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6話 願いを叶える機会
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ため息を1つ吐くと、双子の姉エリダから視線を移し、カナルは兄エレヒルの目を見てたずねた。
「んん、今日? エステパイス王国歴432年、緑の月だが?」
「やっぱり!」
<姉エリダが側妃候補に選ばれたと、王宮からの使者が来る約3ヶ月前だ!! 今ならまだ、じゅうぶん間に合う!!>
濃紺の瞳を閉じて、森の奥深くにある"精霊の棲み処"を思い浮かべて、カナルは薄っすらと微笑んだ。
<そうか! 僕の願いは届き… "夜の精霊"は僕に願いを叶える機会を与えてくれたのだ! 僕は2度と何もしないで後悔するような生き方はしない!!>
指を組み合わせ、"精霊の棲み処"を心の中で思い浮かべ、感謝の祈りと言葉を捧げた。
<心から感謝します! 僕にこの機会を与えて下さって、本当にありがとうございます!!>
胸がいっぱいになり涙がにじみ出たが、カナルは指先でそっとぬぐい…
背後に立つ兄に向き合うと、"夜の精霊"に願った時と同じように、カナルは真摯な心で自分の望みを口にした。
「エレヒル兄上! 姉さ… エリダ姉上とフィエブレ殿の婚姻を早めて下さい! お願いします!! これはとても重要なことなのです!」
いつまでも甘ったれの弟ではないと、印象付けるためにカナルは姉とフィエブレの呼び方を変えた。
<最悪の未来を変えたいのなら、最悪だった僕自身が一番に変わらなければいけない!! オメガだからって、遠慮したり尻込みしたりはしない… 僕は湖で自殺した! あの時の状況を思えば、何も怖くない>
無意識のうちに、カナルは自分のお腹に手を当てそっと撫でる。
「何だ唐突に… それよりお前はなぜ、そこまで冷静なのだ? 容姿だけではなく、性格も変わったようだな…? 信じられないな、本当にカナルなのか?! そもそもなぜ、一夜で髪や瞳の色が変わったのだ?! まさか、悪魔に呪われたのではないか?!」
早くに両親が亡くなり、若くしてエンペサル侯爵となった頼りになる兄エレヒルが、本当にわけがわからないと珍しく不安そうな顔をする。
「悪魔などに呪われてはいませんよ、兄上! 僕の容姿が変わったのは"夜の精霊"の加護を受けたからです! 2人の結婚を急ぐのは、精霊の導きでもあります… ですから、どうか僕の言う通りにして下さい兄上!」
<正式に結婚の初夜を迎え、姉とフィエブレが"番の契り"を交わしてしまえば、国王も側妃にしようとは思わないはずだから… そうすれで、エリダを守れる!>
「"夜の精霊"? 導き?! 何を言い出すかと思えば、あれはおとぎ話ではないか」
「なら兄上は僕の容姿が変貌した理由を、他に説明出来ますか?」
「それは…」
カナルの漆黒の髪に濃紺の瞳を前にして、冷徹な頭脳を持つエレヒルも、ううう~っ! と、唸りながら渋々認めるしかない。
「兄上?」
「だがカナル、"夜の精霊"の加護があったとしてもだ… なぜエリダとフィエブレの結婚を早める必要があるのだ?」
…と、エレヒルが疑問に思うのも当然である。
「それは…」
<僕が経験した未来の出来事を全部、エレヒル兄上に話せれば良いのだけれど… 精霊の話も疑っている状態の兄上が、僕の話を信じるとは思えない! そうやって説得に時間を掛けるうちに、手遅れになったらどうする? その方が怖いよ!!>
う゛う~ん… と今度はカナルが唸り声をあげた。
「カナル?」
「兄上、僕はね…」
チラリとエレヒルを見て、今まで兄と付き合って来た弟としての経験から、今は疑り深くなっている兄に、全て打ち明けるのは、かえって危険だとカナルは感じ取り、別の話をしようと決める。
一歩、近づきカナルは、エレヒルにだけ聞こえるように、ひそひそと話した。
「兄上… 僕はエリダに負けないぐらい、フィエブレを愛しているんだ! だから僕の発情期は抑制剤を飲んでいても、とても辛く重い症状が出るでしょう?」
<別の話でも、これも本当のことだから… 僕は嘘をついているわけではないよ>
「それは…」
どうやらエレヒルも、カナルの片思いに気づいていたらしく、気まずそうに視線を逸らし、フィエブレとエリダを見つめた。
「兄上、この前の発情期も、その前も… 本当に死にたいと思うほど辛くて… 辛くて… フィエブレに愛人でも良いから、僕を抱いて欲しいと懇願しそうになって… それが嫌で、昨夜"精霊の棲み処"まで行って精霊に願ったら、この姿になっていたのさ…」
<何度も"精霊の棲み処"へ行き願ったけれど… 結局、『フィエブレへの愛情を消して欲しい』 という僕の願いは、精霊には届かなかった… 流石に命は捧げなかったけどね>
「カナル…」
慰めるように暖かい手をカナルの肩に置き、エレヒルは困り顔をした。
