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5話 変貌2
しおりを挟む「うわあぁぁ~っ! 信じられない! これが僕だなんて…?!」
鏡にぐっと顔を近づけ、カナルは自分の瞳を凝視した。
瞳の色と髪色が違うだけで、カナル自身が見ても別人に見え…
それも珍しい漆黒の髪色と、濃紺の瞳の色は、異国人だと言われても不思議ではない。
<この色調は、あの湖の色に似ている… "夜の精霊" が実在したら、きっとこんな姿ではないのかなぁ?>
カナルはふと想像して、微笑む。
「どうだ… カナル?! 私たちが一目でお前だと分からなかった理由が、理解できたか?」
「確かに、この容姿を見たらピエが叫び声を上げて、僕の前から怯えて逃げ出しても、あまり責められないね… でも兄上、いきなり剣を抜いて不審者扱いはどうかと、思うけど?」
「少々、大袈裟だったのは認めるが、それだけお前のことが心配だったのだから、仕方ないだろう?」
「ふふふふっ… 分ったよ兄上、今日はそう言うことにしておくよ」
顔をしかめて弁解をする兄に、カナルは苦笑した。
<それにしても、自分で言うのもなんだけど… すごく綺麗だ! 一生このまま、元の色には戻らないかも知れないけれど、僕は一度死んで生まれ変わったのだから、色が違う方が良いのかも知れないし!>
慣れ親しんだ自分本来の色とは違う、漆黒の髪や濃紺の瞳を鏡をのぞく度に見れば、カナルは何のためにやり直しの機会を"夜の精霊"に与えられたかを再確認できると考えた。
『僕はエンペサル侯爵家の次男カナル、"夜の精霊"よ!! どうか… どうか… 僕のせいで不幸になった人たちを、救って下さい!!』
<僕の真摯な願いが精霊に聞き届けられた証拠なんだよね? 最悪の未来を知るのは僕だけだから、みんなが幸せになれるかは、僕の行動次第なんだ!!>
「こうなったら、何時までも子供みたいに、ぼんやりとはしていられないなぁ?」
鏡に映る見慣れない自分に、問いかけるように見つめられ… 艶やかな黒髪を指先で一房取り、カナルは触れてみる。
<ふふふっ… 見掛けは変化したけれど… 本当に不思議だなぁ?! 以前の月光色の髪と同じ、くにゃくにゃと柔らかな感触だし>
「それでカナル? いったい、お前に何が起きているのだ?!」
以前のカナルと同じ、月光色の金髪と灰色の瞳を持つ兄エレヒルが、眉間にしわを寄せて背後に立つと、カナルと一緒に並んで鏡に映り込む。
「・・・・・・」
<わぁ… こうして見ると、血の繋がりがある実の兄弟には見えないなぁ!>
まだ警戒をしたままのフィエブレに、カナルとの接触を止められ、動きを制限されて不満そうな双子の姉エリダを、カナルは振り返って見た。
男女の差はあっても、自分とよく似た月光色の髪と灰色の瞳を持つ双子の姉エリダとも…
今の姿に変貌したカナルとはまったく似ていない。
「兄上! 今日は、何年の何月ですか?」
<一番最初に、僕がやらなければならないことは、姉エリダの命を救うことだ… 悲劇の始まりを止めないとね!>
ため息を1つ吐くと、エリダから視線を移し、カナルはエレヒルの目を見てたずねた。
「んん、今日? エステパイス王国歴432年、緑の月だが?」
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