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45話 悲劇の原因
しおりを挟むケラケラとボルカンに笑われ、むすっ… とカナルが落ち込んでいると…
「カナル…? 私の記憶をいくつか見れば、まぁ… お前も納得するだろう…」
「ええ? 陛下… 何?!」
逞しい膝の上ですねるカナルの額に、こつり… とボルカンに暖かい額をくっ付けられた。
「側妃となり私の伴侶となったのだから、やはりこの記憶は共有するべきだからな」
少し前までニヤニヤ笑いを浮かべたボルカンの顔が、キリリッ… と厳しい顔へと変わっていた。
まだまだ未熟なカナルとは違い、ボルカンはすでに気持ちを切り替えて、次のことを考えているのだ。
「あっ… はい!」
カナルもボルカンの意志に従い、気持ちを引き締めた。
――― その瞬間、カナルの中にボルカンが解放した記憶が流れ込んで来た。
『ルイナス公爵… 幸い私には婚約者がまだいません! ですから私がディアレア嬢の子の父親になります、亡き兄上の子を非嫡出子にするのは耐えられません!』
兄2人が毒殺され、末子のボルカンが国王の後継者となり、隣国へ婿入りする話が白紙に戻された。
『確かにディアレアは、亡き王太子殿下と辛うじて番の契りを結んではいませんから、結婚は可能ですが… しかしボルカン王子!』
正妃ディアレアは元々、王太子の婚約者(ボルカンの腹違いの長兄)だった。
隣国で採れる鉱物から作られた猛毒で、王太子と第二王子が共に毒殺された直後に、ディアレアが王太子の子を身籠っていると発覚したのだ。
『もちろん無償でとは言いません、どうかルイナス公爵、あなたに私の味方になって欲しいのです! このままでは、叔父に… 私も長兄と次兄のように殺されてしまいます』
『ですが、ボルカン王子… あなたは正妃ドロル様の唯一の王子であらせられます、そのような心配は無用かと思われますが?』
『ええ、確かに私の母は、叔父インセンディオの恋人です… ですが、母からの愛情など一滴も感じたことが無い私が、親子の情でこの命が助かるとは到底思えないのです… 愚かな母は愛する叔父と共に、息子を殺すでしょう! 王太子、第二王子… そして亡き正妃様を殺したように』
『ですがボルカン王子… お2人が王太子殿下たちを殺害したとは、まだ確証がありません』
『国王陛下の… 父の血を継ぐ私が生き残るとは、とても思えない… ルイナス公爵、それはあなたが教えてくれたことでしょう?』
『…確かに、国王陛下は王弟インセンディオ殿下に嫉妬心を持ち、当時恋人だったあなたのお母上を、強引な手段で側妃へと召し上げた…』
側妃から生まれた叔父インセンディオと…
ほんの数日早く、正妃から生まれたボルカンの父(先王)は、子供時代から周囲の大人たちに競い合いを強いられ、兄弟仲は最悪だった。
不運なことに兄(先王)よりも、弟インセンディオは文武共に優秀だと中央貴族や側近の大臣たちの間では周知の事実であり…
そこで凡庸な兄よりも、弟インセンディオを国王に押す動きもあった。
だが…
側妃だったインセンディオの母親が、身分の低い男爵令嬢だったために、中央貴族たちの激しい反発があり、結局は優秀な弟ではなく、凡庸で嫉妬深い兄が国王の座につく。
それが息子に続き…
孫の代まで影響を及ぼす悲劇となった。
――― カナルはそっとボルカンから額を離し…
唇にいたわりのキスを落とした。
<まるで… 綱渡りのような人生を歩まれて来た、ボルカン様の過去の記憶はいつだって… 過酷だ…>
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