53 / 150
49話 晩餐会
しおりを挟む本来ならば、晩餐会の前に国王と正妃、そして側妃のカナルが並んで、招待客たち一人一人と挨拶を交わし…
その後、全員で晩餐会の席に着き晩餐を始めるという流れで、行われる予定だった。
だが、あまりにもカナルとボルカンが招待客たちを待たせ過ぎたため…
正妃が仕方なく指示し、招待客たちを先に席に着かせ、挨拶は晩餐の後に回したのだ。
無事に晩餐が終わり、招待客たちそれぞれと別れの挨拶をしようという時に…
カナルはこっそり、ボルカンの耳元でひそひそと囁いた。
「陛下、どなたか記憶を盗み見たい方はいらっしゃいますか?」
「・・・・?!」
ボルカンはカナルの言葉に、ピタリと一瞬動きを止めて…
フゥ―――ッとため息を吐くと、キリリッ… と厳しい顔をする。
「陛下?」
「本当に良いのか? とても不快なものを見ることになるかも知れないぞ?」
心配そうな表情で、カナルの覚悟を確認した。
「陛下の治世の安寧のためですから… 僕はアナタを幸せにしたいのです… どうか陛下のご指示を下さい」
自分は平気だと、カナルはボルカンにニコリと笑って見せる。
ボルカンは苦笑を浮かべ、何人かの貴族、重臣と近隣国の大使たちの名を出した。
「おめでとうございますカナル様、心よりお祝い申し上げます!」
挨拶の順番が来ると、招待客たちは深々と頭を下げ祝いの言葉を述べながら、カナルの手を取り甲にキスを落とす。
「ありがとうございます、大使」
隣国の大使の手に触れた瞬間、相手の記憶をさっ… と盗み見てカナルは心の中でメモを取る。
驚いたことに全員の記憶に、共通の記憶があり、それは…
"残虐王を絶対に怒らせるな!" という恐怖の記憶だった。
そして… "怒らせれば容赦なく、家ごと潰されるぞ!" とびくびくとしていた。
<ボルカン様はそんな愚かな暴君では無いのに… でも、若くして王座についたから、叔父インセンディオのような反逆者が出ないように、気難しくて残虐な暴君を演じているから仕方無いかぁ…>
だが、1人だけ敵意を剥き出しの人物がいた。
正妃ディアレアの兄である。
『男のオメガに陛下を盗られるとは! ディアレア、お前は何をしていたのだ?! 使えない奴だ!! これだからオメガは…』
『言葉には、気を付けて下さいお兄様! この国の正妃に対してあまりにも無礼過ぎます! いくら実の兄でもそんな言葉を私にぶつけるなんて許しませんよ!!』
『だったら私を、父のような側近として扱うように、陛下に頼んでくれ!』
『何度言ったら分かるのですか?! その話をすると、陛下は口出しするなと激怒されるのです』
『だからそこをお前が…っ!!』
<正妃様のドレスが、今現在着ているものと、同じドレスだから、分かる… おそらくは晩餐会の少し前、王宮内のどこかの部屋での出来事だ>
不意に記憶が途切れ…
カナルは眉間にしわを寄せ、フゥ―――ッ… とため息を吐いた。
「大丈夫か、カナル?」
心配そうにボルカンが、カナルの腰を引き寄せ耳元で囁いた。
「はい、陛下… 少しダケ酔いそうになって… でも大丈夫ですから」
腰を抱くボルカンを見あげ、カナルは大きな手をトントンと叩き、ニコリと笑った。
だが、カナルの不調の原因が何かすぐに予想がついたボルカンは、目の前に立つ正妃の兄、ルイナス公爵家の現当主デトラスを、ジロリと睨んだ。
「陛… 陛下! おめで…とうございます! 良き側妃様を娶られ、本当に喜ばしい…」
ボルカンはデトラスの言葉を無視して、声を張る。
「今夜は我が妃カナルのために、晩餐会への参加、ご苦労だった! この通りカナルは美しくて賢い私にぴったりの妃である! 皆には悪いが我が妃はこの通り疲れていて、早く休ませてやりたいから、晩餐会はこれで終わりにする――っ!!」
「陛… 陛下…?!」
デトラスが声を掛けようとするが…
宰相のパラグアスが腕を掴みデトラスを引き留めた。
ボルカンは話を終わらせると、カナルを連れて広間を去る。
3
お気に入りに追加
593
あなたにおすすめの小説


【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
とまどいの花嫁は、夫から逃げられない
椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ
初夜、夫は愛人の家へと行った。
戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。
「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」
と言い置いて。
やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に
彼女は強い違和感を感じる。
夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り
突然彼女を溺愛し始めたからだ
______________________
✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定)
✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです
✴︎なろうさんにも投稿しています
私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

婚約者に会いに行ったらば
龍の御寮さん
BL
王都で暮らす婚約者レオンのもとへと会いに行ったミシェル。
そこで見たのは、レオンをお父さんと呼ぶ子供と仲良さそうに並ぶ女性の姿。
ショックでその場を逃げ出したミシェルは――
何とか弁解しようするレオンとなぜか記憶を失ったミシェル。
そこには何やら事件も絡んできて?
傷つけられたミシェルが幸せになるまでのお話です。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
名もなき花は愛されて
朝顔
BL
シリルは伯爵家の次男。
太陽みたいに眩しくて美しい姉を持ち、その影に隠れるようにひっそりと生きてきた。
姉は結婚相手として自分と同じく完璧な男、公爵のアイロスを選んだがあっさりとフラれてしまう。
火がついた姉はアイロスに近づいて女の好みや弱味を探るようにシリルに命令してきた。
断りきれずに引き受けることになり、シリルは公爵のお友達になるべく近づくのだが、バラのような美貌と棘を持つアイロスの魅力にいつしか捕らわれてしまう。
そして、アイロスにはどうやら想う人がいるらしく……
全三話完結済+番外編
18禁シーンは予告なしで入ります。
ムーンライトノベルズでも同時投稿
1/30 番外編追加
君に望むは僕の弔辞
爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。
全9話
匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意
表紙はあいえだ様!!
小説家になろうにも投稿

本当に悪役なんですか?
メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。
状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて…
ムーンライトノベルズ にも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる