側妃候補は精霊つきオメガ

２９話 朝の光の中で３

「今はお前を罰っしたりしない…　私がお前に求めるのは、私を絶対に裏切らないことだ」

「元より僕は陛下に、精霊の力を含めて全てを捧げるつもりです！」

「顔を上げろカナル」

「はい！」
　カナルは恐る恐る顔を上げて、ベッドで座るボルカンを見上げると…　穏やかだった表情は、厳しい目をした冷徹な国王のものへと変わっていた。

　気持ちを引き締め、カナルは床に座ったまま背筋をピンッ…　と伸ばす。


「今まで通り、お前が持つ精霊の力は、誰にも口外するな！　当然、お前が見た私の記憶も含めて、その力で見聞きした記憶は私以外の誰かに話すことを禁ずる！」

「はい！」

「カナル、ベッドへ戻れ」　
　厳しい口調と雰囲気を和らげて、ぽんっ…　ぽんっ…　とボルカンは、カナルが少し前まで眠っていた場所をたたいた。

「は…　はい、陛下！」

　おずおずとカナルはベッドへ上がり、ぺたりと腰を下ろすと…　ギュッ…　と力強く、ボルカンに手を握られた。

　手を握られた瞬間…
　カナルの中に、ボルカンの記憶が流れ込んで来て、ハッ…　と息を吞む。


　―――それは…
　すぐにカナルは、王家の霊廟れいびょう内の記憶だと気づく。


＜あっ！　これって…　陛下が火の精霊の加護を受けた時の…　あの記憶の続きだ！　なぜ急に見えたの？！　今まで陛下に触れられても、見えなかったのに…　なぜ？！＞


　無秩序にゴウゴウと熱風が吹き荒れ、火の精霊の力に作り出された燃え盛る炎の中にいくつもの影が、動きまわり踊っているようだった。

だが…


『うわぁぁぁぁぁぁぁ助けてくれぇ―――っ！！！　助けてぇ―――っ！！！』

『助けて！　お願い許してボルカン！！　ボルカン止めてぇ―――っ！！　ギャアアアアァァァァ――――――ッ…』

『実の母親を焼き殺すとは…　この悪魔、殺してやる―――っ！！　お前など…殺し…　ギャアアア――――――ッ！！』


　誰かの命乞い…　呪いの言葉…　断末魔の叫び…　次々と死に際の悲痛な声が上がる。



「…ヒッ！！！」
　恐怖に囚われたカナルは、慌てて握られた手を振り払い、ボルカンから距離を取った。

　ハァッ…　ハァッ…　と荒々しい息づかいが、静かな寝室に響き渡る。


「カナル、今のが見えたのだな？　私を殺そうとした母と叔父の最後だ！」

「以前…　兄上から聞いたことがあります…　陛下が王座争いをしていた実の叔父（先代王の弟）を焼き殺したという話は、真実だったの…？！」

　あまりにも凄惨せいさんな記憶に、カナルは国王に対する礼儀を忘れてしまった。

「・・・っ」
＜わざと陛下は、僕にこんな恐ろしい記憶を見せたの？！　少しだけ精霊の力の話をしただけで、こんなことが出来るなんて…　何て怖い人なんだ！！＞　



　顔面を蒼白にしてカナルは、震えながらボルカンを見上げた。