アルファの初恋に、溺愛はツキモノ

３話 発覚 近江side

　グイッ…　と、神田は部屋着を上げて、近江の乳首を隠す。


「正気かよ、アンタ？！　アルファと同じ部屋に泊まって…　そのうえ裸になるなんて！！　信じらんねぇっ！！　センパイじゃなければ、尻軽がオレを誘惑していると思うぞ？！」

　近江に怒鳴り散らしながら、神田は後ずさって近江のベッドから離れた。


「仕方ないだろう！　事務の子が１部屋しか取れないって…　その話、お前だって側で聞いていただろう？　僕だって出来れば避けたかったさ！！」

　カッ…　と腹を立てて近江は後ずさった神田を睨にらみ付ける。


「アンタ、オメガだろう？！　だったらそう言えば事務の子だって、違うホテルを探して2部屋取ったに決まっているじゃないか！！」

　 オメガのフェロモンを吸わないように、鼻と口を手で押さえ神田は怒鳴り散らす。


「ソレでコツコツ積み上げて来た実績を台無しにして、偏見の目で見られるようになれと言うのか？！　僕がココまでどれだけ苦労して来たと思っているんだ？！」



　大学時代、近江自身が努力して良い成績をキープし続けただけで…
　＂教授と寝ている＂　と信じられないようなウワサまで流された。

　成績でも近江に負け、容姿でも近江に負けた、女子にモテないベータ男子たちの醜みにくい嫉妬は、常に近江の心を疲れさせ傷つけ続けた。

　人口の１～２割しか存在しないオメガとアルファは、芸能人並みに人目を引く。

　オメガ特有の優美な容姿を目当てに、ベータの女子学生たちに囲まれていた近江は…
　発情期がアリ、子供が産めるという理由で、ベータ男子たちは大袈裟おおげさに騒ぎ、近江を尻軽扱いし下半身がダラシナイと蔑さげすんだ。

　同じようにモテるベータ女子は、陰で遊んでいても、近江ほどヒドくは言われないのにだ。



「ソレとコレは別だろう？！」

　イライラと神田は顔をしかめた。


「そもそもお前が泥酔でいすいしなければ、僕がオメガだと気付かなかったはずだ！　何もかも僕のせいにしているけど、お前が出張先で大酒飲んで眠るようなコトしなければ、こんなコトにはならなかったさ！！」

＜なぜいつも、オメガだからと一方的に僕が責められなければならないんだ？！＞

　近江はここぞとばかりに、牙を剥むいた。


「何だと？！」

「今まで僕が、お前にどんな迷惑かけたと言うんだよ？　お前の方がずっと僕に甘えていたよな？！　違うか神田！？」

　オメガの近江は極力、仕事以外ではアルファの神田とは関わらないようにしている…
だからこそ、神田も今まで近江がオメガだと気づかなかったのだ。


「オレはそんなコトが言いたくて、怒ったワケじゃない…　アルファのオレを前にして、アンタが無防備過ぎると言っているダケだ！」

　普段から近江に甘えている自覚があるらしく、痛いところを突かれたと、神田の怒鳴り声が弱まる。


「…神田、お前は性的対象に見れないから、男のオメガが相手では勃たたないと、大声で言っていなかったか？　ベータの同僚たちに」

　いかにも性差別的な神田の発言を、逆手にとって近江は攻撃した。


「なっ…！！　アレはアルファはオメガなら誰でも良いと、言われて好みがあると言ったダケで…」

「どうせ勃たたない奴を相手に、何で僕が怯おびえなくてはイケナイのさ？　違うか、神田？！」

　顔を赤くして神田は歯を食いしばった。

　近江は神田の怒りに火を付けたのが分かり、一瞬たじろいだが…
　怒っているのは近江も同じで、簡単に責めるのを止められない。


「勃たたないと言ったのは、好みとは違うという意味だってコトぐらい、普通わかるだろう？！　オレの上げ足取って、センパイこそ変に捻ねじ曲げるなよ！！」


「どちらにしても、僕はお前の対象外だから、その気は起きないハズだ！」

　クダラナイ話だと、近江はフンッと鼻を鳴らし嘲あざ笑う。


「そんな言い方されると、まるで自分を抱いて試してみろと、言っているように聞こえるけど？！」

　怒鳴り声を上げた神田が飛びついて来て、近江はベッドに押し倒されてしまう。


「何をするんだ？！　重い…！　重いからどけよ神田！」

　震えそうな声を近江は何とか冷静に保ち、神田を睨にらみ付けるが…


「あんだけオレを挑発しておいて、今頃怯おびえているのかよ？　もう遅いよ近江センパイ！　センパイがオレを発情させたんだから、責任は取ってもらうよ！？」



　怒りで瞳をギラギラ光らせながら、神田に唇を奪われ近江は言葉を封じられた。