンが、カナルに反省の言葉をもらした。
耳と尻尾がボルカンにあれば、きっと情けなく垂れ下がっていただろう。
「陛下、僕も悪かったのです… 陛下はとても忙しそうなのに、少しでも早く伝えたくて、大切な話を他人に任せてしまったから… 僕が夜まで待てば良かったのです」
「いや… 私が大人げなく癇癪を爆発させてしまったからだ」
「陛下…」
カナルはボルカンの大きな手を引っ張り引き寄せると、赤茶の髪をゆっくりと撫でた。
「昔はこうでは無かったが… 火の精霊の加護を受けて以来、短気になったのだ… もちろん、それが全て悪いという意味ではないが」
「はい、分かっていますよ… 僕も夜の精霊の加護を受けて以来、自分でも驚くほど変わりましたから」
<以前は気が小さくて、知らないアルファの前だと、いつもびくっびくっ… と怯えていたのに、今は堂々としていられる…>
それはカナル自身が、一番驚いていることだった。
しょんぼりするボルカンの頬に、カナルは愛情を込めてキスをした。
「どうにも独占欲があふれ出して、お前への執着が自分でも止められないのだ!」
「はい、それも分かっています… 僕も同じですから」
<正妃様に密かに嫉妬していたし… 契約結婚だと知った時にどれだけ僕が安堵したか… 側妃の僕が独占欲なんか持ったら、ボルカン様に面倒だと思われるといけないから、なるべく考えないようにしていたけれど…>
「そうなのか? 私にはそうは見えないが?」
「本当ですよ、信じて下さい!」
<ずっとフィエブレしか愛せないと思っていたのに、僕は今、ボルカン様に夢中だもの!!>
「ふふふっ… そうか!」
嬉しそうに笑い、ほんの少し照れたように頭をかくボルカンに…
カナルの胸が、キュンンッ…! と鳴った。
<僕はボルカン様に恋をして… それから… それから、今は…>
どうしてもカナルは伝えたくて、唇をボルカンの耳に寄せてそっと囁いた。
「ボルカン様を愛しています…」
「・・・っ?!!」
パカリッ… と口を開けたボルカンに見つめられ、カナルは赤くなり視線を逸らした。
椅子から腰を上げ、ボルカンはベッドに座ると、カナルを抱きしめた。
いつもならカナルをギュウギュウと誰にも奪われないように、キツク抱きしめるが…
繊細な宝物を護るように、ボルカンはそっと優しく抱きしめた。
「私もだカナル! お前に言われて初めて気付いた… 私もお前を愛している!」
「・・・・っ」
カナルは息を吞み、言葉を失う。
ただ、ただ…
あふれ出すボルカンへの愛情と、愛される喜びで胸がいっぱいになり、涙がこぼれた…
広い背中に腕を回し、カナルはボルカンを抱きしめる。
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今回の名前はスペイン語にお世話になりました。カナル→運河、国王ボルカン→火山、姉エリダ→傷、元夫フィエブレ→熱、兄エレヒル→選ぶ、ルイナス公爵→遺跡、宰相パラグアス→傘、正妃ディアレア→下痢、補佐官ベンタナ→窓、叔父インセンディオ→火事、 ○ ○ やっぱり外国語の響きは面白いですね( ´∀` )
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