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16話 謁見

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 側妃候補を選出する役目を担った大臣とその補佐官、護衛騎士、国王陛下の補佐官数名と従者など…

 謁見の間には、カナルの他に9名の堂々とした風格を持つアルファが並び、国王ボルカンが現れるまで静かに待機していた。

<こ… こんなにたくさんの、兄上やフィエブレと同じぐらい、格の高いアルファに囲まれたのは初めて!>

 以前のカナルなら怖くて縮こまってしまっただろう… それに比べると、驚異的に成長したと言える。

 一度は死んだ身の上のせいか、この状況にカナルは図太く耐えることが出来ていた。

 
 前日に面会した宰相パラグアスが現れ、カナルと目が合い会釈をすると、いつもの定位置である大臣の隣りに立つ。



<ああ、ついにこの時が来た…!!>

 緊張でカナルの顔は強張り、手は密かに震え、心臓はドクッ… ドクッ… ドクッ… と胸の中で、今にも壊れそうなほど暴れ狂っていた。

<顔を合せたらいきなり命を奪われるようなことは、さすがに無いだろうけれど… うううっ… 気が遠くなりそうだ! 緊張しすぎて寿命が10年縮みそう!>

 ぼんやりと顔を伏せ、床の模様を黙って見つめていると、カナルの頬がなぜか、チクチクと針で刺されるような感覚に襲われる。

<え? 何これ?!>
 顔を上げるとカナルは首を傾げ、指先で刺激を受けた、頬を撫でた。

 頬だけでなく、少しずつチクチクとした刺激が身体中に広がって行き… 服の下の素肌にざわざわと鳥肌が立つ。

<もしかしてこれが国王陛下の気配?! でも、アルファが持つ強い威圧感以外に… 何かもっと、異質な気配がする!>



 従者が扉を開き、悠然と国王ボルカンが謁見の間へと足を踏み入れた瞬間…
 国王を中心に炎が吹き荒れ、謁見の間を覆った。

「うわあぁぁぁっ―――っ?!!!!」
 熱風に頬をあぶられ叫び声を上げながら、カナルは後退りし… 本能的に顔を腕で隠した。


「カ… カナル殿?!!」

「おい! 誰か…っ」

「カナル殿、どうされたのですか?!」
 慌てるパラグアスに大臣たちの声がカナルの耳にも届いたが…

「うわあぁぁぁ!!! 炎が!! 炎がぁ―――っ…!!!」
 炎に襲われ恐慌状態におちいったカナルは、足をもつれさせながら、よろよろと後退った。

「熱い!熱い! 炎に焼かれる!! うわあぁぁぁ――――――っ!!!!!」

 ジリジリと皮膚や髪が焼かれる感覚がして、カナルの悲鳴が炎の海を分けるように響くと…
 なぜか不意に熱が引き、赤々と燃え盛っていた炎の勢いがピタリと遮断しゃだんされ、カナルを暗闇が包む。

 その暗闇に、カナルは覚えがあった。

 エンペサル侯爵領の森にある、"精霊の棲み処"で命を捧げた月夜の晩に似た気配がした。

「ああああ…」
<何が起きているの?! この炎は… 何?!>

 荒れ狂う炎の海が突然、静寂せいじゃくの暗闇へと変わり、何が起きているのか理解できず、カナルは恐怖の涙で濡れた顔を恐る恐る上げると…



「お前は何者だ?! いったいこれは… 何なのだ?!」
 悪魔のような形相をした国王ボルカンが、炎をまき散らしながら、カナルに歩み寄って来るのが見えた。

「ああ…っ!」
<この炎は陛下が… そうか、僕の考えは甘かった! 怒り狂った陛下は容赦なく僕を襲い、殺そうとしている!! なんて浅はかだったのだろう…>

 身体の力が抜け、カナルはその場にグラグラとひざまずく。


「おい、お前…?! しっかりしろ―――っ!!」
 国王ボルカンがカナルに手を伸ばすが…

「僕… 僕はエンペサル侯爵家の… カナ…ル… です… う゛ううっ… どうか… どうか… お許しを…っ!! 侯爵家を… お許し…を…陛下…! 」
<僕はまた、判断を間違えた…? みんなを不幸にしてしまうの?>


 
 侯爵家の命乞いをしながら、カナルは床に昏倒こんとうし… そのまま意識を手放した。







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