7 / 150
6話 願いを叶える機会
しおりを挟む
ため息を1つ吐くと、双子の姉エリダから視線を移し、カナルは兄エレヒルの目を見てたずねた。
「んん、今日? エステパイス王国歴432年、緑の月だが?」
「やっぱり!」
<姉エリダが側妃候補に選ばれたと、王宮からの使者が来る約3ヶ月前だ!! 今ならまだ、じゅうぶん間に合う!!>
濃紺の瞳を閉じて、森の奥深くにある"精霊の棲み処"を思い浮かべて、カナルは薄っすらと微笑んだ。
<そうか! 僕の願いは届き… "夜の精霊"は僕に願いを叶える機会を与えてくれたのだ! 僕は2度と何もしないで後悔するような生き方はしない!!>
指を組み合わせ、"精霊の棲み処"を心の中で思い浮かべ、感謝の祈りと言葉を捧げた。
<心から感謝します! 僕にこの機会を与えて下さって、本当にありがとうございます!!>
胸がいっぱいになり涙がにじみ出たが、カナルは指先でそっとぬぐい…
背後に立つ兄に向き合うと、"夜の精霊"に願った時と同じように、カナルは真摯な心で自分の望みを口にした。
「エレヒル兄上! 姉さ… エリダ姉上とフィエブレ殿の婚姻を早めて下さい! お願いします!! これはとても重要なことなのです!」
いつまでも甘ったれの弟ではないと、印象付けるためにカナルは姉とフィエブレの呼び方を変えた。
<最悪の未来を変えたいのなら、最悪だった僕自身が一番に変わらなければいけない!! オメガだからって、遠慮したり尻込みしたりはしない… 僕は湖で自殺した! あの時の状況を思えば、何も怖くない>
無意識のうちに、カナルは自分のお腹に手を当てそっと撫でる。
「何だ唐突に… それよりお前はなぜ、そこまで冷静なのだ? 容姿だけではなく、性格も変わったようだな…? 信じられないな、本当にカナルなのか?! そもそもなぜ、一夜で髪や瞳の色が変わったのだ?! まさか、悪魔に呪われたのではないか?!」
早くに両親が亡くなり、若くしてエンペサル侯爵となった頼りになる兄エレヒルが、本当にわけがわからないと珍しく不安そうな顔をする。
「悪魔などに呪われてはいませんよ、兄上! 僕の容姿が変わったのは"夜の精霊"の加護を受けたからです! 2人の結婚を急ぐのは、精霊の導きでもあります… ですから、どうか僕の言う通りにして下さい兄上!」
<正式に結婚の初夜を迎え、姉とフィエブレが"番の契り"を交わしてしまえば、国王も側妃にしようとは思わないはずだから… そうすれで、エリダを守れる!>
「"夜の精霊"? 導き?! 何を言い出すかと思えば、あれはおとぎ話ではないか」
「なら兄上は僕の容姿が変貌した理由を、他に説明出来ますか?」
「それは…」
カナルの漆黒の髪に濃紺の瞳を前にして、冷徹な頭脳を持つエレヒルも、ううう~っ! と、唸りながら渋々認めるしかない。
「兄上?」
「だがカナル、"夜の精霊"の加護があったとしてもだ… なぜエリダとフィエブレの結婚を早める必要があるのだ?」
…と、エレヒルが疑問に思うのも当然である。
「それは…」
<僕が経験した未来の出来事を全部、エレヒル兄上に話せれば良いのだけれど… 精霊の話も疑っている状態の兄上が、僕の話を信じるとは思えない! そうやって説得に時間を掛けるうちに、手遅れになったらどうする? その方が怖いよ!!>
う゛う~ん… と今度はカナルが唸り声をあげた。
「カナル?」
「兄上、僕はね…」
チラリとエレヒルを見て、今まで兄と付き合って来た弟としての経験から、今は疑り深くなっている兄に、全て打ち明けるのは、かえって危険だとカナルは感じ取り、別の話をしようと決める。
一歩、近づきカナルは、エレヒルにだけ聞こえるように、ひそひそと話した。
「兄上… 僕はエリダに負けないぐらい、フィエブレを愛しているんだ! だから僕の発情期は抑制剤を飲んでいても、とても辛く重い症状が出るでしょう?」
<別の話でも、これも本当のことだから… 僕は嘘をついているわけではないよ>
「それは…」
どうやらエレヒルも、カナルの片思いに気づいていたらしく、気まずそうに視線を逸らし、フィエブレとエリダを見つめた。
