20 / 150
19話 夢の中の記憶2
しおりを挟む霊廟の真ん中まで来て立ち止まり、6代目国王の石棺の陰に身を潜めて耳を澄ませると…
入口付近でバタバタと不躾な足音と、怒鳴り声が聞こえた。
記憶の持ち主を、追いかけて来る者たちがいるのだ。
『クソッ…! さすが、叔父上が飼う犬たちは… 良く鼻が利く!』
憎々し気に小さな罵り声をあげ、腕の傷を押さえながらヨロヨロと移動する。
腕の傷からポタポタと落ちる、赤い血の染みが白い石床に、点々と続き…
逃げ惑う記憶の持ち主が、霊廟のどこに隠れているか、追跡者たちへの道しるべとなっていた。
<ああ、何てことだ… こんなに血が流れては死んでしまう!!>
眉間にしわを寄せ、カナルは指を組み合わせた。
過去の出来事と分かってはいても、記憶の持ち主のため、カナルは神に祈らずにはいられなかった。
記憶の持ち主は霊廟の中で、もっとも古い棺が安置された、奥の奥へと進む。
ハァ… ハァ… ハァ… と荒い息を冷たい石作りの霊廟に響かせ、ようやく目的の場所へたどり着く。
飾り気の無い荒い削りの無骨な棺の前で、ひざまずき首を垂れた。
『エステパイス建国の父! 偉大なる始祖、グアルダル王よ! 弱く小さな私に力をお与え下さい―――っ!!! 邪悪なあの者たちから、あなたが作ったこの国を、護り抜くための強い力をどうか! どうか! 私に下さい!!』
祈りを捧げ終えると、腰に下げていた剣を抜き…
スゥ―――ッ… ハァ―――ッ… と大きく深呼吸をする。
『うぐっ…ふっ!! ぐっううう…っ!!!』
ケガのせいで利き腕が使えず… 片手で自分の胸を剣で刺し、もっと深く深く… 心臓まで貫くために、剣の柄を石棺のふたに押し付けるように倒れ込む。
『くっ… うぅ…っ…!』
背中から剣の切っ先が飛び出し、心臓を貫いた。
ドクッ… ドクッ… ドクッ… と心臓からあふれ出した大量の鮮血が石棺からしたたり落ち、石床まで赤く染める。
『どうか…グアルダル王… 私に力を…』
石棺を汚す赤い血液の染みから、小さな炎が生まれ…
小さな炎は見る見る大きくなり、霊廟の高い天井まで届く激しい竜巻と化し、赤い血を燃料に記憶の持ち主を包み込んだ。
「う゛うああああああぁぁぁ――――――っ!!!!」
激しい炎に巻かれ、カナルは恐ろしくて叫び声を上げながら、目を開くと…
「おい、起きろカナル! 」
大きく分厚い手でカナルの顔を包み込み、赤茶色の髪とガーネットの瞳を持つ男が、心配そうに見下ろしてた。
「ああ…あ… 炎が… 炎が…」
「怖がらなくて良い… 私が望まない限り、この炎はお前には無害だ」
恐怖の涙で濡れた頬を、男はカサついた太い指先で拭い、カナルを穏やかになだめた。
<ああ、この顔は… 瞳の色と髪の色は違うけど… 記憶の持ち主だ! ああ、僕と同じで… 精霊の加護を受けたから生まれ持った色が、変わってしまったの…?!>
カナルは震える手を伸ばし、おずおずと赤茶色の髪に触れ… 頬を撫でた。
「ああ… 良かった! あなたが生きていて… 本当に良かった!」
記憶の持ち主が無事だと知り、カナルはホッ… と安堵のため息をつき、微笑んだ。
夢と現実、精霊の力で盗み見た記憶がぐちゃぐちゃに混同し… カナルは目の前にいる男が、国王ボルカンだと分からなくなっていた。
「お前は…?」
「痛かった…でしょ…う…? 精霊の加護を得るために、自分の胸を刺すなんて… あんな、ムチャをして! あなたからたくさん血が流れて…」
何度もボルカンはカナルの頬を濡らす涙を拭うが… 濃紺の瞳からあふれ出した涙で、またすぐに濡れてしまう。
「なぜ、それを知っているのだ?!」
「見た… から…」
カナルはボルカンの頬に触れるのを止め、のろのろと青白い手を広い胸まで下ろし、ドクッ… ドクッ… と力強く拍動する心臓の上に添えた。
「なっ… おい?!」
「・・・・・・」
再びカナルは瞳を閉じて、スヤスヤと眠ってしまう。
2
お気に入りに追加
590
あなたにおすすめの小説
【完結】もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、攻略対象の凛々しい少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
本編完結しました!
おまけをちょこちょこ更新しています。
第12回BL大賞、奨励賞をいただきました、読んでくださった方、応援してくださった方、投票してくださった方のおかげです、ほんとうにありがとうございました!
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
嫁側男子になんかなりたくない! 絶対に女性のお嫁さんを貰ってみせる!!
棚から現ナマ
BL
リュールが転生した世界は女性が少なく男性同士の結婚が当たりまえ。そのうえ全ての人間には魔力があり、魔力量が少ないと嫁側男子にされてしまう。10歳の誕生日に魔力検査をすると魔力量はレベル3。滅茶苦茶少ない! このままでは嫁側男子にされてしまう。家出してでも嫁側男子になんかなりたくない。それなのにリュールは公爵家の息子だから第2王子のお茶会に婚約者候補として呼ばれてしまう……どうする俺! 魔力量が少ないけど女性と結婚したいと頑張るリュールと、リュールが好きすぎて自分の婚約者にどうしてもしたい第1王子と第2王子のお話。頑張って長編予定。他にも投稿しています。
すべてはあなたを守るため
高菜あやめ
BL
【天然超絶美形な王太子×妾のフリした護衛】 Y国の次期国王セレスタン王太子殿下の妾になるため、はるばるX国からやってきたロキ。だが妾とは表向きの姿で、その正体はY国政府の依頼で派遣された『雇われ』護衛だ。戴冠式を一か月後に控え、殿下をあらゆる刺客から守りぬかなくてはならない。しかしこの任務、殿下に素性を知られないことが条件で、そのため武器も取り上げられ、丸腰で護衛をするとか無茶な注文をされる。ロキははたして殿下を守りぬけるのか……愛情深い王太子殿下とポンコツ護衛のほのぼの切ないラブコメディです
余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない
上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。
フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。
前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。
声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。
気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――?
周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。
※最終的に固定カプ
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる