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31話 陛下の部屋で
しおりを挟むカナルの存在は王宮内で、伝説になりつつあった。
謁見の間で倒れ、気難しい国王が意識の無いカナルを自ら私室に運び、面倒をみたのも異例のことだが…
国王の男性オメガ嫌いは王都では有名な話で、その王が嫌う男性オメガのカナルが、その日のうちに手を付けられたのだ。
そのうえ、翌日には"番の契り"を交わし、国王ボルカンがカナルを側妃にしたと臣下たちに直接告げたのである。
そして現在は…
ボルカンが放つアルファのフェロモンの影響で、発情期に入ったカナルを自分の私室に閉じ込めて、部屋から一歩も出さず毎晩抱き続け寵愛するという異例づくしだった。
「カナル様… カナル様…!」
「うう~んん… んんん~?」
誰かに揺り起こされ、浅い眠りから目覚めさせられたカナルは、うめき声で返事をする。
「カナル様、もう夕方ですよ? そろそろ起きて食事をとらないと… 陛下のお相手は務まりませんよ?」
「うんんんん~…」
カナルよりも年下の従者、ベータ男子のバイラルは、ベッドで裸のまま眠っていた主の肩を掴み、ゆさゆさと揺すり続け…
「さぁ! 起きて下さい、カナル様!」
「んんん~っ… バイラルぅ~っ… 分かったからぁ… そんなに僕の身体を揺らさないでよぉ…」
<腰とお尻のあそこに… 響くからぁ… う゛う゛う゛ぅ~…!!>
兄のエレヒルが、後宮暮らしをすることになったカナルが、不便な思いをしないようにと…
エンペサル侯爵邸内で、容姿が変貌した後のカナルを怖がらなかった、数少ない使用人の1人のバイラルを、短期間で出来る限りの礼儀作法を教育し、専属従者として付けたのである。
最初は従者なんて不要だと断ったカナルだが、従者も付けないほどケチだと思われたら、エンペサル侯爵家の体面に傷がつくと、エレヒルに命令され仕方なく受け入れた。
「だって! こうしてお身体を揺らしておかないと、カナル様はすぐに眠ってしまわれるし… さぁ、起きて下さい!! さっきから眠っているのに、カナル様のお腹がひもじそうに鳴っていましたよ?」
年齢が近く、元々カナルに懐いていたバイラルは、親切で心優しい主の為を思い…
主の意志を尊重するよりも、王宮内での主の立場が悪くならないよう、守ることを選んだようだ。
「ああ、分かった! 分かったよぉ!」
言っている側から、バイラルに身体を揺すられて、カナルは大あくびをしてから、のろのろと身体を起こす。
謁見の間で倒れたカナルは、国王の私室にボルカン自身に抱き上げられて、運び込まれた。
それ以来、カナルは後宮に用意された、側妃の部屋には入らず、ずっと国王の私室で寝起きしている。
「抑制剤を飲まなくて良いのは… 気楽で良いのだけどねぇ…」
<あ゛あ゛あ゛あ゛~… 腰が痛いいぃ~… 身体が重いいぃ~… 昨夜は手加減してくれたけど… 陛下は今夜も、僕をお抱きになるだろうしいぃ~>
『カナル、発情期中は毎夜私の相手をしてもらうからな… 覚悟しろよ?』
『あ… お子様ですね、陛下?』
子どもはまだ、オメガの王女しかいないボルカンは、世継ぎの王子が欲しくて夜の相手を求めるのだと…
カナルは、ボルカンの言葉をそう解釈した。
だが…
『イヤ、許されるなら子作りは後回しにして、お前をもっと可愛がって堪能したいのさ!』
『…陛下?!』
<陛下があんなことを言うから… 僕もつい、嬉しくて…>
『あんっ…! ああっ! んんっ! だめぇ陛下ぁ… もうっ! あっ…!あっ…!』
『休むのは早いぞ、カナル! お前が動かなければ、奥まで届かないだろうぉ~?!』
『あああっ! 陛下ぁ…! 陛下ぁ… ああっんんっ!』
夜明け前、ボルカンに教えられた淫らな体位をふと思い出してしまい… 最奥にあるオメガの性器がヂクヂクと疼き、カナルの呼吸が荒くなる。
「…っん」
<ふうぅぅ~んん… 陛下…てばっ!! もうぅ~…>
赤く染まり熱くなった頬を、細い手でぱたぱたと扇いで、フゥ―――ッ… と長いため息をつく。
発情で発火しやすくなった欲望を、カナルは苦労して落ちつかせた。
「さぁ、カナル様! 食事の前に湯あみをしてさっぱりしないと!!」
若いがなかなか有能な従者バイラルは、虫刺されのような痣が無数に残る肩や… 番になってから何度も噛まれて付けられた歯形が残る項を…
見て見ぬふりをして、カナルのほっそりとした背中に、丈の長いローブを羽織らせた。
初めてボルカンに抱かれた後、バイラルに世話をされた時はカナルも恥ずかしくて真っ赤になっていたが…
毎晩、熱烈に絶倫王ボルカンから寵愛を受け続け、恥かしがる余裕が無いほどへとへとに疲れ果ててしまい、図太く開き直ることにしたのだ。
「湯あみ? ああ…そうだねぇ~… そうしないとねえぇ~… 陛下はまた、僕のな…」
成人前の男の子に、さすがに話して良い内容ではないと、カナルは気付き途中で話すのを止めた。
8
今回の名前はスペイン語にお世話になりました。カナル→運河、国王ボルカン→火山、姉エリダ→傷、元夫フィエブレ→熱、兄エレヒル→選ぶ、ルイナス公爵→遺跡、宰相パラグアス→傘、正妃ディアレア→下痢、補佐官ベンタナ→窓、叔父インセンディオ→火事、 ○ ○ やっぱり外国語の響きは面白いですね( ´∀` )
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