「兄上、この前の発情期も、その前も… 本当に死にたいと思うほど辛くて… 辛くて… フィエブレに愛人でも良いから、僕を抱いて欲しいと懇願しそうになって… それが嫌で、昨夜"精霊の棲み処"まで行って精霊に願ったら、この姿になっていたのさ…」
<何度も"精霊の棲み処"へ行き願ったけれど… 結局、『フィエブレへの愛情を消して欲しい』 という僕の願いは、精霊には届かなかった… 流石に命は捧げなかったけどね>
「カナル…」
慰めるように暖かい手をカナルの肩に置き、エレヒルは困り顔をした。
「2人の結婚は決まっているわけだし… エリダのためにも、出来れば僕に次の発情期が来る前に、なるべく早くね? そうすれば僕も諦めがつくと思うから!」
「んん、今日? エステパイス王国歴432年、緑の月だが?」
「やっぱり!」
<姉エリダが側妃候補に選ばれたと、王宮からの使者が来る約3ヶ月前だ!! 今ならまだ、じゅうぶん間に合う!!>
濃紺の瞳を閉じて、森の奥深くにある"精霊の棲み処"を思い浮かべて、カナルは薄っすらと微笑んだ。
<そうか! 僕の願いは届き… "夜の精霊"は僕に願いを叶える機会を与えてくれたのだ! 僕は2度と何もしないで後悔するような生き方はしない!!>
指を組み合わせ、"精霊の棲み処"を心の中で思い浮かべ、感謝の祈りと言葉を捧げた。
<心から感謝します! 僕にこの機会を与えて下さって、本当にありがとうございます!!>
胸がいっぱいになり涙がにじみ出たが、カナルは指先でそっとぬぐい…
背後に立つ兄に向き合うと、"夜の精霊"に願った時と同じように、カナルは真摯な心で自分の望みを口にした。
「エレヒル兄上! 姉さ… エリダ姉上とフィエブレ殿の婚姻を早めて下さい! お願いします!! これはとても重要なことなのです!」
いつまでも甘ったれの弟ではないと、印象付けるためにカナルは姉とフィエブレの呼び方を変えた。
<最悪の未来を変えたいのなら、最悪だった僕自身が一番に変わらなければいけない!! オメガだからって、遠慮したり尻込みしたりはしない… 僕は湖で自殺した! あの時の状況を思えば、何も怖くない>
無意識のうちに、カナルは自分のお腹に手を当てそっと撫でる。
「何だ唐突に… それよりお前はなぜ、そこまで冷静なのだ? 容姿だけではなく、性格も変わったようだな…? 信じられないな、本当にカナルなのか?! そもそもなぜ、一夜で髪や瞳の色が変わったのだ?! まさか、悪魔に呪われたのではないか?!」
早くに両親が亡くなり、若くしてエンペサル侯爵となった頼りになる兄エレヒルが、本当にわけがわからないと珍しく不安そうな顔をする。
「悪魔などに呪われてはいませんよ、兄上! 僕の容姿が変わったのは"夜の精霊"の加護を受けたからです! 2人の結婚を急ぐのは、精霊の導きでもあります… ですから、どうか僕の言う通りにして下さい兄上!」
<正式に結婚の初夜を迎え、姉とフィエブレが"番の契り"を交わしてしまえば、国王も側妃にしようとは思わないはずだから… そうすれで、エリダを守れる!>
「"夜の精霊"? 導き?! 何を言い出すかと思えば、あれはおとぎ話ではないか」
「なら兄上は僕の容姿が変貌した理由を、他に説明出来ますか?」
「それは…」
カナルの漆黒の髪に濃紺の瞳を前にして、冷徹な頭脳を持つエレヒルも、ううう~っ! と、唸りながら渋々認めるしかない。
「兄上?」
「だがカナル、"夜の精霊"の加護があったとしてもだ… なぜエリダとフィエブレの結婚を早める必要があるのだ?」
…と、エレヒルが疑問に思うのも当然である。
「それは…」
<僕が経験した未来の出来事を全部、エレヒル兄上に話せれば良いのだけれど… 精霊の話も疑っている状態の兄上が、僕の話を信じるとは思えない! そうやって説得に時間を掛けるうちに、手遅れになったらどうする? その方が怖いよ!!>
う゛う~ん… と今度はカナルが唸り声をあげた。
「カナル?」
「兄上、僕はね…」