「2人の結婚は決まっているわけだし… エリダのためにも、出来れば僕に次の発情期が来る前に、なるべく早くね? そうすれば僕も諦めがつくと思うから!」
「んん、今日? エステパイス王国歴432年、緑の月だが?」
「やっぱり!」
<姉エリダが側妃候補に選ばれたと、王宮からの使者が来る約3ヶ月前だ!! 今ならまだ、じゅうぶん間に合う!!>
濃紺の瞳を閉じて、森の奥深くにある"精霊の棲み処"を思い浮かべて、カナルは薄っすらと微笑んだ。
<そうか! 僕の願いは届き… "夜の精霊"は僕に願いを叶える機会を与えてくれたのだ! 僕は2度と何もしないで後悔するような生き方はしない!!>
指を組み合わせ、"精霊の棲み処"を心の中で思い浮かべ、感謝の祈りと言葉を捧げた。
<心から感謝します! 僕にこの機会を与えて下さって、本当にありがとうございます!!>
胸がいっぱいになり涙がにじみ出たが、カナルは指先でそっとぬぐい…
背後に立つ兄に向き合うと、"夜の精霊"に願った時と同じように、カナルは真摯な心で自分の望みを口にした。
「エレヒル兄上! 姉さ… エリダ姉上とフィエブレ殿の婚姻を早めて下さい! お願いします!! これはとても重要なことなのです!」
いつまでも甘ったれの弟ではないと、印象付けるためにカナルは姉とフィエブレの呼び方を変えた。
<最悪の未来を変えたいのなら、最悪だった僕自身が一番に変わらなければいけない!! オメガだからって、遠慮したり尻込みしたりはしない… 僕は湖で自殺した! あの時の状況を思えば、何も怖くない>
無意識のうちに、カナルは自分のお腹に手を当てそっと撫でる。
「何だ唐突に… それよりお前はなぜ、そこまで冷静なのだ? 容姿だけではなく、性格も変わったようだな…? 信じられないな、本当にカナルなのか?! そもそもなぜ、一夜で髪や瞳の色が変わったのだ?! まさか、悪魔に呪われたのではないか?!」
早くに両親が亡くなり、若くしてエンペサル侯爵となった頼りになる兄エレヒルが、本当にわけがわからないと珍しく不安そうな顔をする。
「悪魔などに呪われてはいませんよ、兄上! 僕の容姿が変わったのは"夜の精霊"の加護を受けたからです! 2人の結婚を急ぐのは、精霊の導きでもあります… ですから、どうか僕の言う通りにして下さい兄上!」
<正式に結婚の初夜を迎え、姉とフィエブレが"番の契り"を交わしてしまえば、国王も側妃にしようとは思わないはずだから… そうすれで、エリダを守れる!>
「"夜の精霊"? 導き?! 何を言い出すかと思えば、あれはおとぎ話ではないか」
「なら兄上は僕の容姿が変貌した理由を、他に説明出来ますか?」
「それは…」
カナルの漆黒の髪に濃紺の瞳を前にして、冷徹な頭脳を持つエレヒルも、ううう~っ! と、唸りながら渋々認めるしかない。
「兄上?」
「だがカナル、"夜の精霊"の加護があったとしてもだ… なぜエリダとフィエブレの結婚を早める必要があるのだ?」
…と、エレヒルが疑問に思うのも当然である。
「それは…」
<僕が経験した未来の出来事を全部、エレヒル兄上に話せれば良いのだけれど… 精霊の話も疑っている状態の兄上が、僕の話を信じるとは思えない! そうやって説得に時間を掛けるうちに、手遅れになったらどうする? その方が怖いよ!!>
う゛う~ん… と今度はカナルが唸り声をあげた。
「カナル?」
「兄上、僕はね…」
チラリとエレヒルを見て、今まで兄と付き合って来た弟としての経験から、今は疑り深くなっている兄に、全て打ち明けるのは、かえって危険だとカナルは感じ取り、別の話をしようと決める。
一歩、近づきカナルは、エレヒルにだけ聞こえるように、ひそひそと話した。
「兄上… 僕はエリダに負けないぐらい、フィエブレを愛しているんだ! だから僕の発情期は抑制剤を飲んでいても、とても辛く重い症状が出るでしょう?」
<別の話でも、これも本当のことだから… 僕は嘘をついているわけではないよ>
「それは…」
どうやらエレヒルも、カナルの片思いに気づいていたらしく、気まずそうに視線を逸らし、フィエブレとエリダを見つめた。
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<何度も"精霊の棲み処"へ行き願ったけれど… 結局、『フィエブレへの愛情を消して欲しい』 という僕の願いは、精霊には届かなかった… 流石に命は捧げなかったけどね>
「カナル…」
慰めるように暖かい手をカナルの肩に置き、エレヒルは困り顔をした。
「2人の結婚は決まっているわけだし… エリダのためにも、出来れば僕に次の発情期が来る前に、なるべく早くね? そうすれば僕も諦めがつくと思うから!」
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