側妃候補は精霊つきオメガ

金剛@キット

文字の大きさ
上 下
33 / 150

31話 陛下の部屋で

しおりを挟む

 カナルの存在は王宮内で、伝説になりつつあった。

 謁見の間で倒れ、気難しい国王が意識の無いカナルを自ら私室に運び、面倒をみたのも異例のことだが…
 国王の男性オメガ嫌いは王都では有名な話で、その王が嫌う男性オメガのカナルが、その日のうちに手を付けられたのだ。
 
 そのうえ、翌日には"つがいちぎり"を交わし、国王ボルカンがカナルを側妃にしたと臣下たちに直接告げたのである。

 そして現在は…
 ボルカンが放つアルファのフェロモンの影響で、発情期に入ったカナルを自分の私室に閉じ込めて、部屋から一歩も出さず毎晩抱き続け寵愛するという異例づくしだった。


「カナル様… カナル様…!」

「うう~んん… んんん~?」
 誰かに揺り起こされ、浅い眠りから目覚めさせられたカナルは、うめき声で返事をする。

「カナル様、もう夕方ですよ? そろそろ起きて食事をとらないと… 陛下のお相手は務まりませんよ?」

「うんんんん~…」
 カナルよりも年下の従者、ベータ男子のバイラルは、ベッドで裸のまま眠っていた主の肩を掴み、ゆさゆさと揺すり続け…

「さぁ! 起きて下さい、カナル様!」

「んんん~っ… バイラルぅ~っ… 分かったからぁ… そんなに僕の身体を揺らさないでよぉ…」
<腰とお尻のあそこに… 響くからぁ… う゛う゛う゛ぅ~…!!>

 兄のエレヒルが、後宮暮らしをすることになったカナルが、不便な思いをしないようにと…
 エンペサル侯爵邸内で、容姿が変貌した後のカナルを怖がらなかった、数少ない使用人の1人のバイラルを、短期間で出来る限りの礼儀作法を教育し、専属従者として付けたのである。

 最初は従者なんて不要だと断ったカナルだが、従者も付けないほどケチだと思われたら、エンペサル侯爵家の体面に傷がつくと、エレヒルに命令され仕方なく受け入れた。

「だって! こうしてお身体を揺らしておかないと、カナル様はすぐに眠ってしまわれるし… さぁ、起きて下さい!! さっきから眠っているのに、カナル様のお腹がひもじそうに鳴っていましたよ?」

 年齢が近く、元々カナルに懐いていたバイラルは、親切で心優しい主の為を思い…
 主の意志を尊重するよりも、王宮内での主の立場が悪くならないよう、守ることを選んだようだ。


「ああ、分かった! 分かったよぉ!」
 言っている側から、バイラルに身体を揺すられて、カナルは大あくびをしてから、のろのろと身体を起こす。

 謁見の間で倒れたカナルは、国王の私室にボルカン自身に抱き上げられて、運び込まれた。

 それ以来、カナルは後宮に用意された、側妃の部屋には入らず、ずっと国王の私室で寝起きしている。


「抑制剤を飲まなくて良いのは… 気楽で良いのだけどねぇ…」
<あ゛あ゛あ゛あ゛~… 腰が痛いいぃ~… 身体が重いいぃ~… 昨夜は手加減してくれたけど… 陛下は今夜も、僕をお抱きになるだろうしいぃ~>
 

『カナル、発情期中は毎夜私の相手をしてもらうからな… 覚悟しろよ?』

『あ… お子様ですね、陛下?』

 子どもはまだ、オメガの王女しかいないボルカンは、世継ぎの王子が欲しくて夜の相手を求めるのだと…
 カナルは、ボルカンの言葉をそう解釈した。

 だが…

『イヤ、許されるなら子作りは後回しにして、お前をもっと可愛がって堪能したいのさ!』

『…陛下?!』


<陛下があんなことを言うから… 僕もつい、嬉しくて…>

『あんっ…! ああっ! んんっ! だめぇ陛下ぁ… もうっ! あっ…!あっ…!』

『休むのは早いぞ、カナル! お前が動かなければ、奥まで届かないだろうぉ~?!』

『あああっ! 陛下ぁ…! 陛下ぁ… ああっんんっ!』  

 夜明け前、ボルカンに教えられた淫らな体位をふと思い出してしまい… 最奥にあるオメガの性器がヂクヂクと疼き、カナルの呼吸が荒くなる。

「…っん」
<ふうぅぅ~んん… 陛下…てばっ!! もうぅ~…>

 赤く染まり熱くなった頬を、細い手でぱたぱたと扇いで、フゥ―――ッ… と長いため息をつく。

 発情で発火しやすくなった欲望を、カナルは苦労して落ちつかせた。


「さぁ、カナル様! 食事の前に湯あみをしてさっぱりしないと!!」

 若いがなかなか有能な従者バイラルは、虫刺されのようなあざが無数に残る肩や… 番になってから何度も噛まれて付けられた歯形が残る項を…
 見て見ぬふりをして、カナルのほっそりとした背中に、丈の長いローブを羽織らせた。

 初めてボルカンに抱かれた後、バイラルに世話をされた時はカナルも恥ずかしくて真っ赤になっていたが…
 毎晩、熱烈に絶倫王ボルカンから寵愛を受け続け、恥かしがる余裕が無いほどへとへとに疲れ果ててしまい、図太く開き直ることにしたのだ。


「湯あみ? ああ…そうだねぇ~… そうしないとねえぇ~… 陛下はまた、僕のな…」


 成人前の男の子に、さすがに話して良い内容ではないと、カナルは気付き途中で話すのを止めた。 








しおりを挟む
今回の名前はスペイン語にお世話になりました。カナル→運河、国王ボルカン→火山、姉エリダ→傷、元夫フィエブレ→熱、兄エレヒル→選ぶ、ルイナス公爵→遺跡、宰相パラグアス→傘、正妃ディアレア→下痢、補佐官ベンタナ→窓、叔父インセンディオ→火事、 ○ ○ やっぱり外国語の響きは面白いですね( ´∀` )
感想 56

あなたにおすすめの小説

あの頃の僕らは、

のあ
BL
親友から逃げるように上京した健人は、幼馴染と親友が結婚したことを知り、大学時代の歪な関係に向き合う決意をするー。

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

名もなき花は愛されて

朝顔
BL
シリルは伯爵家の次男。 太陽みたいに眩しくて美しい姉を持ち、その影に隠れるようにひっそりと生きてきた。 姉は結婚相手として自分と同じく完璧な男、公爵のアイロスを選んだがあっさりとフラれてしまう。 火がついた姉はアイロスに近づいて女の好みや弱味を探るようにシリルに命令してきた。 断りきれずに引き受けることになり、シリルは公爵のお友達になるべく近づくのだが、バラのような美貌と棘を持つアイロスの魅力にいつしか捕らわれてしまう。 そして、アイロスにはどうやら想う人がいるらしく…… 全三話完結済+番外編 18禁シーンは予告なしで入ります。 ムーンライトノベルズでも同時投稿 1/30 番外編追加

職業寵妃の薬膳茶

なか
BL
大国のむちゃぶりは小国には断れない。 俺は帝国に求められ、人質として輿入れすることになる。

白金の花嫁は将軍の希望の花

葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。 ※個人ブログにも投稿済みです。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~

松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。 ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。 恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。 伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。

処理中です...