アルファの初恋に、溺愛はツキモノ

1話 出張先で。 神田side

　出張先のホテルで、２人は小さな机をはさみ祝杯をあげる。

「粘ったダケの価値がありましたね、近江おうみセンパイ！！」

「今日は良くやった、神田クンもお疲れ様！」
　
　冷静沈着れいせいちんちゃくな先輩の近江が微笑むと、綺麗な顔が10倍増して美形に見えた。


「あああ～っ！！　ビール美味っ！！　最高～っ！！」

　ホテルに備え付けのショボい部屋着を着て、　神田は袖をまくり上げゴクゴクと２本目の缶ビールをのみ干す。


「オイオイ、神田クン！　あんまり飲み過ぎるなよ？　明日も仕事あるんだからな！」

「分かってますって～！　近江セン～パイ！」　

　甘えるように神田は、先輩の近江を上目使いで見てニカッ…　と笑った。


　各界で名立たるアルファを生み出す名家に生まれた神田センリは、優秀な遺伝子を持つアルファとして生まれたが…

　運悪く、子供の頃に気管支喘息きかんしぜんそくを患わずらい、ソレを克服するために小学生の頃から続けて来た水泳のおかげで、身長は１８０cmを越え、胸板は厚く肩幅は広くと、見るからにアスリート体型へと成長した。

　その体格から、パッと見は甘えても可愛く見えるような男では無いが、根っからの末っ子体質が、神田を何となく可愛らしく見せている。


「本当に分かっているのか？　困った奴だな」

　ヤレヤレとあきれたという顔をしながら…
　先輩社員の近江ヒロキも例外なく、神田にほだされてついつい甘やかしてしまう年長者の１人だった。

　困った顔をする近江の方が、缶ビール一本で酔ったのか…
　頬だけでなく、ほんのり首や胸の辺りが薄紅色に染まり、妙にエロい空気をかもし出している。
　

「・・・・・っ」

　自分と同じホテルに備え付けられた、ショボい部屋着を来ているのに…

　なぜかメチャクチャ艶っぽく見える近江にドキリッ…　と神田の胸の中で心臓が跳はねた。

＜いつも思うけど…　近江センパイってベータなのに、オメガっぽく見えるよなぁ…　今まで全然フェロモン感じたコトが無いし、ベータなのは確実だけど…＞



　オメガは発情期以外でも微量のフェロモンを発散している。

　そのフェロモンを嗅ぎ分ける能力がアルファにはアリ、たとえ抑制剤を服用していても、アルファの前にオメガが出れば、スグに感知出来るのだ。


　…だが、例外はある。


　オメガに"番"つがいが存在する場合、フェロモンは変質し…

　"番"つがいのアルファにしか、嗅ぎ分けられなくなるからだ。