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33話 後宮入り

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 発情期が終わり、国王の私室に留め置かれていたカナルは…
 謁見前に与えられた部屋から荷物を移し、ようやく後宮入りを果たした。


 どさりっ… とカナルはソファに腰を下ろすと、珍しくだらりと背もたれに身体を預けた。

「フゥ―――ッ… 一時は、どうなることかと思ったけれど、何とか後宮に落ち着くことが出来てよかったよ!」

「お疲れさまでしたカナル様!」

 大きなため息を吐きながら、カナルがしみじみと言うと…
 従者のバイラルも、うんうん… と大きくうなずきながら、相づちを打ち、若い主に労いの言葉をかけた。

 2人はまだ、ほんの少し前に後宮を取り仕切る使用人頭と、挨拶を終えたばかりである。


「それにしても… 良いお部屋をもらいましたねカナル様!」

「本当にねぇ~ 侯爵邸の僕の部屋が3つぐらい入りそうだよ」

 従者のバイラルと共に、カナルが与えられた部屋は、側室用の日当たりが良い、一番大きな角部屋で… 使用人頭の話では、正妃の私室の次に良い部屋だそうだ。
(従者用の小さな部屋も隣りに付いている) 

 それもそのはずで…
 現在、後宮で暮らしているのは、正妃とカナル、そしてバイラルのような使用人たちだけである。

 後宮を管理する使用人も、ボルカンの意向で、必要最小限度に抑えてあるのだ。


「カナル様、お茶をれて来ます!」

「うん、お願い…」

 パタンッ… とバイラルが、扉を閉める音が部屋に響くと… 室内は驚くほど静かになった。

 自分のお腹を撫でながら、カナルは気疲れからか、急に眠気を感じて瞳を閉じる。

<ああああ~… 今度は正妃様にご挨拶をしに行かなければ、いけないのかぁ… 憂鬱ゆううつだなぁ~… 面倒だなぁ~…>





 いつの間にか眠ってしまっていたカナルは、唇にふわりと暖かい何かが触れ… 漆黒の長いまつ毛を震わせながら、ゆっくりと瞳を開く。

 心配そうにガーネットの瞳を曇らせ、ソファの背もたれに大きな手をつき、カナルに覆い被さるようにボルカンが見下ろしていた。

「…あ、陛下?」

「疲れた顔をしているな、カナル… 今夜の宮中晩餐ばんさん会は、やはり中止させよう! お前の美しい顔を貴族たちがじろじろ見に来るだけの夜会など、本当にくだらないからな!」
 
 国王ボルカンではなく…
 1人のアルファとして… ボルカンは自分の大切な番を心配し、守りたいという気づかいから出た言葉である。

「ふふふっ… そんなことをしては、いけませんよ陛下」
<嬉しい! 言葉はとても乱暴だけど、陛下はいつも暖かい気づかいをくれる… なんて優しい人だろう?>


 低く艶のある声で、寵愛する側妃を気づかい、傲慢ごうまんな命令を下そうとしている国王ボルカンに…
 カナルはフッ… と微笑みを浮かべた。





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