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49話 晩餐会
しおりを挟む本来ならば、晩餐会の前に国王と正妃、そして側妃のカナルが並んで、招待客たち一人一人と挨拶を交わし…
その後、全員で晩餐会の席に着き晩餐を始めるという流れで、行われる予定だった。
だが、あまりにもカナルとボルカンが招待客たちを待たせ過ぎたため…
正妃が仕方なく指示し、招待客たちを先に席に着かせ、挨拶は晩餐の後に回したのだ。
無事に晩餐が終わり、招待客たちそれぞれと別れの挨拶をしようという時に…
カナルはこっそり、ボルカンの耳元でひそひそと囁いた。
「陛下、どなたか記憶を盗み見たい方はいらっしゃいますか?」
「・・・・?!」
ボルカンはカナルの言葉に、ピタリと一瞬動きを止めて…
フゥ―――ッとため息を吐くと、キリリッ… と厳しい顔をする。
「陛下?」
「本当に良いのか? とても不快なものを見ることになるかも知れないぞ?」
心配そうな表情で、カナルの覚悟を確認した。
「陛下の治世の安寧のためですから… 僕はアナタを幸せにしたいのです… どうか陛下のご指示を下さい」
自分は平気だと、カナルはボルカンにニコリと笑って見せる。
ボルカンは苦笑を浮かべ、何人かの貴族、重臣と近隣国の大使たちの名を出した。
「おめでとうございますカナル様、心よりお祝い申し上げます!」
挨拶の順番が来ると、招待客たちは深々と頭を下げ祝いの言葉を述べながら、カナルの手を取り甲にキスを落とす。
「ありがとうございます、大使」
隣国の大使の手に触れた瞬間、相手の記憶をさっ… と盗み見てカナルは心の中でメモを取る。
驚いたことに全員の記憶に、共通の記憶があり、それは…
"残虐王を絶対に怒らせるな!" という恐怖の記憶だった。
そして… "怒らせれば容赦なく、家ごと潰されるぞ!" とびくびくとしていた。
<ボルカン様はそんな愚かな暴君では無いのに… でも、若くして王座についたから、叔父インセンディオのような反逆者が出ないように、気難しくて残虐な暴君を演じているから仕方無いかぁ…>
だが、1人だけ敵意を剥き出しの人物がいた。
正妃ディアレアの兄である。
『男のオメガに陛下を盗られるとは! ディアレア、お前は何をしていたのだ?! 使えない奴だ!! これだからオメガは…』
『言葉には、気を付けて下さいお兄様! この国の正妃に対してあまりにも無礼過ぎます! いくら実の兄でもそんな言葉を私にぶつけるなんて許しませんよ!!』
『だったら私を、父のような側近として扱うように、陛下に頼んでくれ!』
『何度言ったら分かるのですか?! その話をすると、陛下は口出しするなと激怒されるのです』
『だからそこをお前が…っ!!』
<正妃様のドレスが、今現在着ているものと、同じドレスだから、分かる… おそらくは晩餐会の少し前、王宮内のどこかの部屋での出来事だ>
不意に記憶が途切れ…
カナルは眉間にしわを寄せ、フゥ―――ッ… とため息を吐いた。
「大丈夫か、カナル?」
心配そうにボルカンが、カナルの腰を引き寄せ耳元で囁いた。
「はい、陛下… 少しダケ酔いそうになって… でも大丈夫ですから」
腰を抱くボルカンを見あげ、カナルは大きな手をトントンと叩き、ニコリと笑った。
だが、カナルの不調の原因が何かすぐに予想がついたボルカンは、目の前に立つ正妃の兄、ルイナス公爵家の現当主デトラスを、ジロリと睨んだ。
「陛… 陛下! おめで…とうございます! 良き側妃様を娶られ、本当に喜ばしい…」
ボルカンはデトラスの言葉を無視して、声を張る。
「今夜は我が妃カナルのために、晩餐会への参加、ご苦労だった! この通りカナルは美しくて賢い私にぴったりの妃である! 皆には悪いが我が妃はこの通り疲れていて、早く休ませてやりたいから、晩餐会はこれで終わりにする――っ!!」
「陛… 陛下…?!」
デトラスが声を掛けようとするが…
宰相のパラグアスが腕を掴みデトラスを引き留めた。
ボルカンは話を終わらせると、カナルを連れて広間を去る。
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