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13話 国王の思惑 ボルカンside

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 エステパイス王国、王都アクラマシオンの王宮内の、午後の陽光が差し込む、国王の執務室で…
 国王ボルカンは柘榴ざくろの実のようなガーネット(暗い赤色)の瞳を光らせ、肩まで伸びた赤茶の髪をイライラと掻き上げた。

 宰相のパラグアスを相手に、ボルカンは珍しく愚痴をこぼす。

 子供の頃からの友人であるパラグアスが相手だと、いつもは強面のボルカンも、ついつい気を許してしまうのだ。

「男のオメガだと? …私は男など抱く気はないからな!」

「エンペサル侯爵家は、古くから隣国ニエブラと我が国との国境線を守る国防の要です、大臣たちが侯爵家の者を側妃候補に選出するのは当然かと」
 宰相パラグアスは、ボルカンが署名をした書類を見直し綺麗に端を揃えながら、素っ気なく答えた。

「それは分かっている」

「最近、ニエブラとの関係が悪化し、いろいろときな臭い噂も絶えなくなっていますし… エンペサル侯爵家と王家との関係を強化しようと、大臣たちが考えるのも無理はありませんよ」

「それも分かっている!」
 ボルカンはペン先からインクを拭い、ぽいっ… と執務机に放り投げる。
 
「陛下が正妃様との間に、お子様をもう1人ぐらい頑張って下されば、このようなことにはならなかったかと思われますが?」

「それはできない! 贅沢をする為に正妃になったような国政に全く興味を持たない女に、王太子など産ませたりすれば、国が潰れてもおかしくないからな」

 叔父との苛烈な王座争いに勝ち、ボルカンが国王に即位する際、一番の支援者だったルイナス公爵の娘が現在の正妃である。

<これ以上正妃の実家である、ルイナス公爵家に権力が集中するのはまずいのだ>

 だからこそ、中央貴族の勢力争いには加わらず、一歩引いた立ち位置にいて、地味で面倒だが重要な役目を担うことで、忠義をこつこつと果たすエンペサル侯爵家の出身者なら、側妃に最良だとボルカンは考えた。

 候補を選出した大臣たちがエンペサル侯爵家のオメガ、長女エリダの名を出した時に…
 ボルカンの胸中で、密かにエリダを側妃にしようと、決めていたのだ。

<婚約者がいると分かっていたが、それでもエステパイス王国と国民のために、敢えて婚約者の存在を無視し、側妃候補の通達を出したが… 一足遅かったな!!>

「こちらが無理強いをするのだから、番の契りさえ結んでいなければ、エリダ嬢が純潔を失っていても、受け入れる覚悟もあったが… ああ、クソッ! まさか弟と入れ替わるとはな!」
 渋い顔でボルカンは、お行儀悪く執務机の上にドサリッと足を乗せた。


「陛下が男性のオメガは好みではないのは、重々承知しておりますが… それでもカナル殿が、一番の有力候補なのは変わりません」

「分かっている!」
 すでに2人、後宮に側妃候補として入っているが… どちらも、ルイナス公爵家と強い繋がりのある家の出身者だった。

「ですから陛下、番の契りを交わし、子供を産ませれば良いのです… 側妃様を可愛がれとは言いません!」

「だが、本当に大丈夫なのか? 男のオメガは身籠っても、出産するのが困難だというではないか? それで本当に役に立つのか?」

「それは試してみませんと… 正妃様ではなく、側妃様ですから、他にも良い候補がいないかもう一度探しておりますが…」

「もう良い! エリダ嬢の弟を側妃候補として王宮へ呼べ」
 ボルカンは腕組みをして、ガーネットの瞳を閉じた。

「陛下、休憩にはまだ早すぎますよ?」
 有能な宰相パラグアスは、チクリと釘を刺した。


「ああ、分かっている!」





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