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15話 宰相パラグアスの記憶
しおりを挟む宰相パラグアスの記憶の中で―――
国王ボルカンは不作法にも執務机に鍛えられた尻を乗せ、太長い腕を組むと、ガーネットの瞳を冷ややかに光らせた。
『家柄が最良の相手でも、正妃のようにその者の器が歪んでいては使い物にならぬわ! 母親は子を支配できる、絶大な力を持っているのだからな』
<そうか、陛下は正妃様とは、あまり仲が良く無いのか… 知らなかった! だから側妃が必要なんだ?>
宰相パラグアスが持つ過去の記憶だと、頭では理解していても…
ビクリッ… とカナルの身体は本能的に恐怖を感じて震えてしまう。
「カナル殿?! どうされましたか、カナル殿!?」
「・・・・・・」
パラグアスに名前を呼ばれ、ハッ… とカナルはパラグアスの記憶の中から、現実へと引き戻される。
「カナル殿?!」
「・・・・っ?!」
ぱちぱちと何度かまばたきを繰り返し、カナルは自分の名を呼ぶパラグアスの顔を慌てて見上げた。
「カナル殿、本当に大丈夫ですか? やはりどこかおケガをされたのでは、ありませんか?」
ぼんやりするカナルの顔を、心配そうにのぞき込むパラグアスと目が合い…
カナルは気を引き締める。
「いえ、大丈夫です… ええっと… 少しだけめまいがして、おそらく寝不足のせいでしょう…」
<やはり、この人は油断できない! 僕の言動や行動を全て陛下に報告するつもりだ>
カナルはパラグアスの手を借りて立ち上がると… 額を押さえてため息をついた。
「本当にお疲れのようですね?」
「申し訳ありません、無様な姿をさらしてしまい、お恥ずかしいです」
<醜態をさらしただけの、値打ちもあったけどね… 陛下の本音を聞けたし、どんな人かも分かって良かった>
苦笑いを浮かべて、カナルは丁寧に謝罪する。
<まぁ… 元々の側妃候補だったエリダを、エンペサル侯爵家から出せなかったことを、陛下に謝罪するのが、僕が王宮まで来た本来の目的だし、それさえ果たせれば、僕の役目は終わるけど… だからと言って、王宮に来てすぐに返されるようなことにでもなれば、エンペサル侯爵家の不名誉な汚点になる! やっぱり慣例通り、2年は後宮に留まれるよう頑張って、側妃候補を解かれるまで待つのが、一番穏便に終われるはず>
ハァ―――ッ… とカナルは再び、長い長いため息をつく。
<エリダとは違い、他の側妃候補たちを差し置いて、陛下に選ばれるほど僕に魅力があるとは思えないし… その前に僕は陛下や宰相閣下に、"歪んだ器"だと思われないようにしないとね! もっと誰かの記憶を盗み見て、悪い見本の正妃様のことを知らなくてはいけないなぁ… ああ憂鬱!>
夜の精霊の加護を受けてから、数か月が経ち… その間カナルは、精霊の力を上手く操れるよう、人知れず訓練をした。
人の過去を盗み見するたびに、罪悪感が付いて回るが…
これも全て、カナルの願いを叶えるための精霊からの贈り物だと、割り切って受け入れることにしたのだ。
「陛下との謁見に備えて、今日はゆっくり、お休みください」
「ありがとうございます、宰相様」
平らなお腹に手を添え、カナルはパラグアスに頭を下げた。
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