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51話 懐妊

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 晩餐会から3週間が過ぎようとしていた頃…
 

「おめでとうございます! カナル様、ご懐妊されておられます!」

 両手を組み合わせ神に祈りを捧げながら、診察結果を待つカナルに… 満面の笑みを浮かべた侍医が、受胎の告知をした。

 身体がだるいからと、一日中眠ってばかりいるカナルを心配し… これはもしかして? とバイラルが侍医の診察を依頼し発覚したのだ。


「本当に? 本当に僕のお腹の中に… 陛下のお子が?!」
 自分の平らなお腹に、細かく震える手で触れながら、カナルはもう一度聞き返す。

「はい、間違いありません確かにカナル様は、お子様を身籠られておられますよ!」

「ああ… 陛下にお礼を言わなければ… 僕に… 僕にお子を下さったことを…」
 涙がぽろぽろとこぼれ、ハンカチで拭っても… 拭っても… すぐにあふれて止まらなかった。

<あの日… ボルカン様に僕のお腹には子がいると言われた時から、ずっとこの瞬間を待ち焦がれていた!!>


「侍医殿、僕は無事に陛下のお子を産むことが出来るでしょうか?」

「なるべく身体を冷やさないようにして下さい」
 穏やかに微笑む初老の侍医の言葉に、カナルはハッ… と息を吞んだ。

<フィエブレの子を身籠った時、ちょうど真冬だった… それに、誰かが隣りにいると眠れないとフィエブレに言われ、僕は仕方なく南向きの明るい夫婦の部屋ではなく、亡くなったフィエブレの叔母が使っていた、常に隙間風が入る北向きの暗くて寒い部屋を1人で使っていた>


「それと重いものを持ったり、長い外出をしたりだとか… 妊娠初期は極力無理はしないようにして下さい」

 侍医は一つずつ、カナルに言い聞かせるように、妊娠中に注意すべきことを丁寧に説明する。

 そしてカナルは、フィエブレの子を失った時、ことごとくしてはいけないことをしていたと、気付いた。

<結婚と共に騎士団長になったばかりのフィエブレに頼まれて、騎士団を運営する為の執務を補佐していたから… 一日の半分の時間を、慣れない仕事で苦労して… 帰宅したセグロ家でも家政のことで、忙しく働いていた気がする>
 騎士団長の妻として、カナルが当然だと思ってしていたことが、全てお腹の子供には害になったのかもしれないのだ。

<フィエブレやセグロ家の人たちに言われるがまま、流されて… 僕は子供を失った… なんて愚かだったのだろう?!>


「カナル様、出産のために身体が変化することで、お心も変化しますから、心もお健やかにお過ごしください、まだ後宮へ入ったばかりで、すぐに懐妊されて戸惑うことが多いでしょうけれど、どうか難しいことは考えず、楽しいことを考えるようにして下さい」

「はい、侍医殿…」

<エリダとは違い、僕は求められてない妻だったから… だから必死に働いて僕をセグロ家の人たちとフィエブレに認めさせたくて… 言いつけられた仕事を拒まなかった… あんな間違いは二度としない! 絶対に!!>








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