チラリとエレヒルを見て、今まで兄と付き合って来た弟としての経験から、今は疑り深くなっている兄に、全て打ち明けるのは、かえって危険だとカナルは感じ取り、別の話をしようと決める。
一歩、近づきカナルは、エレヒルにだけ聞こえるように、ひそひそと話した。
「兄上… 僕はエリダに負けないぐらい、フィエブレを愛しているんだ! だから僕の発情期は抑制剤を飲んでいても、とても辛く重い症状が出るでしょう?」
<別の話でも、これも本当のことだから… 僕は嘘をついているわけではないよ>
「それは…」
どうやらエレヒルも、カナルの片思いに気づいていたらしく、気まずそうに視線を逸らし、フィエブレとエリダを見つめた。
「兄上、この前の発情期も、その前も… 本当に死にたいと思うほど辛くて… 辛くて… フィエブレに愛人でも良いから、僕を抱いて欲しいと懇願しそうになって… それが嫌で、昨夜"精霊の棲み処"まで行って精霊に願ったら、この姿になっていたのさ…」
<何度も"精霊の棲み処"へ行き願ったけれど… 結局、『フィエブレへの愛情を消して欲しい』 という僕の願いは、精霊には届かなかった… 流石に命は捧げなかったけどね>
「カナル…」
慰めるように暖かい手をカナルの肩に置き、エレヒルは困り顔をした。
「2人の結婚は決まっているわけだし… エリダのためにも、出来れば僕に次の発情期が来る前に、なるべく早くね? そうすれば僕も諦めがつくと思うから!」
12
今回の名前はスペイン語にお世話になりました。カナル→運河、国王ボルカン→火山、姉エリダ→傷、元夫フィエブレ→熱、兄エレヒル→選ぶ、ルイナス公爵→遺跡、宰相パラグアス→傘、正妃ディアレア→下痢、補佐官ベンタナ→窓、叔父インセンディオ→火事、 ○ ○ やっぱり外国語の響きは面白いですね( ´∀` )
お気に入りに追加
592
あなたにおすすめの小説


侯爵令息セドリックの憂鬱な日
めちゅう
BL
第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける———
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
名もなき花は愛されて
朝顔
BL
シリルは伯爵家の次男。
太陽みたいに眩しくて美しい姉を持ち、その影に隠れるようにひっそりと生きてきた。
姉は結婚相手として自分と同じく完璧な男、公爵のアイロスを選んだがあっさりとフラれてしまう。
火がついた姉はアイロスに近づいて女の好みや弱味を探るようにシリルに命令してきた。
断りきれずに引き受けることになり、シリルは公爵のお友達になるべく近づくのだが、バラのような美貌と棘を持つアイロスの魅力にいつしか捕らわれてしまう。
そして、アイロスにはどうやら想う人がいるらしく……
全三話完結済+番外編
18禁シーンは予告なしで入ります。
ムーンライトノベルズでも同時投稿
1/30 番外編追加


白金の花嫁は将軍の希望の花
葉咲透織
BL
義妹の身代わりでボルカノ王国に嫁ぐことになったレイナール。女好きのボルカノ王は、男である彼を受け入れず、そのまま若き将軍・ジョシュアに下げ渡す。彼の屋敷で過ごすうちに、ジョシュアに惹かれていくレイナールには、ある秘密があった。
※個人ブログにも投稿済みです。

今夜のご飯も一緒に食べよう~ある日突然やってきたヒゲの熊男はまさかのスパダリでした~
松本尚生
BL
瞬は失恋して職と住み処を失い、小さなワンルームから弁当屋のバイトに通っている。
ある日瞬が帰ると、「誠~~~!」と背後からヒゲの熊男が襲いかかる。「誠って誰!?」上がりこんだ熊は大量の食材を持っていた。瞬は困り果てながら調理する。瞬が「『誠さん』って恋人?」と尋ねると、彼はふふっと笑って瞬を抱きしめ――。
恋なんてコリゴリの瞬と、正体不明のスパダリ熊男=伸幸のお部屋グルメの顛末。
伸幸の持ちこむ謎の食材と、それらをテキパキとさばいていく瞬のかけ合いもお楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる